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日本法曹界の量、質、そして制度面での拡充を!

投稿日:2014/09/05更新日:2019/04/09

初稿執筆日:2014年9月5日
第二稿執筆日:2016年6月20日

今回も数字から入ってみたい。

「アメリカ:日本=397:34」

 直近の数字だが、実に12倍の開きがある。

 日米の人口10万人あたりの法曹人口の格差だ。

 日本は欧米に比べて、弁護士の数、裁判官、検事を含めた法曹人口が少ないと言われてきた。このため、日本でも弁護士などの法曹人口を増やし、法曹の質を高めようと、ロースクールの導入などが行われたわけだが、ここで、もう1つの数字を見て欲しい。

「93%」

 日本にあるロースクールで、定員割れを起こしている学校の割合だ(2014年)。異常な数字だ。

 経済や社会のグローバル化の流れの中で、ビジネスの世界においても行政の世界においても確実にリーガルイシューのニーズは高まっているにも関わらず、日本の法曹界はいびつな司法制度改革によって、ロースクールにも法曹を目指す人材が集まらず、危機的状況に瀕しているといえる。日本の法曹界の競争力を底上げする改革が必要だ。

1. 法曹人口:法曹人材を増やし、活躍の場を積極的に拡げよ!

 1999年に始まった司法制度改革では、法曹人口を増やすため、それまで年間500人だった司法試験合格者を3000人まで拡大する計画を立てた。

 しかし、法曹、特に弁護士の急増は、司法試験合格者の就職難などの問題を引き起こしたため、日弁連を中心に、法曹人材の質の低下などの問題があるとして、司法試験合格者数を減らすべきという主張が続けられた。現在、実際の司法試験合格者は、当初の計画よりも少ない年間約2000人で推移している。

 実際、2000年頃には約2万人だった法曹人口は、2015年には約4万1000人となり、特に弁護士は約1万7000人から約3万6000人と倍以上になっている。このことは評価すべきだ。

 しかし、法曹人口が急拡大した現在においてすら、日本の法曹人口は欧米に比べるとまだまだ少ない。冒頭でも述べたが、法務省の資料によると、

人口10万人あたりの法曹人口は、

 アメリカ 397人
 イギリス 250人
 ドイツ  234人
 フランス 103人

であるのに対し、

日本 34人

社会や文化的な構造が異なるとはいえ、アメリカの12分の1、イギリスやドイツの7分の1といった法曹人口であるのに、「急激に増えすぎていて異常事態だ」というのは言い過ぎであろう。

 ポイントは、欧米と同様に法曹人材の活躍の場を増やすことだろう。法曹資格をもった人材が、法律の専門家ではなくジェネラリストとして、経営、行政など幅広い分野で活躍するのは、欧米では当たり前だ。

 民間企業の活動領域においては、国際分野、企業法務の分野など今後ますます法曹有資格者の活動領域の拡大が必要とされる分野が大きい。加えて、裁判官・検察官・国際司法など、行政の分野でも潜在需要は大きい。

 現状においては、法曹人口の拡大に、法曹人材の活用の拡大が追いついていないが、法曹界だけでなく、民間企業、行政が一体となって、日本の法曹人材の徹底活用を進めるべきだ。

 加えて、供給の面では、法曹人材の活用が進むような多様な人材が供給される仕組みづくりも必要だ。

 例えば、医師、公認会計士、税理士、弁理士、技術士、一級建築士などの専門職の有資格者や一定年数の業務従事経験者、外国における弁護士有資格者については、別枠で優遇されるような司法試験の制度設計を行えば、社会的ニーズのある専門性の高い人材が法曹界に供給されることになる。

 医師免許を持ち、弁護士でもある参議院議員である古川俊治氏は、次の通り指摘する。「法曹人口の拡大は望ましいが、前提として、質の高い法曹であることが必要。昨今の司法制度改革の中で、法曹人口の量的拡大は進んだが、OJTなどの質の高い法曹を育成するプロセスが伴わなかった。国際業務や行政で法律専門家として活躍するに足る実務能力を身につけた法曹を、より多く育てることができるよう、制度の見直しが必要である。」

