2007年5月に他界された、ジェームス・C・アベグレン氏の足跡を、近しく接せられた方々から寄せられた追悼文で振り返ります。最後にご登場いただくのは、アベグレン氏のクラス「日本企業経営」に参加された受講生の皆さんです(敬称略)。
奥村智明/大阪校受講生
2006年10月期に「日本企業経営」のクラスを受講しました。開講前は、アベグレン先生のお名前には引かれつつも、「80歳を超えるご高齢では活気あるクラスにはならないのでは」との思いから、正直、あまり期待は寄せていませんでした。けれど、クラスが始まるや否や、その思いは一変しました。先生の、眼光鋭く、緊張感と迫力に満ちた話しぶりに、グイグイと引きつけられていったのです。
ビジネススクールでいわゆる欧米の経営理論を学び、多くの知識を身につける一方、私たちにはどこか、日本に対する自信を失いかけているところがあったと思います。しかし先生は、「日本人はもっと日本の経営に自信を持って良い」「日本の経営は欧米とは違うが、違いは悪ではない」と、幾度となく明言し、私たちを励ましてくれました。
数名に分かれてのグループワークでは、私たちは日本企業の海外進出についてまとめました。「日本的経営」の良さを活かす、「海外進出の凄い仕掛け」とした報告を、それは先生からみればつたない内容だったとは思いますが、先生は良い研究だったと褒めてくれました。
最後のクラスでは、受講生全員が感謝の気持ちを込めた寄せ書きを、「君が代」のコーラスをバックに贈りました。その時も、とてもお元気そうで、まさか、こんなにも早く別れが来るとは夢にも思いませんでした。結果的に私たちが先生の最後の教え子ということになってしまいましたが、その名に恥じぬよう、これからも日本的経営の良さを意識し、活かしていきたいと考えています。
本田雅一/大阪校受講生
「日本企業経営」は、アベグレン先生と共に、クラス全体が日本企業の現在・過去・未来について深く考える、大変に素晴らしい講義でした。
ディスカッション中心に進むクラスの中で先生が何気なく発される指摘は常に鋭く、ご高齢を感じさせぬ凄みに満ちていました。まさに長年の経験、実務の積み重ねが、先生の言葉の一つひとつに滲み出ていたように思います。
クラスを通じ、日本人の私たちが意識せず、またできていなかった、日本のいう国の本当の良さ、強さを、様々な角度から教えていただきました。それは気づきの多い、非常に貴重な時間でした。
先生は、また、講義後の懇親会にも度々参加してくださいました。我々の輪に自ら積極的に入り、気さくな冗談を交えながら、日本やアメリカ、欧州、アジアの企業経営や社会、文化について熱い議論を展開されました。つい先日のことなのに、と、大変に懐かしく思い返しています。
先生から学んだ知恵・知識を大切にして、意思を受け継ぎ、世の中の創造や変革に役立てていきたいと思います。
高橋健三/大阪校受講生
アベグレン先生に初めてお会いしたのは2006年10月11日。僕は大阪校のGDBA第1期生として既に卒業していましたが、「日本企業経営」というテーマに興味を持ち、受講を決めました。
ご著書『新・日本の経営』にサインをいただき、慣れない英語で自己紹介するところからクラスはスタートしました。
3人1組のグループで、僕達は松下電器産業を題材にレポートを作成しました。創業者・松下幸之助の経営哲学から、同社の改革の歴史を経て、今後の勝ち残りの戦略をまとめるプロセスで、それは、これまでどちらかと言えば米国に寄った経営スタイルを学んできた僕にとっては、日本企業の強さと魅力を改めて見直す、とても有意義な機会となりました。
とりわけ印象に残ったのは、つい安易に使ってしまう「グローバル戦略」という言葉に対する先生の反応でした。「本当のグローバルは、どういう意味ですか?」「国も言葉も文化も法律も価値観が全て異なる環境を“グローバル”と一つに括って本当に戦略を遂行できますか?」という問いかけには、深い学びがありました。
クラス最終日。先生に寄せ書きを送ろうということになり、全員が感謝の気持ちを書き込んだ色紙を僕が代表で手渡すことになりました。その際、先生がとても嬉しそうに受け取ってくださったのが心に残っています。そして、そのときに撮った先生との2ショット写真とクラスでいただいたA評価が僕の宝物になりました。
日本人の良さと日本企業の強さを教えていただいたことに改めて感謝すると共に、先生の教えを活かし、今後も価値ある経営を目指していこうと思っています。
野口浩一/大阪校受講生
幸運にも、2006年10月に大阪で開講された「日本企業経営」の受講生となることができました。やさしく包み込むような話し方と優雅な立ち振る舞い、それと対照的な鋭い眼光、そして年齢を感じさせないシャープさがアベグレン先生の第一印象でした。
先生からは日本と日本企業の優秀性を講義、受講生の発表への寸評、クラス終了後のパーティーなどを通し、重ねて認識させられました。
先生は独自のマクロ的視点で日本企業を分析し、かつての高度成長の一因が日本人の国民性にあったこと、また「失われた10年」は実は日本企業の再設計・再構築のプロセスであったことを示してくださいました。そして、日本企業が将来のために何を課題とするのかというヒントも与えてくれました。
失われた10年を多少沈んだ気持ちで過ごし、将来に不安も持っていた私ですが、今、誰かに日本企業や経済について訊ねられたら、「日本と日本企業は再設計・再編成の10年を経て成熟期に向けて新たな経営戦略を策定・実行しているから将来は明るいですよ」と返答するでしょう。私自身の役割もそこにあるように感じています。
アメリカ人であるアベグレン先生に日本の素晴らしさを気づかせていただき、将来への勇気もいただいたのです。
西村美也子/東京校受講生
アベグレン先生がグロービス経営大学院で「日本企業経営」を題材にしたクラスを持たれると聞き、真っ先に受講しました。クラスは英語がベースでしたが、時には思わず日本語で我々に語りかけるなど、「これだけは伝えたい」という先生の熱心な気持ちが随所に溢れた講義が大変に印象的でした。
活発で生産的なクラスディスカッションにお褒めの言葉をいただく一方で、「読書の分野が限られているため、考えがその範囲内に留まってしまっているのではないか?」と、ご教示いただいたことは、特に忘れられません。在学中は、ついビジネス書ばかりに目が行っていましたが、「もっと幅広い書籍を読みなさい」「歴史や文化、哲学など、幅広い読書経験が高い視座を醸成するのです」という先生の言葉に、目の前が開ける思いがしました。
先生は最後の時まで、我々受講生のことを気にかけてくださっていたと聞いています。私は、それは即ち、先生が日本の次代を応援してくださっていたものと受け止めています。その気持ちに応えるため、より一層頑張りたいと、決意しています。