今年2月発売の『ビジネススクールで教えている 武器としてのAI×TECHスキル』から「Chapter2 問題解決のレベルを上げる」の一部を紹介します。
これまでの論理思考ベースの問題解決アプローチにおいて、キーワードとなるのは「絞り込み」でした。MECEやロジックツリー、イシューツリーといったコンセプトやツールもそれを反映しています。人間の脳や経営資源は有限であり、個別の課題に個別のアプローチをとることは費用対効果的に見合わないことがその理由でした。
しかしそうした世界観は変わりつつあります。たとえばAmazonは一人ひとりすべて異なる推薦商品を表示しており、それによって売上げの最大化を実現しています。テクノロジーを徹底的に活用し、これまで切り捨てていた個所にもアプローチするという問題解決手法も同時に身に着ける必要性が高まっているのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
テクノベート・シンキングによる問題解決アプローチとその進化
クリティカル・シンキングに基づく問題解決アプローチは有効ではありますが、人間の脳の処理能力や思考時間の限界を考慮したアプローチであるため、特定の問題箇所や施策以外は切り捨てるという限界もありました。
それが今では、従来は切り捨てられていた箇所からも発見を得られるようになりました。であれば、今までは難しくて扱えなかった、あるいは解決できなかった課題も解決できるのではないでしょうか。
この問いに答えるのが、ITの力を借り、考えたり処理したりすることはテクノロジーに任せるという問題解決のアプローチです。グロービスではこれをテクノベート・シンキングと定義しています。テクノベートとは、「はじめに」でも触れたように、テクノロジーとイノベーションを組み合わせた造語であり、我々は広くこの言葉を用い、広める努力をしています。
例で考えてみましょう。オンラインショッピングであと1割売上高を伸ばしたいとします。この問題に対し、顧客セグメント(属性など)を分け、追加購入をしそうな顧客を絞り、広告やキャンペーンなどを行ったり、メール案内をしたりするなどが従来のアプローチです。
それに対してテクノベート・シンキングのアプローチでは、まず「1割売上を上げる」ための、ありたい姿を具体的に考えます。たとえば、「全ユーザーに、個別の『お薦め』とクーポンを提案し、15%の人に購入してもらって売上1割増を達成する」などです。
このありたい姿に対し、人間はコンピュータが処理をするためのロジック(アルゴリズム)を考えます。「どのデータを、どのタイミングでどう計算し、どういう場合に何を表示させるか」を考えるということです。なお、アルゴリズムにはさまざまな意味があるのでその峻別が大切です。それについては後述します。
そのやり方が正しい処理かどうかは、コンピュータの出した結果や実ユーザーの反応で判断します。適宜指示を変えることもあります。お薦めしたけれど反応がないのでお薦めを表示するロジックを変える、あるいはお薦めやクーポン以外の施策として、同一製品の複数購入での割引に変えるといった具合です。このようなやり方であらゆる顧客に個別にアプローチすることは、人間の力だけでは不可能です。しかし、ITやインターネットを活用したサービスにおいて、AIやビッグデータを活用する場合はそれが可能となるのです。
上記はあくまで一例です。近年では、あらゆる分野で最新のITを活用することで、今まで難しかったことができるようになりました。これからビジネスリーダーを目指す方であれば、クリティカル・シンキング的な問題解決方法だけではなく、やはりこの分野の素養も持っておきたいものです。
『ビジネススクールで教えている 武器としてのAI×TECHスキル』
著:グロービス経営大学院 発行日:2024/2/28 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社