 いずれにせよ、法曹に供給される人材の多様化、法曹人材の徹底活用によって、日本の法曹の質、量の面での底上げを進めるべきだ。

 本稿の初稿を発表した後の2015年6月、政府は、この問題について専門家による議論を重ねていた法曹養成制度改革推進会議において、司法試験合格者数を「年間1500人程度以上」などとする方針を決定した。実際、司法試験の合格者数は、本稿の初稿執筆後の2014年、2015年はやや少なめの1800人台で推移した。合格者数年1500人という数字は、当初目標の3000人からみると半分という大幅な下方修正となる。今後の制度改革の方向性は、「法曹人材を増やし、活躍の場を積極的に拡げる」という100の行動の提言に沿った形が望ましい。

2. ロースクール:ロースクールの淘汰を進め、競争力を高めよ!司法試験に合格するためだけの大学院から脱却を!

 日本のロースクール制度は、明らかに失敗していると言えよう。近年では、日本のロースクールは定員割れが続出し、当初5610人を数えた入学者は、近年は毎年500人規模でどんどん減少している。2014年は、なんと定員総数の約6割の2300人を下回り、日本にあるロースクールの93%が定員割れを起こしている。その後も学生の法科大学院離れは止まらず、2016年春の入学者数は計1857人まで減少、ロースクール合計45校中43校で定員割れとなる惨状が続いている。

 なぜ、そんなことになったのか。それは当初の制度設計に問題があったと思われる。司法制度改革で導入された日本のロースクールは、設立認可にあたって準則主義(一定の基準さえ満たしていれば設立が認可される仕組み)が採られたため、法学部を持つ大学の多くは、「ロースクールを持っていないと学生が集まらない」というブランド志向でロースクールを次々と設置。競争力の低いロースクールが乱立する事態となったのだ。

 実際、海外のロースクールは、一定の実務経験を積んだ上で、外国法を学んだり、専門分野を深めたりするために入学することが多い一方で、日本のロースクールは、日本の司法試験を受験することだけを目的としており、国際化の中では、遙かに遅れをとっている。

 今後、日本のロースクールの淘汰を進めるとともに、既に日本や外国の法曹資格を得た法律家が、国際法を学んだり、専門分野を開拓したりするために入学するような、単なる司法試験受験とは異なる目的をもった大学院へと改革し、競争力を高めるべきである。(前述の古川俊治氏)

 弁護士の永沢徹氏が指摘するように、司法試験の合格率で足切りをして、一定の合格率に達しないロースクールを強制的に廃校にするという荒療治も考えられる。だが、そのようなロースクールにも有為な人材や教員がいることを考えると合格者数で定員を絞る方がより合理的であろう。具体的には、合格者数の1.2倍くらいに定員を絞れば、各ロースクールの卒業者の8割以上が法曹になれることになり、より有為な人材がロースクールに集まってくることになる。

 司法試験合格者数で定員を絞る仕組みにすれば、各ロースクールは定員を維持するため、他のロースクールとの合併、統合を進めることになろう。そのことによって、競争力の低いロースクールの資源(人員や教員の内で有為な人材)を有効活用することも可能になる。

 そういったプロセスを経て、競争力の高い、厳選されたロースクールが生き残っていくのが望ましい。いずれにせよ、ロースクール改革を進めて行くことが、法曹人口の量と質の面で拡充していくのに重要なことである。

3. 検察のガバナンス:保釈の原則化や取り調べの全面可視化によって検察の行動の健全性を確保せよ!

「日本最強の捜査機関」

 東京地検特捜部が長年評価されてきた称号だ。特捜部は、戦後すぐ設立され、政治家の汚職、大型脱税、経済事件などを独自に捜査し、警察ではマネージしきれない大物政治家の立件・有罪政治犯罪などを、捜査から公判までを一貫して担当することで追求してきた。戦後すぐの昭和電工事件や造船疑獄から、ロッキード事件やリクルート事件に至るまで、その業績は大きい。

 しかし、昨今の不祥事の連続で、特捜部、ひいては検察への信頼は失墜したと言ってもいいだろう。

 大阪地検特捜部における厚生労働省の村木厚子氏(無罪確定・現事務次官)が逮捕・起訴された郵便不正事件や、フロッピーディスク証拠改ざん事件など、特捜部では組織のガバナンスがまったく効いていないことがあらわになった。

 こういった不祥事の続発を受けて、政府も検察改革を進めるとしているが、その核となっているのは、「検察官の倫理・使命感」といった倫理感の強化などであり、肝心のガバナンス改革はほとんど進んでいない。

