デンバーのホテルにチェックイン後すぐに、グローバル・リーダーズ・サミット(GLS)のレセプションに参加した。ヴェイルのスノーボードから休む暇も無い。と言うよりも、スノーボードをギリギリまで楽しんでいた結果なのだろう。
この会合(GLS)の主催者である経営者の会は、Young Presidents Organization(YPO)と呼ばれる世界的な組織だ。会員は、3つの条件を満たす必要がある。(1)50歳以下で、(2)社長で、(3)年商が10億円を超えていることだ。支部が数十カ国にあり、会員が1万8000人いる。それらの企業の従業員の総数が1700万人もいて、売上規模が世界のGDPで6番目になるという。日本にも180社近くの会員がいる。
その会の年次総会に当たるのが、毎年2月末に開催されるこのGLSである。
僕は、YPOに入ってから数年経つが、一度もこのGLSに参加していない。僕の海外の仲間からも、「もの凄くいいよ」と勧められていたので、50歳でYPOを卒業する前に、是非行こうと思い立ち、今年初めて参加することになったのだ。
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GLSのレセプションは、デンバーの目抜き通りにテントを張って、開催された。東京で言えば、銀座通りを全て閉鎖して、テントを張るようなものだ。やることが凄い。地元の人には不評だが、それだけの価値があるのであろう。僕ら日本代表は、ホテルで待ち合わせて、会場に行き、暫く交流して夕食会へと流れた。その日は、スノーボードの疲れを癒すために、早目に就寝した。
翌日朝からGLSがスタートした。ネイティブ・アメリカンの太鼓のダンスに迎えられ、会場に入る。会場は、4、5000人は入るコンサートホールみたいな階段状の場所だ。会場の中では、生バンドの演奏が始まっていた。後で紹介されたが、グラミー賞を受賞した人が中心メンバーらしい。アメリカらしい派手な演出だ。
僕は、前の方に陣取った。古くからの友人を見つけたので、出向き、抱き合って再会を喜んだ。インド、メキシコ、カナダ等から来ているメンバーだ。YEO(現EO)のボードメンバーもいる。とても、懐かしい。
オープニングセレモニーがあり、サミットが始まった。二番目のスピーカーは、何とあのジュリアン・アサンジだ。あのウィキリークスのアサンジだ。ハウスアレスト(自宅軟禁)状態だが、スーツを着て、ソファーに座って僕らに語りかけてくる。
英国のノーフォークからの衛星中継だと言う。もともとアサンジ氏のセッションは、Confidentialとのことだったが、ふと考えたら、彼は、ウィキリークスだ。僕が、オープンにして何が悪いのかと、思い始め、途中からパソコンを起動して呟き始めた。彼は、ジャーナリストと自らを定義し、多くの情報から、現況を分析していることがわかる。次の通り、印象に残った言葉を記録する。
「全てが繋がっている。数年前にウィキリークスの情報で、アフリカの政府とカリブの政府が転覆した。今、ウィキリークスの情報がきっかけとなりチュニジア、エジプトがひっくり返った。
エジプトのムバラクをイスラエルが支え、バーレーンをサウジが支えている。そのシステムが、今、民のパワーで変わりつつある。マスコミの姿も変わっていく。パワーも新たなメディアの台頭に対応できていない
8週間前に、ジョー・バイデン(米国)副大統領は、私のことを『サイバーテロリスト』と呼び、10日前にムバラク(エジプト・前)大統領を『民主主義者』と呼んだ」。そして、質疑応答に入った。
Q:次の革命は、どこで起こるのか?
A:希望的には、米国だ(場内喝采)。でも、現実的には、イエメンで起こるであろう。
Q:パワーを持っているアサンジ氏に対するリークスをどう思うか?
A:基本的にパワーは、政府が持っていて、僕は、持っていない。
Q:タイムの表紙に選ばれそうだったとか?
