2009年からG1サミットを開始した。このG1サミットは、次世代のリーダーが集う「日本版ダボス会議」として発足した。コンセプトは、「参加者から総理大臣が生まれ、ノーベル賞学者が輩出され、財界のトップも誕生する、真の日本のリーダーが集う会合を創り、日本の改革を成し遂げる」、であった。
その会合から、既に3人の大臣が生まれた。前原誠司氏、古川元久氏、細野豪志氏等だ。また、山中伸弥氏もノーベル賞候補として毎年列挙され、ベンチャー・財界からは、三木谷浩史氏、田中良和氏など参加する会合になった。
今年で3回目を迎えたG1サミットは、非常にうまく運営されているが、毎回の悩みは、国際性であった。英語圏の会合は、国際化は簡単だ。単純に海外の人々を招待すれば良いのだ。日本の会議の場合は、常に言語が課題となる。色々と考えた結果、
「G1サミットは、100%日本語で開催し、日本語を理解する外国人を積極的に招き、日本の未来を語る場として、維持しよう一方、100%英語の会合を開催し、世界からリーダーが集い、世界・アジア・日本のことを語る場を、G1サミットとは別に創ろう」、と考えるに至った。
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その会合名を、「G1グローバル」と名付け、2011年10月10日の体育の日の祝日に開催することにした。場所は、会場費は浮かせるために、グロービスの東京校を使うことにした。
ちなみに、G1とは、 "Group of 1, Globe is One"を意味する。「世界は、一つなのだ。 G20 や G7ではなくて、G1なのだ」という意味も込められている。
そして、あの忌わしい東日本大震災が発生した。開催日を一か月ずらし、11月3日に開催することにした。そして、テーマは、すぐに決まった。「日本の再創造(Rebirth of Japan)」である。
当分企画は、停止した。海外からスピーカーを呼ぼうにも、地震・津波更には原発の報道もあり、それどころではない状況になった。そこで、先ずは、日本在のスピーカーを固めることにした。日本人のスピーカーとしては、古川元久大臣、竹中平蔵氏、川口順子元外務大臣などの著名な方々が確定し、日本在の外国人では、ロバート・フェルドマン氏やグレン・フクシマ氏等のスピーカーも確定した。皆、G1グローバルの理念とコンセプトに共感しているので、即答でOKしてくれた。
7月頃から、海外からのスピーカーを招き始めた。英国からは、BBCのメイン・キャスターを務めるニック・ゴーイング氏を大連で口説き落とし、来日が確定した。米国からはベンチャー・キャピタルの生みの親でもあるアラン・パトリコフ氏の登壇も決まった。タイからは、元通商代表のバチャラ氏の登壇が確定し、英国・米国からは、水野弘道氏や田村耕太郎氏等の凱旋帰国も決まった。
登壇者の半分は日本人で、半分は外国人として、国際色豊かにすることを考えた。皆、英語での議論だ。日本には、意外に多くの英語で語れる論客がいることを認識できた。ダボス会議等に参加していて裾野が広がっている感じがした。G1グローバルへの参加者は、基本招待制とした。G1サミット参加者、経営者、メディア、大使館、ダボス参加者等へ招待状を出した。一方では、積極性がある方々にも、参加の機会を与えることにした。参加する意思がある一般や学生の方には、エッセイを書くことをお願いした。「どうやってG1グローバルに貢献しようと考えているのか?」等かなり難しい内容だった。
僕は、数多くのコンファレンス・会合を見て来たが、一番参加して楽しいのは、一体感がある「コミュニティ」的な会合である。つまり、スピーカーとして登壇できる各分野で活躍する人が、参加者として集い、一体感を持ちながら、会場と意見交換する場が、一番面白いのだ。参加者と登壇者の垣根が低ければ低いほど、面白いのだ。だから、招待制、そして参加者の質と姿勢には拘ったのだ。高額なお金を出す意思がある方でも、参加できないのだ。
10月頃には、登壇者リストが50人近くになり、プログラムもほぼ確定した。参加者は世界中から集まり、日本在の大使を含めて200人近くになった。色々と企画に拘った。G1グローバルの前夜には、僕の自宅にスピーカーを招待して、寿司&イタリアンの和洋折衷のパーティを開催することにした。世界から集うスピーカーに謝意を表する最も良い場所は、自宅である。自宅に招き、遠方からの来訪を感謝するとともに、日本在のスピーカーとネットワーキングしてもらうことを目的とした。広さが心配だが、気持ちでおもてなしをしようと決めていた。