 問題は、特捜部・検察のガバナンスをどう効かせるかだ。例えば、裁判官は「国民審査制度」という極めて明確なガバナンスがある。一方の検察には、「検察審査会制度」がある。これは、検察が独占する事件の起訴権限に民意を反映するためのもので、無作為に選出された国民が、事件の起訴不起訴を判断する制度だが、限界がある。

 小沢一郎氏の陸山会事件の際のように検察が不起訴にした事件を起訴に転じさせることはできても、起訴した事件を不起訴にすることは極めて難しい。これでは、検察の暴走を止める役割は期待できない。

 つまり、現在の素人の検察審査会制度によるガバナンスには無理があるのである。確かに、検察に監察機関を設けるのは一つの解決策ではあるが、警察とは違う独自の視点で政権と一線をおいて捜査を行うという機能を削ぐことになれば本末転倒となりかねない。

 本来は、検察に対しては、裁判所が最終的にガバナンスを果たす役割の筈だが、いったん起訴されると有罪となるか無罪となるかを問わず、社会的に極めて大きな損害を被る日本社会では、裁判所によるガバナンスがうまく機能しているとは言い難い。

 大阪での事件を受けて、「検察の在り方検討会議」が行われ,平成23年3月に「検察の再生に向けて」という提言がなされた。外部の第三者を含む独立の監察機関を設置して、リアルタイムないしは事後的に調査・検証を行わせるべきとの意見があったが、最終的には見送られた経緯がある。

 一方、同会議の提言を受けて、最高検に監察指導部が新設され、違法・不適正行為に関する内外からの情報を把握・集約して分析・検討を行い、監察を実施している。また、外部有識者である参与に対し、定期的に監察の実施結果を報告し、参与から意見・助言を得ている。

 同会議の提言では、監察体制の整備以外にも内部的チェック体制の強化なども謳われており、法務省・検察庁では、同提言等を受けて、この3年間様々な改革に取り組んできた。当面は、このような取り組みを続けていくことになろう。

 その検察の取り調べの中で、永沢弁護士が問題視するのは「人質司法」と呼ばれる手法だ。取り調べにおいて被疑者が否認をすると保釈されない一方で、自白をすると簡単に保釈されるため、一旦検察によってストーリーが作られると、その方向で自白が強要され、有罪に持ち込まれるという事態を招く。

 このため、死刑や無期懲役刑が課せられるような重大犯罪は別にして、執行猶予が予想されるような犯罪については、原則的に保釈を許容する制度とすべきだ。
 
 また、取調べ段階については検察や警察の都合の良い部分だけの部分的可視化ではなく取調べ過程の一部始終を録画する全面的可視化が必要だ。

 いずれにせよ、独立監査組織の設立は望ましいと考えるが、検察の準司法的役割を冒さないことや、費用や手間、捜査のスピード等を考えると、現実的なガバナンスとして良い方法が見つからないのも事実であろう。

 従い、上述の通り、重大犯罪以外の保釈の原則化や全面可視化によって、検察官個人の倫理観のみに依存することなく、検察の行動の健全性を保つことが望ましい。

 取り調べの可視化については、100の行動78 法務1<「世界一安全な国を目指そう!」~警察のハイテク化、情報収集能力の向上、国際化を!>でも指摘した通り、2016年5月の刑事訴訟法改正でほんの一部だが、その義務化が導入された。この改正で可視化が義務化された対象は裁判員裁判事件と検察の独自捜査事件で、全事件の3%程度となる。これらの事件の取り調べ全過程で原則として警察と検察に取り調べの録音・録画が義務付けられることとなった。しかし、対象であっても取調官が十分な供述を得られないと判断したときは実施しなくていい例外規定も設けられているなど、完全ではない。警察、検察の信頼向上のため、さらなる可視化を求めたい。

4. 裁判官制度:被告人による裁判員制度選択制導入とともに、世界を意識した裁判官の育成を!

