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さよならサラリーマン

投稿日:2014/07/24更新日:2019/09/20

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僕はベンチャー・キャピタリストとして、日本政府の『「選択する未来」委員会』に在籍している。委員である僕たちの仕事は、今から50年後の日本の暮らしがどのようなものになるのか、そのイメージを具体化することだ。

メディアの見解は一様に悲観的だ。今世紀の半ばまでに、減少を続ける日本の人口の過半数を高齢者が占めるようになる。その一方で、高齢者に年金を支払い、多額の国債を返済するために、今よりも少数の若年労働者が重い税金を負担することになるというのだ。

永遠の楽観主義者である僕は、この暗澹たるビジョンを受け入れるつもりはない。それどころか、ベンチャー・キャピタル業界で得た経験から、2060年前後の日本の暮らしは今よりも明るいものになるだろうと考えている。

まずは労働の分野から説明させてほしい。

無作為に選んだ人々に「日本と言えば何を連想するか」と質問すれば、おそらく「サラリーマン」と答える人もいるはずだ。サラリーマンとは、戦後日本の経済発展を支えた勤勉な企業戦士をいう。しかし、技術の進歩によって、このワークライフ・アンバランスの国民的象徴は過去のものになりつつあるようだ。

正規雇用を避け、代わりにフリーランスで働くことを選び、いわゆるタレント・エクスチェンジを通じてインターネット経由で仕事を得る若者がどんどん増えているのだ。

そして、これは決してニッチな現象ではない。米国の2大オンライン・ジョブ・マッチング・サイトであるオーデスク(oDesk)とイーランス(ELance)は、昨年12月に合併した際、両社のサイトには合計で800万人のフリーランサーが登録済みであることを明らかにした。その時点で取引実績のある企業は180ヵ国200万社、売上高は2013年だけで7億5,000万ドル相当にのぼったという。エコノミスト誌の報告によれば、オンライン・ワーク全体の市場規模は2014年から2018年の間に、2倍以上に拡大するものと見込まれている。

日本にも独自のオンライン・ジョブ・マッチング・サイトは多数存在する。その先頭を走っているのが、2008年創業のランサーズだ。ランサーズに登録済みのフリーランサーは33万人にのぼり、これまでに累計2億7,000万ドル分のサービスを8万1,000社に提供してきた。米国の競合他社とは異なり、国内のみで営業していることを考慮すれば、これは見事な実績だ。

もちろん、フリーランスという働き方にはデメリットもある。例えば、職の安定性が低いという点だ。その一方でフリーランサーは、スーツからも、満員の通勤電車からも、無味乾燥な職場環境からも、非生産的な残業からも逃れられる。

つまりはトレードオフだ。安定性を失う分だけ、自由が得られる。好きな仕事を、好きな時間に、好きな場所でできる。

起業家である僕にとってフリーランスは、融通の利かない昔ながらの終身雇用モデルよりも、ダイナミックかつ柔軟な――したがって逆境に強い――働き方に思える。

教育も、変化が見込まれる分野だ。「エドテック(Edtech)」(教育[Education]とテクノロジー[Technology]を組み合わせた造語。ITを教育に活用することを意味する)は教師の役割を変えるだろう。算数ドリルや漢字テストのような多くの定型的な業務は、タブレット型コンピューターに任せることができる。そのため、教師はコーチとしての意味合いが強くなり、自由に教室を歩き回って、つまずいている生徒の手助けをすることができるようになるだろう。

日本は公文式のような、塾で行うオフライン補助教育のパイオニアだ。この種の基本的な技能のトレーニングの多くは、オンラインに移行させることができる。現に、僕が投資しているベンチャー企業の「すらら」は、「スターアカデミー」というオンライン学習塾でまさにそれを行っている。

(もちろん僕たちも、教育が完全に自動化されるとは考えていない。EQや創造的思考、リーダーシップのような、コンピューターでは対応できない領域も存在する)

ヘルスケアの分野もまた、見る影もなく変貌するものと予想している。健康状態や体調を監視するアプリやセンサーが登場し、ウェブカメラを使った診察がそれに組み合わさることで、公衆衛生は向上し、低コスト化するはずだ。もちろん、安全性に関する規制の関係で、ヘルスケア分野の変化には必然的に時間がかかるだろう。

しかし、日本でも特に変化を嫌う業界の一部においては、新興企業がすでにプラスの変化を推し進めている。メディア業界を例に取ろう。世界中のメディア企業が、倒産や分社化、乗っ取り(ジェフ・ベゾス氏によるワシントン・ポスト紙の買収など)によって激動の最中にあるのに対し、ここ日本には、不気味で不自然な静けさが漂っている。

なぜだろうか。それは、変化を仕掛けようとするあらゆる人物に抵抗するために、メディア企業が結束を固めているからだ。7年前、インターネット起業家の堀江貴文氏は、日本のあるテレビ局に対して敵対的買収を試みた。そして結局、投獄という報いを受けることになった。1990年代には、メディア王のルパート・マードック氏が、日本の別のテレビ局を買収しようとした。ところが、丸一年にわたり抵抗を受けた結果、彼は柄にもなく買収を諦め、すでに手にしていた株式を売却したのだった。

日本の新聞も、主に全国的な販売・配達ネットワークに多大な投資をしてきたという理由から、デジタル化がなかなか進まなかった業界だ。しかし2012年12月、「スマートニュース」という日本発のアプリが発表された。これは、閲覧数、シェア数、ツイート数の多いニュース記事を一覧化して配信するというアプリだ。

スマートニュースは300万人を超えるアクティブ・ユーザーを擁し、日本の多数のメディア企業(特に大規模かつ保守的な企業のいくつかも含む)との間でコンテンツ共有契約を結んでいる。

ここで、50年後の日本についての僕の見解を示そう。

日本人の平均年齢が上がるのは確かだが、それと同時に健康状態は向上し、過労は減り、知識は増え、独立性は高まるだろう。デジタル新興企業による取り組みは、サラリーマンに象徴されるモノクロの過去の日本よりも、はるかに多彩で、体制順応的な色彩の薄い未来の日本を作るための一助となるはずだ。

だから僕は言うのだ。「さよならサラリーマン」、と。

(開示情報:この記事に登場する企業の一部は僕の投資先である)
(Photo: shutterstock / Rawpixel)

 

この記事は、2014年6月23日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。

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