今年2月発売の『ビジネススクールで教えている 武器としてのAI×TECHスキル』から「Chapter3 IT人材と協業する」の一部を紹介します。
ある程度複雑なシステムになると、社内では対応できないため、外部のSIerなどにシステム開発を委託することになります。ただこれまでは、システム開発のプロセスの中でコミュニケーションに齟齬が生じ、発注側が期待するものとは微妙に異なるシステムが出来上がるということが多々ありました。そうした事態を避けるためには、ビジネスサイドの人間がITを理解することに加え、IT人材の中でもビジネスをよく理解している人材を見分け、協業することが大切になります。特に後者のような人材を多く抱えるSIerを見出し、チームを形成してコミュニケーションの量を増やすことが、目的に適った良いシステム開発につながります。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
チームで動く時代に
上記のような問題が多発したこともあってそれを避けようという機運が高まったこと、また協業のためのコミュニケーションツールやクラウトが発達したなどの影響もあって、昨今では社内のITチームとの協業の際はもちろん、外部のSIerにシステム開発を依頼する場合でも、共同チームとして動くことが増えています。
これにより、顧客サイドが欲しいものが出来上がる可能性が高まるとともに、時間短縮にもつながります。通常、発注して納品するというスタイルは、時間を要するものです。その問に、経営環境の変化などが起こる可能性はますます高まっています。それゆえ、チームとして密に連携し、アジャイル開発でどんどんプロジェクトを進めていく方がリスクも小さくて好ましいのです。
可能であれば、チームのコミュニケーションは毎日行うとよいでしょう。今までは週次のミーティングのみということもありましたが、それでは「ズレ」が生じたり、そのリカバリーに時間がかかったりしてしまいます。オンラインでもいいので毎日顔を合わせて話をしたり、slackのような格式張らないコミュニケーションツールを用いたりしてコミュニケーション量を増やすことが効果的です。
なお、外部人材と業務委託契約を締結する場合は、請負業者(受託者)を発注者(委託者)の指揮命令下に置き、直接指揮をとったり指示命令などをしたりすることはできないなど、法制度を正しく理解しておくことも重要です。
図に、システム開発プロジェクトにおける、主役、サポート・情報提供役を示しました。これらの人々が適切に協業できれば、システム開発が非常にスムーズに進みます。
ちなみに、優秀なビジネスのわかるエンジニアであれば、「これってエンドユーザーは誰ですか?」「お金の発生源はどこですか。お金周りはどういう業務フローになりますか?」「業界構造はどうなっていますか?」というところまで聞いたうえで図のプロセスを時にはサポート・情報提供役、時には主役となって進めてくれます。
たとえばある業界向けのシステムを作るのであれば、柔軟性が求められる部分や堅牢性の高さが求められる部分を的確に理解し、カスタマイズが多い部分とそうでない部分を切り分けたアーキテクチャやデータの設計などを提案してくれます(一般論として、お金の発生源[ステークホルダーの構造]を理解しておくと、どの部分に追加の要求がよく発生するかが理解しやすくなります)。
そうしたエンジニアは必ずしも多いわけではありませんが存在はします。そうした人材を見分ける1つのポイントは、実績、そしてそこから生じる評判です。「あの人は優秀だった」という口コミの収集は、個人では限界がありますので、会社として敏感になっておきたいものです。間違ったベンダーの選定をしてしまうと、あとからボタンを1つ追加するだけで数十万の見積もりをとられる、といったことも発生するのです。
『ビジネススクールで教えている 武器としてのAI×TECHスキル』
著:グロービス経営大学院 発行日:2024/2/28 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社