「おとといのランチは何?」(30秒で思い出してみてください)
…私は1分以上費やした(正解は、グロービス東京校近くのインドカレー弁当)。
人間の認知機能は20歳を境に直線的に機能低下する。認知機能とは、「思考」「記憶」「判断」などの知的能力のこと。特に「記憶すること」は学習の基本であり、情報を記憶できなければ、理解や応用もできなくなる。
本書では、「記憶法」を中心に科学的に効果が高い勉強法が紹介されている。「おとといのランチ」を思い出す(記憶から引き出す)ことに苦労された方は、ぜひ本書を参照されたい。
その勉強法、実は効果が高くない
著者の安川氏は日米の医師国家試験に同時合格した、いわば“勉強”のスペシャリストだ。彼も最初から効果的な勉強法を実践していたわけではなく、後に研究論文でその効果を知り、現在はYouTubeでも学習法を紹介している。
本書の冒頭では、まず私達がやりがちな勉強法は効果がないと指摘する。
具体的には『繰り返して読む』『書き起こす』『線を引く』など、学生時代から慣れ親しんだ手法。これらは記憶の定着にはあまり効果がないという。他にも、『要点をまとめる』など、私も効果があると信じていたものばかりだ。
では、なぜ前述の手法に効果がないのか。それは勉強した気になってしまうだけ、だからだ。
“勉強した気”になってしまう勉強法
ビジネスパーソンの多くが『PCやスマホでメモを取る』という行為を日常的にしているだろう。しかし、数日後には内容の理解はおろか、どこに保存をしたのかすら忘れてしまったことはないだろうか。
メモを取るという行為は一時的な達成感を覚え、あたかも「勉強した気」になってしまう。だからこそ、記憶したいのであれば効果的な手法を選択すべきなのだ。ではどんな勉強法がよいのか。
アウトプットは学びを深める——4つの「効果ある」勉強法
本書では、科学的に効果が高い勉強法として、以下の4つを紹介している。
- アクティブリコール:学んだことを能動的に思い出すこと
- 分散学習:時間をあけて繰り返し学習すること
- 精緻的質問と自己説明:学んだ内容について自分自身に質問したり説明したりすること
- インターリービング:似ているが異なるトピックスを交互に学ぶこと
特に重要な手法は「アクティブリコール(Active recall)」だ。インプットした情報を能動的にアウトプット=思い出す、という行為である。本書では、さらに「学んだことを誰かに教える」ことも推奨している。
グロービスのスクールは、1科目につき隔週で計6回(計3ヵ月)のクラスで学ぶ。2週間のインターバル期間はまさに2つめの「分散学習」でもあり、インプットした内容をビジネス現場に持ち帰り「アウトプット」し学習の定着を促す仕組みを取り入れている。学んだ内容を職場に持ち帰り、周囲に教える、伝えるということは言語化力も求められるので、この面でもトレーニングになるだろう。
「精緻的質問と自己説明」「インターリービング」はどのようなものだろうか。
前者は「なぜそうなっているのか?」「どのようになっているのか?」など、些細なことに質問を投げかける子どものように自己質問を繰り返す。後者は、テーマとして類似する点もあるが異なるトピックスを交互に学ぶ勉強法だ。経営知識を学びたい場合であれば、戦略論ばかり学ぶのではなく、関連する組織論やリーダーシップなど隣接領域のトピックスを交互に学ぶと双方の記憶と理解が促進されやすくなる。
生成AI時代だからこその勉強法
生成AIが普及する現代においては、知識を外部化し効率化することが可能になった。Web/SNS検索し、ChatGPTでアイディアも出してくれる。この流れは今後も加速するだろうが、個々のアウトプット内容やレベルも平準化されるリスクがある。つまり、みな同じような回答をする、ということだ。
知識から実践で使える知恵へと昇華するためにも、AIへプロンプトを投げる以前に、まず自分自身に問い掛け、自らの言葉で説明できるスキルを身に着けることが重要だ。技術がアップデートされると同時に、私たちも効果的な勉強法によってアップデートすることが必要なのだ。
本書では、他にも勉強のモチベーション向上や学習パフォーマンス向上のための「心・体・環境の整え方」についても脳科学の知見を紹介している。効果の高い勉強法や環境づくりによって、生成AI時代のリスキリングを実現していただきたい。
『科学的根拠に基づく最高の勉強法』
著:安川 康介 発行日:2024/2/15 価格:1,760円 発行元:KADOKAWA