 司法制度改革によって鳴り物入りで導入されたのが、裁判員制度だ。陪審制度を採用していない日本でも、国民が司法に直接参加するのがこの制度だ。

 しかし、裁判員制度の導入によって、日本の裁判制度の何がどう良くなったのか、どうもよく分からない。

 日本で裁判員制度が適用される事件は、殺人、傷害致死、強盗致死傷、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、保護責任者遺棄致死、覚せい剤取締法違反など、いずれも死刑などが求刑される重大犯罪であり、普通の職業裁判官でも判決に勇気がいるであろう死刑判断を含む判決を一般人が行う精神的苦痛や、時間的拘束などの物理的な負担が大きいなど、問題点が多い。

 裁判員制度は、国民の司法への参画という崇高な制度目的だけが一人歩きして、国民にも、被告人にも、検察にも、弁護士にも、裁判官にも望まれない制度になってしまっている。(永沢徹氏) 解決策は、裁判員による判断を望むか、裁判官による判断を望むかを被告人が選択できるようにする選択的裁判員制度の導入が考えられる。裁判員裁判の選択によって、被告人の権利の保障(裁判の迅速化、偏った「市民感覚」による量刑からの回避)に加えて、裁判員への多大な負担も避けることができる。

 実は、被告人に選択権を認める選択的裁判員制度は、戦前の日本の陪審制度にあったものであるし、アメリカの陪審制度でも、被告人には陪審裁判を受けるか否かの選択権が与えられている。誰にも望まれない制度に陥っている裁判員裁判制度の改革の第一歩として、選択的裁判員制度の導入を検討すべきだ。

 加えて、裁判官のキャリア面に関して、経営共創基盤の冨山和彦氏は、次の通り指摘する。「激変する社会環境の中で、現在の純粋培養、終身年功型のキャリア裁判官制度は、特に民事司法においては限界です。人材の流動性を抜本的に高め、より多様なバックグラウンドの裁判官が主流となるように、裁判所の人事組織システムを転換すべきです。」

 日本の裁判官制度も世界を意識して、女性の活躍推進をはかり、民間との交流を活発に行う、制度・意識改革が必要となろう。

5. 国際展開:日本の法曹制度を海外に輸出せよ!

 これまで、日本から海外への国際支援は、ODAや円借款などの物理的支援が中心であった。しかし、膨大な財政赤字のため、日本がハード面でできる支援は限られてきており、その点でも法整備支援の重要性は高まっている。

 特に、アメリカの威信の相対的な陰りと、中国の台頭による地域動乱の増加は、これまでのアメリカという覇権国を中心とした国際秩序維持の限界を示している。これまではアメリカという覇権国の圧倒的なパワーで国際秩序が維持されてきたが、それが陰り始めた中、今後のポスト覇権国時代の国際秩序形成においては、リーガルルールが重要性を増すのは確実であり、日本が国際的に法整備支援をすることの有用性は極めて高い。

 実は、日本の法制度を途上国等へ輸出する法整備支援は、ODAなどの物理的支援よりも、日本にリターンが返ってくる戦略的な支援形態だ。

 独占禁止法、環境法、知的財産権など、日本のルールを、日本の潜在的市場となり得る国に対して、当該国の経済基本ルールとして根付かせていくことができれば、日本経済の拡大につながる。これによって国内の法曹についても、当該分野の専門性が高められ、日本の法曹人材の国際的競争力強化につながるという副次的効果も生まれる。

 現在、日本は、フィリピン、カンボジア、ラオス、ベトナム、中国、モンゴルなどと法整備支援を行っているが、さらに拡大して、紛争地域における国家建設や紛争後の平和構築における法整備支援も含めて、積極的に法曹支援を行うべきだ。

 また、領土問題などに関しても、国際ルール、公法の分野で日本のリーガルルールを国際的に拡げていくことは極めて重要だ。国際司法裁判所・国際刑事裁判所・常設仲裁裁判所・WTO紛争解決機関・国際海洋法裁判所などの、国際裁判所・紛争解決機関に、日本の法曹人材を積極的に送り込み、日本の法曹人材が世界における法の支配の実践に参画することが望ましい。

 ニッポン未来会議において、衆議院議員の柴山昌彦氏が、この法制度の海外輸出に関して熱く語っている。日本の法制度をグローバルスタンダードにする努力を行うためにも、法曹人口の質と量そして活躍領域の面でも、重要となる。

 まさに、「ニッポンの未来を決めるのは、あなたたちだー」である。

BS-TBS『ニッポン未来会議』~第7回:ニッポンの国際戦略
 https://www.youtube.com/watch?v=0pxM4y2o8XQ 

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