11月1日ごろから各国要人が続々来日し始めた。米国からアラン・パトリコフ氏、更には米国ランド研究所からの著名スピーカーも来日した。洪水で苦しむタイからも来日が確定した。更に、シンガポール、インド、英国等からもだ。皆G1グローバルに参加するために続々と来日し海外からは、20~30名程度が来る見込みであった。毎年継続して実施し、リーダーが集う、世界に発信する一大拠点として発展していきたいと誓った
前夜となった。自宅でスピーカー・レセプションが始まった。敬意を表するため、夫婦揃って着物でおもてなしすることにした。洪水被害に喘ぐバンコクから来てくれた方、米国・豪州・インド等遠路はるばる来てくれた方に感謝したい。お寿司と浦霞の大吟醸が評判であった。
我が家でのスピーカー向けレセプションが無事終了した。夜9時に終わり、10時過ぎまで自宅でレセプションの後片付けして、翌日のメイン会場となるグロービスに向かった。夜10時過ぎに大学院のクラスが終わり、そこから設営開始だ。総勢200名のVIPが結集する。在日大使も数名参加する。それに相応しい場を設営したいのだ。1階は、200人収容するメイン会場。2階には、3つの分科会会場。3階はランチ・イベント会場だ
夜中の0時半過ぎに設営終了。メイン会場となる1階に設営したG1 GLOBALの大きなロゴの前で、G1を意味する親指を立てて、最後まで残ったスタッフと、記念写真だ。
疲れも絶頂に達したが、そこはグロービス。最後は雄叫びが出るほど、ハイになっていた。この瞬間にG1の成功を確信した。
注.G1グローバルの前夜の深夜0時半過ぎに、設営完了時にグロービスのスタッフとともに撮った写真。疲れているのに、みな笑顔が素晴らしい。
<a href="">http://twitpic.com/7dur4r</a>
そして、翌朝の冒頭のスピーチを練り、当日に備えることにした。当日の朝、歩いて、グロービスに向かった。日本初の完全英語のダボス型コンファレンスだ。高揚感があった。
着いたら丁度英国からニック・ゴーイングが来ていた。そこからずっと打ち合わせだ。スピーカーの方々も続々と登場した。そして、古川大臣の登場だ。
朝9時になり、定刻通りG1グローバルが開始した。司会のグロービスのスタッフの簡単なオープニングの後、いきなり主催者の僕の挨拶だ。今回は、バタバタしていて頭の中にスピーチ原稿を叩き込む時間が無かった。簡単な挨拶ではあったが、紙を取り出して、読み上げることにした。但し、心を込めて観客に向き合いながら喋ることを心がけた。冒頭3分ほど挨拶をして、古川大臣を紹介した。古川大臣は、日本人の政治家としては、最も多くの回数ダボス会議に参加している。非常に安定感がある格調高いスピーチを御披露頂いた。
注.会議の模様は、英語版のGLOBIS Insightsでご確認ください。
大臣によるスピーチの後に、英国からこのために来日したBBC ニック・ゴーイング氏のモデレーターで、竹中平蔵氏、川口順子氏、北神圭朗氏のパネルが始まった。とても熱気があるパネルだった。
その後、分科会に分かれて徹底的に議論した。僕が、その一つに急遽モデレーターとして登壇した。米国大使館の外務担当大使、元外務省の田中均氏、そしてインターナショナル・ヘラルド・トリビューンのコラムニストフィリップ・バウリング氏がパネリストだ。テーマは、「世界のパワーバランス」だった。
他に3つのセッションが同時並行的に進行した。ソフトパワーのセッションには、近藤文化庁長官、フライシュマン・ヒラード・ジャパンの田中慎一代表等。クライシス・マネジメントには、田村耕太郎氏が登壇し、リイマジニング・ジャパンのパネルには、マッキンゼー日本代表ジョルジュ・デボー氏、キャシー・松井さん等が登壇した。
そして、ランチタイムだ。ランチタイムには、グロービス3階の4教室を会場として使い、ランチを食べながら 東北の高校生によるイベントだ。津波を乗り越えた高校生が体験を話す内容だが、大連のサマーダボス同様、会場全体から涙が流れていた。
