(Twitterで呟いたものに加筆修正して、コラム化しました。勢いを大切にするために、その時の感覚のまま、文章を残しています)。
翌5月31日、KIBOWバンコクが開催されたホテルから、東アジア経済サミットが開かれるホテルに移動した。相変わらずバンコクは、渋滞が激しい。
14時からタイのインラック首相とのプライベートセッションに参加した。若く美しい首相だ。しかも、親しみやすい雰囲気だ。スピーチも無くいきなり質疑応答で始まった。僕は早速手を上げて、発言を始めた。先ずは、地震・津波のときのタイ国のサポートに謝意を示してから、ナワナコン工業団地に訪問した時に感じた経営者の不安を伝え、今後の洪水対策に関して質問をした。
30分ほど歓談した後に、インラック首相が退席する前に、集合写真を撮った。首相が退席した後は、副首相との対話だ。この副首相が英語がペラペラなのには、ビックリした。これが、世界のエリートだ。
副首相との対話の時にも再度手を上げて、「今のタイ国が直面する課題は何か」と質問した。タイ国副首相は、「法人税は30%と高いので、25%、そして20%へと下げる。これで、他国とフェアな競争ができる。消費税も所得税も上げない。政府の効率性をあげることにより、増税を避け、企業の競争力を担保する」と力強い口調で応じた。
今、ホテルの入り口で、インラック首相がバーレーンの首相を軽く膝折って迎え入れた。そして、メイン会場に、インドネシアのユドヨノ大統領が入場した。SPやカメラマンが、会場を取り巻き、騒然としている。今から東アジア経済サミットのオープニング・セレモニーが始まる。ワクワクしてきた。
いよいよオープニングだ。クラウス・シュワブ氏とともに、インドネシア大統領、タイ、ベトナム、そしてラオスの首相が集結。一人一人が壇上で紹介されている。まさに、東南アジア最大のイベントだ。だが、このセッション自体は、政治ショー的な色彩が強く、あまり面白くなかった。
東アジア経済サミットの二日目の朝。日本の朝食会。タイの経済大臣が参加して、日本からの参加者に、洪水対策などを説明していた。日本側からは、竹中平蔵さんなど、政・財・学界を代表する方々が参加していた。
昨年の洪水は、タイ経済に打撃を与えた。昨年末の四半期は、マイナス7%。未だに洪水地域は、GDPが70%しか戻ってきていないと言う。やはり、打撃は大きい。日本の朝食会を終え、メイン会場へ。
アウン・サン・スーチー氏が登場した。会場は、スタンディング・オベーションだ。スーチー女史の24年ぶりの外遊の地がタイで、その会合が、東アジア経済サミットだ。水色の民族衣装風の着物をまとい、品の良さが伝わってくる。
アウン・サン・スーチー女史のスピーチが始まった。カメラが彼女を追う中、英国仕込みの英語でスピーチが始まった。「今起こっている変化は、不可逆的だ。改革ではなくて、改善について話したい。改革はよくも悪くもなるから、敢えて、国民にとっての改善というテーマで話をしたい」と。
「クリティカル・マスが教育を、特に中等教育を受けることが、改善に必要だ。ミャンマーでは、青年の失業が大きな問題だ。また、汚職と不平等を変えなければならない。重要なことは、職を創ることだ。そのためには、初等教育もしっかりと行う必要がある」。
「改革・改善をするためには、国民のコミットメントが必要だ。どうか、ミャンマーに協力して欲しい」アウン・サン・スーチー女史は、メモも一切観ないで、情熱的に流暢な英語で訴えかける。ビシビシと気持ちが伝わってくる。やはり、カリスマ・リーダーとしての素養がある。
「何が一番のプライオリティか? 」というクラウス・シュワブ氏の質問に対して、「職の創造だ。雇用をつくることが一番重要だ」。「国民のコミットメントとは?」に対し、「国民をエンパワーすることが重要だ」。とても明快な答えが、アウン・サン・スーチー女史から返って来る。
「そのための政治システムの現状をどうみるか」に対して、「今のは民主的にみえるが、実は違う。本当の意味での民主的なプロセスを創ることだ。そのために必要なことは、国民やコミュニティーに意思決定する権利を与えることだ。これにより国民はエンパワーされる」。
「今必要なのは、しっかりとした法治主義だ。法に従い、統治される仕組みを導入することが重要だ」。「多民族国家を束ねるには、信頼が必要だ。強い基盤を創ることだ」強い信念が、ビシビシと伝わってくる。
アウン・サン・スーチー女史は、質問の途中で、遮ってしゃべり出そうとするなど、自らが明確に考えを持っている様子が伝わってくる。また、ジョークを飛ばす余裕もある。わかりやすい言葉を使い、情熱的だ。「No endeavor, no hope」という言葉のあとに、拍手が上がった。
会場が、興奮に包まれていく。アウン・サン・スーチー女史は、思ったよりも、パワフルで、賢く、魅力的だ。おそらく世界を魅了するであろう。世界の知識人は、明らかにサポートするだろう。今回のスピーチは、大成功だ。最後は、スタンディング・オベーションだ。ネルソン・マンデラ以来のカリスマ登場だ。
スーチー女史と握手をする機会を得た。その前後に撮られた写真が、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に掲載された。後ろ髪を引かれる思いで、次のランチセッションに移った。Valueに関するセッションだった。
朝から活発に会議に参加している。もうそろそろ僕が登壇するセッションが始まる。日本からは、平野達男復興大臣、竹中平蔵さんなどが登壇した。アウン・サン・スーチー女史が登壇するような場で、登壇者として選ばれているのは、とても光栄なことだ。
さあて、今から東アジア経済会議で登壇して来よう。テーマは、"Technology Enabling Industries, Bridging Communities"だ。得意な分野でもあるので、持論を思いっきり語ってこよう。
東アジア経済サミットでの、僕の登壇のセッションを終了。うまくできた、と思う。英語でセッションに参加し続けてもう10年ぐらいになる。やはり、継続は力だ。
ホテルの部屋のテラスから、眼下にチャオプラヤ川が見える。タイの伝統的な船を模した観光船が横断する中、近代的なモーターボートが行き来し、物資を運ぶはしけがゆっくりと川を縦に遡って行く。雲が厚く空を覆い、スコールの準備をしているようだ。軽くビールを飲みながら、先ずは登壇の緊張をほぐした。
2012年6月8日
ヒースロー空港でTwitterを加筆修正して執筆
堀義人
PS ダボス会議を運営する世界経済フォーラム(WEF)主催の「東アジア経済会議(バンコク)」で、僕が登壇した際の 写真がWEF公式ページ上がっていました(^^)