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Evernote創業者が語る、テック系スタートアップが成功するための仕組みとは?

投稿日:2018/06/04更新日:2019/04/09

本記事は、2018年2月28日にグロービス経営大学院公認クラブ「グロービス人工知能研究会」とグロービス経営大学院英語MBAプログラムの共催で行われた、Evernoteの創業者・現All TurtlesのCEOであるPhil Libin氏 のセミナーの一部を翻訳したものです(全2回)。英語の動画版はこちら⇒「Evernote Founder: How Tech Startups can Break Through in Japan

シリコンバレー型起業の限界

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私自身は、この世で最も大きくて解決すべき課題は「不平等」と「花開かない才能・可能性」だと考えています。All Turtlesの信念の中心にあるのは、「本物の天才や輝ける才能はごく稀だが、世界中に均等に存在している」という考え方です。しかし、その能力を活かした仕事をする機会が得られる人はほとんどいません。私やシリコンバレーで働く多くの人は、スタートアップを起業することがその解決策になると長年考えていました。

私はこれまでいくつかの企業を立ち上げてきました。All Turtles は4つ目の企業です。その前は Evernoteで、その前は CoreStreetという行政セキュリティー会社を立ち上げ、売却しました。その前は Engine 5という黎明期のE-コマース企業で、これも売却しました。Engine 5を売却した20分後にドットコムクラッシュが起きたので、とても良いタイミングでした。これら3つの企業を立ち上げて売却した後、資金面でスタートアップを支援するために大手ベンチャーキャピタル・General Catalystに参画しました。

1997年に初めて自分の会社を興してから約20年、スタートアップ エコシステムの中に身を置いてきたわけですが、私はときに起業家であり、CEOであり、メンターであり、ベンチャーキャピタリストでした。企業を買収し、売却もしてきました。しかし、スタートアップや起業についての私たちの考え方の多くは、実は役に立たないと気づいたのです。

そこで私は起業、特にシリコンバレー型の起業について、より注意深く考えるようになりました。それがAll Turtles を始めたきっかけです。最も重大な問題は、シリコンバレーモデルでは不十分だということです。このモデルの恩恵を受けられる人や生み出されるアイデアはあまりに少なく、地理的条件も限られています。

ベンチャーキャピタリストになったとき、私は1人の起業家が超一流のシリコンバレーのベンチャーキャピタルから資金を獲得できる可能性に何が影響するかを分析し、「6つの物差し」があることがわかりました。それは、白人で、男性で、年齢が21歳から27歳の間で、コンピューター科学の学位を持ち、スタンフォード出身で、今もスタンフォードから50分以内に住んでいるかどうか、という条件です。

もし6つの条件に当てはまるならチャンスがありますが、どれか1つでも当てはまらなければ、シリコンバレーで一流の起業家としてスタートを切れるチャンスは格段に減ります。当てはまらない条件が1つ増えるごとに可能性は2~10倍失われていきます。私が所属するベンチャーキャピタルの投資先経営者の多くはこの6つが当てはまるものでした。

ただ、これが正しいこととは思えません。なぜならもしあなたが45歳の女性でメキシコシティーに住み、建築の学位を持っていたとして、モーツァルト級の天才か世界で最も優れた製品の発明者だったとしても、シリコンバレー流に進める道はないのですから。

そして、この6つの条件を持たない人の方に、もっと多くの優れた人々がいると考えました。私たちの考えが正しいならば、彼らに大切なものを生み出すチャンスを与えたらどうなるでしょう。彼らは異なるアイデアと、異なる地理的背景を持っているはずです。その結果、私たちは日々生み出される重要な製品の数を10倍あるいは100倍にも増やすことができ、世界をよくすることができるでしょう。

テクノロジー産業における最適な起業支援とは?

