「変節点に見る理念経営」を連載中のグロービス経営大学院 ファカルティ本部主席研究員 竹内秀太郎の選択基準は、“タレントを活かしきる”マネジメント。
『How Google Works―私たちの働き方とマネジメント』
エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジ 著
本書を読むと活力に満ちた組織の熱量が伝わってくる。CEO兼共同創業者のラリー・ペイジは序文で、「適切な人材と壮大な夢がそろえば、たいていの夢は現実になる」と言い切る。
グーグルにとっての“適切な人材”は「スマート・クリエイティブ」だ。彼らは新種の人材で、多才で高度な専門知識とビジネスセンス、クリエイティブなエネルギー、自ら手を動かし業務を遂行する力を併せもっている。彼らは、組織のルールに束縛されることなく自身のアイディアを実行に移すように奨励されている。
企業が成功するために重要なのは、最高のプロダクトを生み出し続ける力であり、それを手に入れるには、スマート・クリエイティブを惹きつけ、彼らが卓越した仕事ができるような環境をつくりだすことしかない。リスクを抑え、失敗を避ける従来型の経営手法の支配する環境では、彼らは息が詰まってしまう。ルールではなく文化によるマネジメントは本書で最初に言及される重要な着眼点だ。
ではいかに望ましい文化を醸成するのか。グーグルでの具体的な取り組みこそ本書の読みどころだ。たとえばプールやフィットネスジム、無料のカフェテリアなど充実した福利厚生で有名な同社だが、自由でゆったりとした環境ばかりではない。実際に仕事をするオフィスは、腕を伸ばせば周囲の同僚とぶつかるぐらい窮屈で散らかっているという。スマート・クリエイティブは、狭い場所に詰め込んだ方が相互の交流が促進され創造性のマグマが湧き上がるという考えに拠るものだ。他にも、戦略、人材、意思決定、コミュニケーション、イノベーションといった項目ごと、彼らの働き方が生き生きと描写されている。
一見破天荒なグーグルの施策は、エスタブリッシュな大企業とは対照的だが、その根底にある人間観には学ぶべき点が少なくない。すなわち、人はどんな環境の下だと持てる力を最大限に発揮するのかについての深い理解だ。彼らの“タレントを活かしきる”マネジメントは、21世紀の企業モデルとして示唆に富む。
『How Google Works―私たちの働き方とマネジメント』、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル、ラリー・ペイジ 著、日本経済新聞社(2014/10/9発売)