平成の時代が終わり、令和の時代が始まった。令和時代における個人、起業家、企業のあり方を3部作で簡単にまとめてみることにした。先ずは、個人の生き方を考察してみたい。
令和時代の今上天皇は、僕の2つ年上である。まさに同世代と言えよう。今上天皇の即位の礼には、世耕経産大臣や河野外務大臣など僕ら同世代の政治家仲間が多数列席していた。同世代の天皇陛下の時代は、恐らくは今後20年以上は続くであろう。令和は、僕ら世代が責任を持って日本そして世界を良い方向に導いていく、まさに「世代の責任」を負う時代と言えよう。
その令和時代のキーワードは、以下3つとなると思う。
インクルーシブ:社会の優劣が国の優劣を決める時代へ
戦後の民主的な世界秩序を作ってきたのが米英の2カ国を中心とする欧米諸国だ。ところが、英国の欧州離脱や米国のトランプ政権誕生により、保護主義的になり、イノベーションにも後ろ向きな姿勢をとりつつある。米英ばかりでなく、G7のほかの国々でも同様の問題が発生している。フランスの黄色いベスト運動やイタリアのポピュリスト政権の誕生など、各国で問題が噴出している。これらの問題が生み出された要因が、社会の断絶である。
一方、ダボス会議を主宰するクラウス・シュワブ氏は、日本のことを「最も安定した民主主義国家だ」と断言した。そこで疑問に思うのが、欧米がなぜ不安定で、日本がなぜ安定しているのかだ。
英国のBREXITと米国のトランプを推した主要勢力は似通っている。大ざっぱに分けると地方、高齢者、相対的低学歴、男性である。都会、若者、高学歴、女性は、グローバライゼーションに賛成している人が多かったのだ。一方、同じ分類で見た場合、つまり日本の地方にいる高齢者で相対的低学歴な男性は、必ずしも現状に対して不満は抱いていない。だからこそ日本社会は安定しているとも言える(このあたりの詳細な説明は本コラムの主眼とずれるので別の機会に譲ることにする)。
しかしながら、一見安定して見える日本社会でも、今後は断絶が生まれる可能性がある。その断絶を生み出さないためのキーワードは、「インクルーシブ」だと思う。社会から取り残される人を生み出さずに、多様性を包含し、全ての人々に寄り添い、仲間として接することが重要になる。社員を家族として扱う企業文化の継続、絆を重んじる良質な地域コミュニティの維持、持続可能な社会保障の実現と心ある行政、社会問題を解決するNPOなど、企業、地域コミュニティ、行政、NPOなど全てにおいて、インクルーシブな社会を実現することが重要となる。
サステイナビリティ:地球環境が最優先課題の時代へ
令和時代の最重点課題は、地球環境問題である。CO2排出による地球温暖化問題、海洋プラスティック問題などには、特に強い姿勢で人類が挑む必要がある。CO2排出については、真剣に原子力発電の活用を論じるべきであろう。原発は問題ではなくて、CO2を削減する最も有効な解決手段なのである。化石燃料がダメで、原発もダメで、再生可能エネルギーのみでは、人類の経済・社会活動を中長期的には可能かもしれないが、短期的には支えられないのは明白である。先ずは優先順位を付けて、化石燃料を排除して、再生可能エネルギーで十分に量的に確保できることが明確になってから、原発を廃止すれば良い。理想論だけでは、良い地球環境は維持できない。
同様に海洋プラスティック問題も、真剣な議論が必要である。海洋を汚染している国々に対する外交的なプレッシャーを強くすることも重要である。これらの地球環境問題におけるキーワードが「サステイナビリティ」である。サステイナビリティの実現のためには、感情的にならずに、理想論に偏らずに、現実を直視した、冷静な議論が必要となる。
令和の時代では、地球環境問題という最重要課題に対して、理想論や感情論を排除して、現実的・理性的に議論し解決することにより、サステイナビリティを維持することが重要である。
エシカル・ルール:テクノロジーの進化を人間の幸せにつなげる時代へ
令和の時代には、テクノロジーの指数関数的な進化が、大きな問題を生み出す可能性が高い。既に個人データが少数のプラットフォーマーに握られ、どこで誰が何を考えどのような行動をしているのかが把握されている。人工知能や顔認識のさらなる発達により、信用データが蓄積され究極の管理社会が実現することになろう(すでに中国ではその方向に社会が向かっている)。
さらに恐ろしいのは、人工知能やロボットの兵器化や遺伝子操作の「超人間」の誕生などである。そしてゆくゆくは、頭脳の中にチップが埋めこまれる「インサイダブル」が実現し、記憶をも操作する時代が訪れ、チップとチップがコミュニケーションする時代が来るだろう。宇宙においてもスターウォーズの様な争いが起こる可能性はある。すでに衛星を打ち壊す兵器が開発されている。
令和の時代では、これらのテクノロジーの進化を如何にして人間の幸福につなげていくかが問われることになろう。その時のキーワードが、「エシカル・ルール」の実現である。個人データの乱用防止、人工知能倫理の確立、ロボット機能の抑制、遺伝子操作の制限、インサイダブルの用途制限、宇宙におけるルールの確立など、早め早めのエシカル・ルールの確立が鍵となるであろう。
僕は、社会のインクルーシブ(Inclusive)、地球環境のサステイナビリティ(Sustainability)、テクノロジーのエシカル・ルール(Ethical rule)の英語頭文字を取って「ISE」と言っている。このISEを実現するのが、令和時代における僕らの世代の責任だと思う。
3つとも容易な問題ではない。日本だけでも解決できない問題も多い。でも、諦めてはいけない。僕ら一人ひとりは無力かもしれないが、政治家や学者や起業家やNPOなど多くの仲間が集まれば大きなことが実現できると思っている。日本だけでも実現できない場合には、世界に対して地道に訴えかけていけばよいと思う。日本が、世界のモラル・リーダーの一員として、正しいことを真摯に訴えていけば、世界も動くと思う。
僕ら世代は、昭和時代に心技体を鍛え、20代後半で平成を迎えた。ちなみに僕は平成の始まりとともにハーバードへ留学して、MBA取得後帰国してグロービスを起業し、その後G1を立ち上げた。そして50代後半に迎える令和への改元では、「世代の責任」として、上述のISEを意識して、日本に徹底的に貢献しつつ、世界次元で活動していきたい。
新しい令和の時代もよろしくお願いします。m(ーー)m
令和元年5月1日
番町の自宅にて執筆
堀義人
注)「世代の責任」とは、G1サミットを創設した際のキーワードの1つで、僕らの世代が責任を持って日本を良くし、次の世代に引き継ぐことを意図したものである。