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トヨタのリコール問題に学ぶ危機管理の重要性(堀義人 起業家の冒言)

投稿日:2010/02/25更新日:2019/08/20

フィナンシャル・タイムズ一面 4日連続でトヨタ問題

最善観という考え方がある。「全て起こったことは、神からの恩寵である」という考え方だ。問題は、それを乗り越える強靭さを身につけるために起こってくれたのだとポジティブに捉え、反省すべきは反省し、すぐに良い方向に向かって行動し、結果的にその問題をバネにさらに飛躍するという考え方をさす。今回のトヨタの問題も、最善観に則ってそのように是非前向きに対処して欲しいと強く思う。

僕は、英国経済紙のフィナンシャル・タイムズ(FT)に毎朝目を通す。あのピンク色の独特のカラーがついている新聞紙である。米国紙よりも、米国偏重でなく、グローバルな面でバランスが取れているので愛読している。

ところが、そのFTの一面のトップ記事が、4日連続でトヨタ問題なのだ。4日連続である。見出しには、会社を指すときには、「TOYOTA」で、社長を示すときには「TOYODA」と区別されるが、いずれにせよ、4日連続でトップニュースなのだ。ピンク色の紙面に目を通すたびに、読む気がしなくなるのである。一日一日と日本屈指のブランドが落ちていくような気がして、とても辛くなる。なぜ、こうなったのだろうか。

僕の愛車は、アルファード・ハイブリッドだ。親父も兄もプリウスに乗っている。車にうるさい親父にヒアリングしても、トヨタ車への品質面への疑いの声は聞かれない。「ソフトに多少のバグがあったのかもしれないが、それはマイナーな問題である」、と。僕にいたっては、全く疑いすら持っていないのだ。たまたま乗り合わせたプリウスのタクシー運転手にヒアリングしても、「米国の事故は運転技術の問題では?」、と。では、何が悪かったのだろうか。

グロービスは、トヨタ社の企業内研修を実施する機会をもらってきた。社員に接してきた体験からも、強い企業文化とトコトンまで自らを鍛錬するトヨタイズムを強く感じとっていた。あの会社に接していると、どのような報道がされようが、信頼感は揺がないのだ。それほどの崇高な精神を感じてきたからだ。普天間問題への復讐だとか、GMを抜いたための嫉妬だとか、米国の経済危機が起こると他国をバッシングする風潮が常におこるとか、色々な論調がある。ただ、それを言っても始まらない。ここは、最善観に則り、この問題を「ありがたい」と認識して、学ぶ必要を感じている。

問われる危機管理能力

一言で言えば、「対応が悪かったのだ」、と思っている。初動の遅さ、適切な説明の有無、論理・感情双方への配慮などコミュニケーション面での課題が多い。残念ながら、今までのトヨタの対応は、悪いコミュニケーションの事例として学ぶ典型的なものとなっていた。

こういう問題が発生したら、スピーディに、必要な材料を適切にディスクローズし、感情面への配慮をしながら、コミュニケーションをするのが、肝要なのだ。。FT紙を読んでいて、一番問題だと思ったのは、ダボス会議における豊田社長の姿勢だった。そのFT紙の記事によると、「豊田社長は、ダボス会議でメディアとの接触を逃れ、逃げ帰るようにダボスを去っていった」と書かれていた。これは、事実に反するのかもしれない。何らかの理由で、早々と帰国する必要があったのかもしれないし、そもそも最初からメディアとのアポなど設定されていなかったのかもしれない。だが、メディアのトップが数多く集うダボスの場は、格好の説明の機会であったと思う。そこで、是非とも堂々と自分のお考えを発していただくべきでなかったか。

HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)では、ジョンソン&ジョンソンの事例をもとに、危機管理下におけるトップのコミュニケーションの重要性を学ぶ。グロービス経営大学院でも、新たに「企業の理念と社会的価値」という、企業倫理や社会的責任をテーマにしたコースをつくり、トップの姿勢を学ぶ機会を設ける。そのコースでは、「一番重要なことは、スピーディに伝えようという姿勢である」、と教える。

「全てをいつでも説明します」という姿勢で、パワーポイントやフリップボードを使って論理的に説明し、わかることをわからないことを峻別する。そして、十分すぎる時間の質疑・応答時間をとり、隠す意思が無いことを示すのである。これを要請に応じて何度も行うのである。欧米では、謝罪会見よりも、しっかりと説明する会見が重要なのだ。

グロービスでは、経営陣全員がメディア・トレーニングを受けることが義務づけられている。僕が受講した際は、一日150万円も払って香港からプロのコンサルタントを呼び寄せて研修を実施した。良い会見、悪い会見の事例をビデオで見せられて、やってはいけないこと、やって良いことを徹底的に叩き込まれるのだ。その後、実際に英語で模擬インタビューを3回ほど実施する。そのビデオが再生され、「どこが良かったか、どこが悪かったか」を問いかけられるのである。僕以外にも、インタビューを受ける可能性がある経営陣・マネジャーには全員、グループ単位で研修を受けることが義務付けていた。値段は高いが、ブランド価値が損失する可能性に比べたら、とても安いものである。

是非とも、最善観に則って、この問題から多くのことを学び、ポジティブな方向性に進んで欲しい。トヨタ社が持っている力があれば、この問題をバネに、さらに飛躍できる筈である。そう願いたい。

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