雄弁な言葉よりも、津波を乗り越えた高校生たちの言葉が一番心に染みた。
午後の最初のセッションも分科会だ。メディアのセッションだ。ジェームズ・近藤氏によるモデレーションで、村井純さんやジャパンTODAYの創業者とBBCのニック・ゴーイング氏だ。やはり、ニックは面白い。
他のセッションは、起業のセッションだ。そこには、アラン・パトリコフ氏、岩瀬大輔氏、アレン・マイナー氏やテリー・ロイド氏が登壇し、モデレーターがグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮氏だ。
もう一つのセッションが、エネルギーのセッションだ。英語で原発のことも議論するのだ。これも、面白い。
注.プログラムの詳細は、http://e.globis.jp/article/000024.htmlをご参照ください。
G1 Globalの分科会をまわって思ったことは、一言「面白い」だ。ここは、日本でないみたいだ。通訳が入らない、100%英語のこの規模のカンファレンスは、日本で恐らく初めて開催されたのではないだろうか。日本人の英語でのディスカッション能力を高める機会になれば幸いだ。
3つ目の分科会が始まった。これも、面白い。テーマは、TPP、先進国の財務危機、そして、クール・ジャパンだ。財務危機のセッションには、コラーの水野さんのモデレーションで、浅尾慶一郎氏、新生銀行元頭取のティエリー・ポルテ氏、JPモルガンのイェスパー・コール氏だ。
「ユーロ危機は、東日本大震災よりも経済的に日本に打撃を与える。問題なのは、それだけの打撃を与えるにも関わらず、日本人は(選挙などを通して)全く影響力を行使できないことだ」(浅尾慶一郎氏)。
「ヨーロッパや米国で日本と同様のデフレ・低成長が、仮に10年間続いたら、日本の様に静寂で冷静でいられるだろうか。もう既に、米国でOccupy Wall Streetが始まっている。ヨーロッパは、デモが横行している。日本の社会的強さが証明されつつある」(ポルテ氏)
「最初のiPhoneの日本製の部品比率は、0%だったが、新しいiPhone4sの日本製部品比率は、57%近くもあり、しかもだ、日本でしか創れない精度のものだ」(コール氏)
早くもG1 Globalの最後のセッションとなった。最初が政治家のパネルだったが、最後はビジネス・経済パネルだ。冒頭が日産COOの志賀俊之氏のスピーチだ。10~15分のスピーチの後に、パネル・ディスカッションだ。BBCのニックのモデレートで、パネリストは、BCG御立さん、ロバート・フェルドマン氏等だ。まさに、日本で体感する、世界次元のコンファレンスだ。
「剣道や柔道のように『無心』が、重要だ。感情的になってはいけない。モノづくりにも、感情を入れ過ぎては、いけない」(ニコラス・スミス氏)
「安定性もいいが、一方では大きな変化も悪くない。2,3年前に原油価格が上がるのはチャンスだと思った。円高になるのも悪くない。大きな変化によって、イノベーションが生まれるのだ」(フェルドマン氏)
「友人に話をするとみんな東京に住みたいと言う。重要なことは、日本を企業にとって魅力的な場所にすることだ」(フェルドマン氏)。
「若い人が内向きだが」という質問に対して、「若い人のせいではなくて、若くない人たち(つまり年配の人)がやるべきことをやっていないからだ。そんな文句を言う前に、しっかりと教育をし、年金とか医療とかで進んで犠牲を払うべきだ」(フェルドマン氏)
「もう一つのクレイジーなアイディアを出そう。子供手当を渡す代わりに、そのお金を海外に留学する資金に使ってはどうだろうか?これができれば、教育的効果が大きいし、日本の将来も明るいだろう」(フェルドマン氏)フェルドマン氏は、やっぱり面白い。
そして、最後の挨拶(クロージング・リマーク)を主催者の僕が行った。その後に、アラン・パトリコフ氏、ニック・ゴーイング氏、シンガポールから来たポール・ブラッドレイ氏、そして米国から来た田村耕太郎氏に一言ずつコメントを頂いた。最後は、達成感と高揚感で、感動的な空気が会場を支配していた。
感動のうちにG1グローバルが終了。そして、レセプションだ。僕は、クロージング・セッションを終えて、ブルームバーグのテレビ・インタビューを受けて、フェアウェル・レセプション会場へと向かった。会場には、琴の調べが流れる中、世界から集まったVIPが談笑していた。参加者に一通り挨拶をしたら、三味線の演奏が始まった。柴田三兄妹の演奏は素晴らしかった。
