今年1月にダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)では、日本の安倍晋三総理が会議冒頭の基調演説を行った。
安倍総理は、日本の高齢化と人口減少の影響を緩和すべく、日本で「最も活用されていない資源」の創造性とイノベーションを活用したいと語った。
その活用されていない資源とは、女性である。
安倍総理は、アリアナ・ハフィントン氏やヒラリー・クリントン氏のような有能な女性の友人たちの発言を引用したうえで、日本を「女性が輝く場所」にしたいと表明した。
日本は確かに、改善の余地が大いに残っている。WEFの2013年グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポートにおいて、日本は136ヵ国中105位と、上をブルキナファソとカンボジア、下をナイジェリアとベリーズに挟まれた順位に付けた。これは、OECD加盟国の中では最低のレベルで、トルコ(120位)と韓国(111位)に次いで低い順位だ。
古き悪しき日々から完全に脱却したいと考える安倍総理は、自身のエンパワーメント・プログラムについて明確な目標を示した。それは、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに3割にするというものだ。
手本を示すために、安倍総理は女性を閣僚に登用した。安倍内閣には2人の女性閣僚、稲田朋美氏と森まさこ氏がいる。さらに印象的なのは、安倍総理が所属する自由民主党では、最高レベルの地位の3つのうち2つを女性が占めているということだ。
安倍総理はまた、公務員の上層部でも女性の登用を進めている。例えば2013年11月には、経済産業省大臣官房審議官の山田真貴子氏を、3人の内閣総理大臣秘書官の1人に任命した。山田氏は女性として史上初めて、この影響力の大きいポストに就いたことになる。
今年2月に福岡で主催したカンファレンス(G1九州・沖縄)で、僕は女性のエンパワーメントに対する政府の熱意を間近で目にする機会を得た。そのカンファレンスでは麻生太郎副総理をスピーカーの1人としてお招きしたのだが、その副総理から僕はいの一番に、こう尋ねられたのだ。政府の諮問委員にふさわしい女性を推薦してもらえないか、と。
民間部門も政府の後を追っている。今年4月、野村信託銀行は48歳の女性である眞保智絵氏を社長に任命した。そして6月には、田代桂子氏が大和証券グループの取締役に就任する予定だ。
日本には、刺激を与えてくれるような女性起業家がすでに大勢いる。モバイルゲーム開発会社のDeNAを設立した南場智子氏や、検査装置の製造を手掛けるサキコーポレーションの共同設立者である秋山咲恵氏がその例だ。
急速な転換
概して、日本は変革に着手するまでに時間がかかる。しかし、いったんコンセンサスに達すると、ものごとが驚くほど急速に進展する可能性がある。
女性のエンパワーメントの問題についてコンセンサスができあがっているのは確かだ。政府も民間部門も女性の登用に意欲的である。
では、どのような障害がいまだに行く手を阻んでいるのだろうか。
僕は2つ挙げることができる。
1つ目の障害は、税制が共働き世帯よりも専業主婦世帯を積極的に優遇していることだ。妻の年間収入が103万円未満の場合、夫は非常に多額の税控除を受けることができる。同様に、年間収入が130万円未満の妻は、国民年金保険料を支払う義務がない。この場合、妻の保険料は夫の加入する年金が負担する。
このような制度が、結婚した女性からフルタイムで働く意欲を奪っているのは明らかだと思う。
税法を改正すべきである。
2つ目の障害は、準備態勢の問題だ。女性は実際のところ、安倍総理が就かせたいと考えているような指導的地位に就く準備ができているのだろうか。まだ準備はまったく整っていない、というのが答えだ。
たとえば最近、内閣が最高裁判所の裁判官に女性を任命しようとしたとき、ある問題に直面した。女性裁判官のほとんどは、家庭裁判所で働いているため、しかるべき経歴を備えた人物がいなかったのだ。
指導的地位に就くための準備を女性に整えさせるには、女性がキャリアのスタート時から、必要とされる経験や能力を獲得できるようなコースに乗れるようにする必要がある。多くの組織は1990年代末または2000年代になってようやく、女性に対して完全に門戸を開いたばかりだ。したがって、指導的地位に就く資格を備えた女性の数がすべての分野でクリティカルマスに達するまでには、まだまだ時間がかかるだろう。
偏見はない
海外には、こう考える向きもある。日本は女性を指導者に登用することに対する根深い偏見が存在する社会である、と。一部の分野(製造業)が他の分野(各種サービス業)よりも保守的であることは認める。しかし、そのイメージに反して、日本全体は今、女性が権力を持つことをかなり受け入れている。
それに加えて、人々の働き方も変化している。スマートフォンやタブレットを利用したモバイルワークの登場により、毎日職場で残業するという昔ながらのサラリーマンのモデルはすっかり時代遅れになった。企業は「長時間働く」人材よりも「スマートに働く」人材を求めている。これは、女性に有利な構造転換であるはずだ。
僕が代表を務めるグロービスを例に取ろう。グロービスでは、安倍総理が掲げる「2020年30%」の目標をすでに達成している。ディレクター、マネジャー、取締役、執行役員の30%以上は女性だ。
グロービスではさらに、労働力のダイバーシティ向上に向けた僕らなりの取り組みとして、当経営大学院の女子学生の割合を、現在の20%から今後数年間で30%、2020年までに40%に増加させることも目指している。
2012年、日本の経済産業省は東京証券取引所と共同で、「なでしこ銘柄」企業の年次リストを公表した(日本語で「なでしこ」とは「女性」を意味する詩的な表現である。日本のサッカー女子代表チームは「なでしこジャパン」と呼ばれている)。
なでしこ銘柄企業――日産、ニコン、(ユニクロで有名な)ファーストリテイリングのようなグローバル企業も含まれる――は、キャリア女性に対する積極的なサポートと優れた財務実績を兼ね備えている。
言い換えれば、女性のエンパワーメントとダイバーシティを推進する日本企業は、株主に対してよりよい利益をもたらすのである。
日本全体についても同じことが言えると思う。
指導的地位に就く女性があらゆる分野で増えれば、日本のパフォーマンスは大きく向上するだろう。
僕としては、日本が「女性の輝く場所」になるのを楽しみにしながら、その実現に貢献すべく最善を尽くしているところだ。
※この記事は、2014年4月22日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。