「異才が取り組む地域イノベーション」連載中、「G1サミット」プログラム企画統括の渡辺裕子が選ぶこの1冊。
『第五の権力--Googleには見えている未来』 エリック・シュミット/ ジャレッド・コーエン 著
2025年、世界人口80億人のほとんどが、オンラインでつながる。「80億人の仮想空間でのコネクティビティ」は、社会をどう変えていくのか。グーグル会長のエリック・シュミットによる初の著書。
10年近く前(2006年)、梅田望夫氏が「ウェブ進化論」で書いたように、アドセンスやYouTubeが、新たな富の分配システムとして機能している。ブログや動画を更新するだけで、その視聴数に応じて、今や世界最大の広告代理店となったグーグルがお金を分配してくれる。これまで国家の仕事だった「富の分配」を担ってくれる。しかも国境を越えて。
世界のあらゆる地域・階層の人たちが「コネクティビティ」(ネットワークへの接続性)を手に入れる。そのとき、国家というものは意味を持つのだろうか。
「もしも『スンニ・ウェブ』が立ち上がったら」――本の中の仮説である。イスラム教のスンニ派がネットワークでつながり、国境を超えたプラットフォームをつくり、利子の概念のないEコマースやインターネットバンキングをつくったなら。世界に散らばるディアスポラ、たとえばユダヤ民族やロマ民族が、インターネット上で仮想国家をつくり、電子政府を樹立し、独自のオンライン通貨を流通させたなら。
80億人のコネクティビティは、生活習慣を変え、コミュニティを変え、革命やテロリズム、戦争のあり方を変えていく。ニューヨークのアパートの一室で、中東の革命を扇動することもできるし、無名の市民のつぶやきが、ビン・ラディンの掃討計画を世界に知らしめることもある。
インターネット上に仮想国家が生まれ、国境が生まれた世界で、現実の国境や通貨、国家という枠組みは形骸化していく。そこに意思はない。あるのはアルゴリズム。同じような破壊的イノベーションを、人類は2700年前に目撃している。システムが富を分配し、国家に権力を付与する。貨幣という発明だった。圧倒的なイノベーションが世界のあり方を変えていく、そのクロニクルを現在進行形で読める本。
『第五の権力--Googleには見えている未来』、エリック・シュミット/ ジャレッド・コーエン 著、ダイヤモンド社(2014/2/21発売)