過去の私の間違った考え方の大きな部分は、テクノロジー産業特有のものでした。テック産業では「OK、そのアイデアは素晴らしい。それでは、投資するので私たちのために会社を作ってくれ。ちなみにこれが会社の作り方についてのWikipediaだ。」という言い方をします。つまり、起業家が自分の製品が成功できるかどうかを試す前に、会社創りに必要なあらゆる困難を学習するよう求めるのです。

もしあなたがミュージシャンならば、音楽会社を作る必要はありません。音楽を届けるプラットフォームは過去何十年かの間にすでに作られており、飛び抜けた才能を持つミュージシャンは演奏だけすればよいのです。例えばYouTube等のプラットフォームのおかげで10億人へ届けることもできます。もしあなたが世界一才能のある作家ならば、出版社を作る必要はありません。多くの読者にリーチできるプラットフォームはすでに存在し、10億人の人に読んでもらうことができます。もしあなたが世界一才能ある映画監督かアニメーターだとしたら、映画会社を作る必要はありません。Pixar や Netflix あるいは HBO で仕事をして何かを作る、ただそれだけです。

しかし、もしあなたが世界で最も優れた製品の発明家だとしたら、まず会社を作ることを求められます。私たちはそこを変えたいのです。

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この2x2マトリックスは事業創出についての特色を表しています。水平軸の左上には企業、基本的には保守的な組織が入ります。右下は起業家精神に富んだ組織です。彼らには守るべきものは少なく、常に新しい機会を探し求めます。

私たちはこう分析しています。「テクノロジーの世界では現状、製品を作りたければ2つの選択肢しかない。一つは大手企業。もう一つはスタートアップ。」

プロフェッショナル集団である大手企業の中でも、もちろん製品を作ることはできます。彼らには規律やノウハウがありますが、とても保守的で何か革新的なものを作るのはとても難しい。Amazon や Google のような珍しい例外もありますが、構造上、大手の企業というのは有能ですが保守的といえます。

左下には、例えば行政も入るでしょう。いずれにしても新しい価値を生み出しにくいです。

もう一つの方法、スタートアップ企業を興す場合はどうでしょう。大企業と異なり、革新的で、優れたアイデアを追求するのです。しかし、うまくいかないことも多いでしょう。なぜならスタートアップとは、会社経営でやるべきことを何もわかっていないからです。スタートアップは、みんな同じ間違いを繰り返しているのです。

実際、大多数のスタートアップ企業が失敗するのは、彼らのほとんどが会社経営に関してはアマチュアのセグメントにいるからです。つまり、自分の「製品」とは無関係の理由で失敗してしまうのです。そして、ごく稀に成功したスタートアップはプロフェッショナルになっていく過程で、革新性を失っていきます。これはほとんどのスタートアップに起きることです。より大きな成功を収めると、よりプロフェッショナルになり、組織化が進み、利益体質になり、やがて革新性を失う。このことが何度も繰り返されているのです。

ところで、右上はどうでしょう。なぜ、プロフェッショナルな手法で革新的な事業を生み出すような仕組みが存在しないのでしょう。テクノロジーの世界では、Amazon や Google など個別の企業には仕組みが存在しますが、ほとんどの企業にはありません。

実は、テクノロジーの世界ではなく、ハリウッドは過去10年間でこの問題を解決しました。2、30年前、ハリウッドは貧弱なビジネスモデルで、大手スタジオの多くがヒット作に恵まれず破産していました。しかし、過去10年で、近代的な企業としてのスタジオモデルを持つ Netflix、HBO、Amazon Video などが誕生しました。これらの企業が実現させたのはプロフェッショナルで、規律ある組織です。そして、たくさんのオリジナルコンテンツを安定かつプロフェッショナルな手法で製作しています。

これこそ私がテクノロジーの世界で実現したいことなのです。私たちは Netflix や HBOと同じ方法でスタジオを作りたいのです。この産業の最も才能ある人々を惹きつける場所を作り、オリジナル製品を作り、ユーザに届けるのです。しかし、私たちが作るのはテレビ番組ではなく、テクノロジー製品です。私たちは過去10年間にハリウッドで上手く機能したモデルをテクノロジーに応用しようとしているのです。

AI スタートアップ・スタジオとは?