A:民意では、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏の20倍の票をもらっていたが、結果的に選ばれなかった。これが、パワーの意味するところだ(場内喝采)。
金髪で、豪州アクセントで理知的に喋るアサンジ氏の話を聞くと、何故だかワクワクする。政府のパワーを暴露し、マスコミの偽善をもバサバサ斬っていく姿には、好感が持てる面もある。最後の会場の投票では、2/3がアサンジを支持するとのことだった。
アサンジ氏の言葉には、「パワーを持った人・組織の偽善を暴きたい」、という根本的思想・願望が溢れている。スウェーデンへの移送が、決まっているが、彼が監獄から出てきたら、ある意味ヒーローになっているのではないかと思う。彼のやり方には、両刃の剣のところあるが、僕は彼の反権力的な思想には、共感する。
今回、どうやってアサンジ氏が登場できたのか、不思議でならない。米国政府としては、アサンジ氏には、一切出て来て欲しくないはずだ。彼の喋りを聞くと、パワー側からすると「危険人物」であることがわかる。あの一人の人間がつくったウィキリークスに、米国政府が対応できないのだ。明らかにパラダイムが変わりつつある。彼のことを、「テロリスト」とレッテル貼りたい理由もわかる。一方、民衆から視ると「ヒーロー」なのかも知れない。誰が人を見るかによって、同一人物であっても呼び名や見え方が違うものだ。アサンジ氏が、仮に結果的に抹殺されようとも、彼が多くの人々を鼓舞するから、ウィキリークスのコピーが出回るだろう。もう世界は、逆戻りができなくなっているのだ。
今後は、全てがオープンになるという前提で、行動していくことが重要になるのであろう。大変な時代だ。一方では、個人の力が更に強くなっている。これも良いことだろう。そういう意味では、エキサイティングで面白い時代だと思う。日本にも大きな変化を生み出せそうな気がしてきた。
つまらないオープニングスピーチとビデオ、更には寝てしまった最初のキーノートの後にインパクトがある、アサンジ氏の衛星中継で、僕は、目が覚め、興奮してきた。
今回のGLSの目玉が、ブッシュ前大統領のスピーチだった。暫くして、主催者から、「キャンセルになった」と、発表があった。理由は、何と「ジュリアン・アサンジが登壇したからだ」、と言う。これからYPO(この経営者の集団)に対するプレッシャーが、増えてくるのだろうか。何か釈然としない。
休憩時間にアサンジ氏に関して、意見を聞いてみることにした。アメリカ人にネガティブな見方をする人が多い。理由は、簡単だ。米国にとっては、利よりも害が大きいからだ。一方では、アメリカ人以外は、支持者が多かった。
米国人1:今まで、アサンジに関して、メディアを通して認識したものと、直接聞くのでは全く違った。予想よりも明晰で、洞察力があり、インパクトがあった。メディアから得る情報のみに左右されてはならないと思った。違う側面が見られてとても面白かった。
米国人2:アサンジは、無責任だ。彼のリークスで数多くの人々が命を失う危険に陥っている。米国外交の利益を損なっている。
南アフリカの白人経営者:最高に傑作だ。米国政府があの一人の男に振り回されているのだ。「テロリスト」と呼んでいるのも、アパルトヘイト時代の南アに似ている。ネルソン・マンデラは、ずっと「テロリスト」だった。それが、民主主義的手続きを経て「大統領」になった。ブッシュがキャンセルになったのも傑作だ。ブッシュの話など最初から聞きたくも無かった。アサンジのような形で、どんどんアメリカ政府の欺瞞を暴いて欲しい。
インド人:反アメリカ過ぎる。インド政府もかなり悪いから、もっとインド政府を攻めて欲しい。インドには、ウィキリークスが必要だ。
他には、英国人・スイス人・バーレーン人:面白い。支持する。
その日の晩の「ソーシャル(ディナー・パーティ)」でも、引き続き各国の経営者にヒアリングして回ったら、米国人以外は、皆賛成していた。インド人は、「自国の政府の欺瞞を暴いてほしい」と強く思っている。一方、ブッシュが来ないことには、不満が多い。「欠席するよりも、自らの考えを伝えるべき」が、大方の意見だった。
改めて不思議に思ったのが、「どうやってYPOがアサンジ氏を呼べたのか」、だ。主催者に聞くと、「英国支部が、アサンジの代理人にコンタクトした」と教えてもらった。どうやらそれほど難しくないようだ。であれば、次の疑問がわき上がる。「なぜ、マスコミは、彼の主張を放映しないのか?」、だ。
アサンジ氏と取引があった全ての会社が、手を引いた。アメリカン・エクスプレス、アマゾン、そしてNYタイムズもだ。逮捕後は、彼に対する一方的な批判しか聞こえて来ない。その報道によって、皆「洗脳」されてしまっているようだ(南アの友人談)。彼の主張を伝えるメディアがあっても良い。一方的な報道でなく、双方の意見を聞いてから、「テロリスト」かどうかを各自で判断すればよい。メディアが判断するのでなく、個人に判断を委ねても良い気がする。
