働き方の多様化が求められる中、本書では、未来の働き方は「フリーエージェント」が主流になると提言している。多くの個人を抱える固定的な大組織ではなく、小規模で柔軟なネットワークでの働き方-フリーエージェント・モデルに移行していくという。その背景には、中流層の生活水準が高まり、生活の糧を稼ぐことのみならず、やりがいを仕事に求めるようになったことが挙げられている。とは言え、本書はそうした働き方の提言だけにとどまらず、自己の価値観、職業観、ひいては人生観を問う内容になっている点が面白い。
まずフリーエージェントの特徴としては、従来、個人が組織や上司に示していた「タテの忠誠心」ではなく、「ヨコの忠誠心」を持っているとしている。「ヨコの忠誠心」とは、考え方や理念が一致する人同士で繋がる、ゆるやかなコミュニティに対しての忠誠心だ。そして、彼らの仕事に対する姿勢は、「テイラーメード主義」。現存するルールや価値観ではなく、すべて自分の考えに応じて仕事の仕方を決めていくというものである。
本書の初版が刊行された2002年時点で、アメリカでは既に、4人に1人がフリーエージェント的な働き方をしていたという。著者であるダニエル・ピンク氏もその1人である。米政権下でスピーチライターとして仕事をしてきたが、その地位を捨て、その後はフリーエージェントとして記事や論文執筆を行っている(本人としては地位を「捨てた」ではなく「選んだ」のであろう)。
組織に属していても、人はフリーエージェント的な働き方をしたほうが仕事への満足度は高いそうだ。報酬の高さよりも、自分で仕事をデザインし、休暇の取りやすさや学ぶ機会が豊富にあるほうが満足度は高い。
フリーエージェントの働き方は、組織に属する場合と異なり、時間的・空間的に、仕事とプライベートの境界線は曖昧なものになる。日本でも、カフェやコワーキングスペースといった「サードプレイス」と呼ばれる空間で仕事をする光景が当たり前になってきている。就労形態としては組織に属していても、ビジネスパーソン達の労働観は徐々に変わりつつあるのだろう。会社から与えられる働き方の枠に留まらず、自分自身で作り上げた仕事を通して自分らしさを表現しようとする風潮の高まりを感じる。
あるいは、組織に属しながらも、「二枚目の名刺」を持ち、会社とは異なるコミュニティにも関わりを持つ人も周囲に増えているように感じる。私自身も、グロービスに勤務しながら、任意団体でのボランティアを続けていたり、NPO法人の寄付会員になったりしている。
新卒で“就社”し、会社がキャリアのレールを敷いてくれる時代は過ぎた。所属している会社や今の仕事が5年後も存在する保証はどこにもないのだ。すなわち、キャリアや生き方は、自分で選択しなければならない時代になった。他人が作ったものさしではなく、自分のものさしで生きていかなければ著しく不幸になってしまう時代が目の前に来ているのだ。
その一方で、自己の価値観、職業観、人生観をはっきりと認識している人はどれほどいるのだろうか。価値観を深く見つめる機会を持ったり、教育を受けたりした経験がある人は多くはないだろう。そしてその価値観を周囲に伝え、コミュニティに入り仲間を得ようとしている人はどれほどいるだろうか。自分の生き方の軸を持つことが今後ますます求められることを強く感じる一冊である。