私たちのAI スタートアップ・スタジオについて少し説明しましょう。

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私は、以前から AI に関連したアイデアを持っており、Evernote 時代にもいくつかを実行しました。当時、私たちは AI に注力していましたが、それを人工知能ではなく、拡張知能(訳註:augmented intelligence)と呼んでいました。つまり、人間の能力を補うテクノロジーです。コンピューターと人間を組み合せることで、人間だけ、あるいはコンピューターだけよりもずっと賢いことができるのです。

2012年、Evernote で最初のAI チームを立ち上げました。拡張知能を研究・開発するエンジニアが10人いて、それらを応用した数多くの機能を発表しました。例えば Evernote を使えば、同僚やチームメートが作った同じトピックのノートを探さずして見つける機能。また「先回りサーチ」や「セレンディピティー追及」など、多くのことをパートナーと共に実験しました。当時から私は、AI を使って人間の知性を補う方法を考えてきたのです。

All Turtles では、ほとんどのスタートアップが失敗するという考え方を持っています。これまで多くの統計を見てきましたが、その値は集計をどこで始めるかによって変わります。一番楽観的な統計は事前資金調達からの集計で、75%のスタートアップが失敗するというものでした。また、製品提案の段階から集計すると98%になります。そう、98%のスタートアップが失敗するのです。というのもスタートアップの経営には、プロダクトを作るだけではなく、オペレーション、事業提携、資金調達、人事・採用、さらに法務などがあります。これら全てが大変な作業で、どれか一つで大きくミスするだけで、会社ごと失敗する可能性があるのです。

なぜ、スタートアップ企業の創業者がこうしたあらゆることに精通する必要があるのでしょう。そんなことは土台無理です。そこで私たちはこうしたプロダクト作り以外の仕事を AI テクノロジープラットフォームと共にこちらから提供し、創業者たちとプロダクト作りに取り掛かります。これは、ハリウッドの近代的なスタジオが映画やテレビ番組を作るのに似た方法です。

私たちのスローガンは「Product First:プロダクト第一」です。つまり、「会社」を作ることが大事なのではなく、プロダクトこそが大事だということで、これは創業者や起業家たちとの約束です。

プロダクトになるものは単なるテクノロジーではありません。デモやプロトタイプ、MVP(Minimum Viable Product)でもありません。プロダクト(=製品)、つまり、売るもの、人々がそれにお金を払うもの、使わざるを得ないものです。それでこそ価値があるのです。ですから私たちの仕事は(会社作りではなく)プロダクト作りに集中しているのです。

起業家に始めに尋ねるのは「プロダクトはもうできていますか」です。答えが「まだです」でも「はい」でも、どちらでも構いません。前者なら一緒に(売れる本当のプロダクト)作るプロジェクトを立ち上げるかもしれません。ただ、うまく「プロダクト」にならなければ、そのプロジェクトを止めることになります。もし「プロダクト」が出来上がったらそこではじめて、「会社」として機能するように全てを整えます。「株主構成」、「知財の帰属」、「組織・人員」、「契約」等々。ただ、大事なのはあくまでもプロダクトであって、「会社」ではありません。

まず、アイデアが存在します。アイデアそのものは実は大して重要ではありません。無数のアイデアが存在し、多くのものは捨て去られます。次に、有望と思うアイデアがユーザに受け入れられるのか試す必要があります。効果的な試験を行い、テストがうまくいけば、実際のプロダクトを作ることに進みます。その後、本当に「プロダクト」として支持されれば、そこで初めて会社を作るか、作らないかの決断をすればいいのです。

All Turtle は基本的に創業者とともに、これらすべての仕事をします。私たちの考え方は「共同創業者のようでありたい」ということです。ですから、創業者であるあなたが All Turtles に参加したら、私たちはあなたの共同設立者でありたいと思っています。そして、プロダクトを成功させるために共同設立者がやるべきことをすべて行います。

後編:Evernote創業者が語る、テック系スタートアップが意識すべき4つの基準

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