この会合で、多くの友達と再会した。僕が、1996年から98年までYEO(現EO)のインターナショナル・ボードにいた頃の仲間、僕が所属していたYPOのインターナショナル・フォーラムの仲間。更に、ジンバブエの小学校復興プロジェクトやインドのイベントで出会った友達ともだ。
今や、どの世界的会議に行っても、友達と再会できる気がしている。長年培ってきた人間関係のたまものだと思う。夜のソーシャルは、まだ続いていた。10時過ぎからダンスパーティへと変わった。アメリカのパーティは、いつも最後は生バンドが入って、踊りが始まる。
僕は、このノリが実は、結構好きだ。このノリは、もうグローバル化している。インド人も、中東人も南米人も踊り狂っている。ふと思ったのが、米国の大学・大学院に皆行っているから、その当時のノリをそのまま継続しているのだ、と言う点だ。確かに、僕のハーバード時代のパーティと同じノリだ。
ダンスフロアに、急にバレーのネットが張られた。そして、ビーチ・ボールが大量に投げ入れられ、皆が踊りながらビーチ・ボールをトスする。世界を代表する経営者が、遊び狂っているのだ。特に、女性陣のノリが良い。原則同伴なので、多くの奥様が来ている(当然女性経営者もいるが)。皆魅力的だ。
そのノリを楽しんでいるときに、インド人の仲間が僕のことを呼びとめ、「今から一緒に飲もう。酔わせてくれ」と話しかけてきた。肩を組んで一緒にバーカウンターに向かった。そして彼は、一方的に喋り始めた。彼の言葉を一字一句覚えている限り、この場で伝えたい。重要な示唆がある気がするからだ。
「今の日本は、失われている。総理大臣が4年間に4人も変わり、財務大臣経験者が自殺もした。日本は、全く改革もなされていない。一方、中国が台頭してきて、台湾や日本を食いつくし始めるだろう。中国は、日本と違って、経済的にも、政治的にも米国と対等に付き合うだろう
日本の友人にそのことを言うと、『戦争があって歴史的に日本はリーダーシップをとれない』、と言う。そんなのくそくらえ、だ。日本が戦後アジアに多大な貢献してきたことを考えると、もう自虐的な、申し訳なさそうな振る舞いをやめるべきだ。これからは、新しい発想が必要だ。
日本の持っている能力からすれば、もっと大きなことができるはずだ。君に実は多くのことを学ばせてもらった。アジアを見て周っても植民地化された国が多い。だから、どうしてもアングロサクソン的な発想となってしまう。だが君は違った。日本的な視点でアドバイスをくれ、僕の人生を変えてくれた。
今度は、僕が言う番だ。君は、日本人の中でもユニークな生き方をしてきた。名門大学を出て、住友に入り、ハーバードに留学して、住友を蹴って、大学院を創り日本一にした。ファンドも創っている。こんなユニークな人はいない。
今の日本を考えると、君の様な既存の枠組みにいない人が、立ちあがり大胆な改革をする必要がある。そして、『くそくらえ(Fuck You) 』党をつくり、規制の枠組みを大胆にバサバサ変えて行く必要がある。そうでないとこのまま長期低迷を続けるだけだ。
君が、住友を辞めてゼロから大学院を創ったように、くそくらえ(Fuck You)の姿勢で日本を大胆に変えろ。それが君の生きる道だ」と。そのインド人の友達は、一方的にまくしたて、去って行った。僕は、ダンスフロアに戻り、狂乱的に遊んでいる経営者達を見ながら彼の言葉を反芻していた。どうしても、素面(しらふ)でいられるノリでないので、シャンパン、ワインを飲み続けた。
パーティは、夜中の12時過ぎに終わった。会場を出て、ホテルに戻ると、ロビーに特設のダンスフロアが設けられていて、音楽が鳴り響いていた。僕も、その中に加わり、踊り続けた。ホテルも借し切り状態なので、何の気兼ねも無く、ロビーフロアをディスコに変身させられるのだ。一流ホテルのロビー階がダンスフロアになっている。なかなか楽しいものだ。一度でいいからG1サミットでもこのような趣向を凝らしてみたいものだ(星野リゾート・星野さんは、OK出してくれるかな?)。
お陰で、翌朝は二日酔いだ。そして、デンバーのGLSが終わった。正直言って、アサンジ氏以外のプログラムは面白くなかった。サンヨー食品の井田さん曰く、「こういうコンファレンスに来ると、G1サミットのレベルの高さがわかる」。僕も同感だ。殆どがキーノートで、チョイスが無いので、興味が無いものも聞かなければならないのだ。
そして、パッキングして、NYに向かう事にした。今回の出張は、LA1泊、ヴェイル2泊、ンバー2泊、そしてNY4泊の旅程だ。まだまだ出張は、続く。
2011年3月3日
日本への帰路に執筆
堀義人