ギリシャ問題の現状
2015年7月、ギリシャ議会はEU側から支援を受けるための条件となっていた財政再建案の関連法案を可決した。これを受けて、EU側はギリシャ政府につなぎ融資を行う方針で当面の債務返済に目途はついたものの、今後も目が離せない。そこで、国を分析する際に用いる国家分析(ACL分析)でギリシャ問題を考えたいと思う。
国家分析は“公的権威”と“社会”の関係を見る枠組み
分析する前に枠組み(論点)を決めることが重要だ。今回は以下の3つの枠組みで分析していく。
1.独立性(Autonomy): 社会的利害から独立して国家自身の利益を構築する国家の能力を言う。例えば農協、医師会など利益団体の影響に政府が振り回されていないか。
2.キャパシティ(Capacity): 基本的な政治・経済の機能を果たす能力を言う。例えば、基本的な国家機能(司法・立法・行政・治安・軍事など)は遂行されているか。
3.正当性(Legitimacy): 国家とその指導者に対する社会の信頼を言う。例えば人民が国家・指導者が正当であると考え、国家・指導者に従うことが正しいと考えているか。
実際に分析してみると…?
1.低い独立性: ポピュリズムが招いた歳出拡大
旧通貨ドラクマ建てで20%だったギリシャ国債の金利水準は、1999年から始まったユーロ建てで発行することで5%と劇的に利払い負担を軽減できた。しかし、低利での資金調達を財政健全化や産業の活性化に活かさず、国民の人気取り政策(ポピュリズム)から失業者を公務員に採用するなど非効率な歳出拡大を行った。こうした身の丈に合わない歳出が今の財政危機に繋がっている。
2.低いキャパシティ: 徴税能力の低さ
国家財政において歳入の基本は税収だが、ギリシャでは徴税能力の低さが問題となっている。例えば、脱税や税務署職員の汚職などが蔓延していることが挙げられる。加えて各種税控除が多すぎて課税ベースが小さくなっていることや課税対象とならないアングラ経済が多すぎる点などが問題となっている。
3.低い正当性: 国家に対する不信感から国外脱出
富裕層が大口預金を海外に移転したことや、起業家が国外脱出を検討しているなどギリシャで腰を据えて活動を行えない状況が現実。最近では、ギリシャがEUを離脱した際に、国外脱出を図るためのパスポート申請が急増しているなど国に対する不信感を感じさせる。
ギリシャは結局どうなる?
このように、国家分析をすると戦略だけではなく実行力まで浮き彫りになる。ギリシャの国家としての課題は政治体制・文化・考え方などに起因し、問題は根深いことから簡単には変えられないだろう。ユーロ離脱の有無に関わらずギリシャの混迷は続くと思われる。