三味線の演奏の後、来場者が帰路についた。一人一人に丁寧に挨拶をして、最後はスタッフを囲み、ささやかな慰労会だ。スタッフは、皆頑張ってくれた。クタクタになり疲れていたが、冗談を交えながら貢献を称え合った。そして、グロービスの会場に戻り、会場の後かたづけをしているスタッフに「お疲れ様」と声をかけ、自宅へと戻った。そして、ツイッターを通して届いた以下の様なつぶやきに、一言ずつお礼をすることにした。
「今日のG1 GLOBALは学びと気付きが多く、とても刺激になりました。まずは、これだけの参加者が文字通り世界から集まったことが素晴らしい! 堀さん、これは新たなランドマーク・イベントですね。Many, many thanks!」
「今日は朝から晩まで英語漬けで、G1Global に参加。よかったのは、日本のグローバル化も思ったより進んでいることが実感できたのと、これだけ日本人ではない人が日本の良さを実感して、世界へ発信してくれていることが自覚できたこと。自信を持とう」
「G1グローバルに参加して感じたこと。リスクと責任をとる、オープンになる。自信を持つ、そんなことの重要性。参加したリーダーの皆さんは元気だったし、明るかったし、なんだかんだ言いながら日本のことが大好き。良いコミュニティ^^ 」
「G1 Globalの一つの共通したメッセージは世界とつながること。オープン化への恐れを超えて、つながること。(中略)若者たちに我々ができることを考えたい。この集い自体が、多様な人々がつながり化学反応がある。」
「G1グローバル日本でこんなレベルの国際会議が開けるとは思わなかった。全部素晴らしかった」
「どうもありがとうございました。大変刺激的な一日でした」
「G1 GLOBALで心地よい刺激。英語圏では当り前だが、通訳無しのコンファレンスは日本では珍しいらしい。世界中から集めたスピーカーの顔ぶれが、グロービスの堀さんの意気込みを示す。世界の中での日本の位置づけが浮き彫りに。」
御視聴頂いた方からも呟きが届いた。
「 G1 Globalの中継を聞いています。日本人向けのせいなのか、とても分かりやすい英語(スピード、語彙ともに)で議論してくれています。これなら通訳なしでも議論の内容を理解できる人が多そう」
「G1 Global は、ライブ中継されいてて面白かった。時たま、早口のパネリストがいて聞き取るのに大変だったけど、こういうのをどんどん日本でやってほしい。」
海外からのG1GLOBALの視聴者より。英語で放映すると海外からも反響が来る。
CONGRATULATIONS THAT WAS A REALLY WONDERFUL AND A GREAT THING TO DO. G1 GLOBAL IS MORE POWERFUL.....
そして、Japan Timesにも記事が掲載された。The article of G1 Global on Japan Times., March 11 a chance for rebirth: experts | The Japan Times Online http://t.co/zEgBClKi
石倉洋子さんにもブログ執筆頂いた。G1 グローバル2011 とても有意義なカンファレンスだと思いました。それはパネリストやモデレーターがすばらしかっただけでなく、参加者(ほとんどが若い日本人?)からの質問やコメントがとても活発だったからです。(中略)一日すべて英語(通訳なし)という会議に出席したのですが、他の国際会議(先週ニューヨークで開かれたワークショップやアブダビでの会議と比べて)、全く違和感がありませんでした。東京でやっているのかな?と思うほど、自然に英語での議論が行われました」
G1グローバルが大成功に終わった。本当は、打ち上げでもしたい気分なのだが、余韻に浸る間もなく、翌日のトコトン2~TPPに備えることにしよう。トコトン議論2は、「天下分け目の決戦」だ。トコトン議論1のように、僕が登壇するわけではないが、翌日に備えて早く寝ることにしよう。
2011年11月20日
ニュージーランドからの帰国便で
ツイッターに基づき執筆
堀義人