「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産への登録について撤回を求めていた韓国が、6月21日に行われた日韓の外相間の会談を踏まえ、反対はせず、両国が協力することで一致したという。なぜ韓国がこのような選択をしたのか「ディシジョン・ツリー」で整理してみよう。
反対を表明していたことを考えると、韓国側の目算では、反対した場合の利得(A×p)から損失分(B×q)を引いた方が、賛成した場合の損得(C)よりも大きかったのだと推測される。
これが、賛成に転じたということを考えると、反対した場合の利得の期待値(A×p)が小さくなる、損失の期待値(B×q)が大きくなる、もしくは、賛成した場合の損得の期待値(C)が大きくなり、結果として右辺=賛成した場合の期待値が左辺=反対した場合の期待値よりも大きくなったということが想定できる。
実際に起こったことを推測も含めてではあるが、当てはめてみよう。
まず、Cについては、韓国側が「戦時中に朝鮮人労働者が強制徴用された施設が含まれている」と指摘していたことに対し、日本側が、歴史的な事実関係の範囲内で明示すると説明し、一定の配慮をみせたという報道がある。日本との交渉において、Cの価値があがったと考えられる。
さらに、世界遺産委員会の委員国から韓国に対して、投票によって各国が日韓どちらを支持するか態度を明確にしなければならないような事態は避けて欲しい、という要請があったと言われている。その場合、反対した場合の利得Aが小さくなり、反対した場合の損失Bが大きくなったと整理できる。
そして、これはあくまでも推測だが、韓国が投票へ向けて各国に支持してもらうよう働き掛けをする中で、当初想定していた否決される確率p%が想定よりも高くないということが見えてきたのではないだろうか。
だとすると、5つの変数すべてが、賛成するという方向に動いていた可能性もある。
本来、ディシジョン・ツリーは具体的な数値A、B、Cや確率を設定し、どの選択肢をとることに合理性があるのかを判断していくものだ。一方で、定量化が難しい場合や確率が算出できない場合は、利用が難しいと言われている。
ただ、今回のように正確に数値にまで反映しなくとも、
・影響を与える要素を明らかにすることができること
・相手の意思決定がどのように決まるのかのメカニズムの理解
・どのような方向性で働きかけを行えば相手の意思決定に影響を与えることができるのか
などを考えていくことも可能だ。ぜひ活用してみてはいかがだろう。