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マルハレストランシステムズ社長・小島由夫氏(前編)―伝説のレストランは、なぜ東京で復活したのか

投稿日:2008/03/28更新日:2019/04/09

ビートルズやローリング・ストーンズが常連客。若き日のマドンナがウエートレスとして働いていたという伝説のレストラン「ニルヴァーナニューヨーク」。「プロポーズするならここ」とまで言われた人気店を復活させたのは、1人の日本人だった。なぜ、ニルヴァーナは東京で復活したのか?――会社組織の中で夢に向かって邁進するビジネスパーソンを追うインタビュー企画、嶋田淑之の「この人に逢いたい!」第1回はマルハレストランシステムズ社長・小島由夫氏に聞く(この記事は、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年1月18日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

数多くの愛を成就させた伝説の名レストラン

洋の東西を問わず、女性なら誰しも、ロマンチックなシチュエーションでプロポーズされることを夢見るのではないだろうか。男性とてそれは同じで、愛する女性のために最高のステージを演出したいと思うもの。もし、そんな願いをかなえてくれる場所が本当にあるのなら・・・

その場所はニューヨークにあった。セレブ御用達の高級インド・レストラン「ニルヴァーナニューヨーク」(NIRVANA New York)である。

1970年、バングラデシュ初代首相の甥に当たるシャムシャー・ワデュードが、緑豊かなセントラルパークを一望する素晴らしい眺望のペントハウスに店をオープン、その歴史が始まった。ワデュード自身が上流階級の出身ということもあり、レストランのコンセプトは「品格のあるインド料理の提供」。先鋭なコンテンポラリー・アートを取り入れた店作りと、ホスピタリティにあふれたサービスを加えることにより、ニルヴァーナニューヨークは瞬く間にセレブに最も愛されるレストランへと成長した。

ビートルズ、ローリング・ストーンズ、KISS、ノラ・ジョーンズ、レオナルド・ディカプリオ、アンソニー・ホプキンズ・・・きら星の如き大スターたちが常連客として出入りし、また若き日のマドンナがウエートレスとして働いていたというエピソードを持つ。

気品ある料理と並んで愛されたのは、そのロマンチックな雰囲気だ。「お店に入ったとたん、まるで別世界に入り込み、天国でディナーを楽しんでいるような気分になれる」と評判を呼んだ。「ニューヨークでプロポーズするならここ」と言われ、バレンタインの予約は1年前から満席になった。

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ニルヴァーナニューヨークの外観(左)と内装(右)

しかし、たくさんのお客を楽しませてきたこのレストランを突然の悲劇が見舞う。2002年、建設会社によるリフォーム施工ミスが原因でキッチンの外壁が崩落するという事故が発生。それを機に、伝説の名店は32年の生涯を終えた。

ニューヨークはもとより、世界中のニルヴァーナファンから惜しまれての閉店だった。そして5年が経ち、「ニルヴァーナ」は甦る。ニューヨーク・セレブ御用達にして、プロポーズの名所。そのDNAを継承し、2007年3月、東京ミッドタウンのオープンとともにその1階ガーデンテラスに復活したのである。

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東京ミッドタウンの1階に復活した、ニルヴァーナニューヨーク。

惜しまれながら閉店、そして東京で復活

ニルヴァーナの復活劇を仕掛けたのは、マルハレストランシステムズ代表取締役社長の小島由夫氏。シュラスコレストラン「バッカーナ」や、タイの「コカレストラン」「マンゴツリー」など、数々の海外の老舗レストランを日本へ誘致し、運営してきた実績を持つ“カリスマ経営者”である。

小島氏が手がけたレストランの中で、最も有名なのはタイスキ・レストランチェーンの「コカレストラン」だろう。実績のあるタイ料理ではなく、なぜインド料理レストランに取り組むことになったのか。

「三井不動産が社運を賭けた事業として東京ミッドタウンを開発するという話になった時に、オファーをいただきました。『これからは中国・インドの時代だから、中華料理かインド料理の老舗レストランを海外から誘致してオペレーションしてくれないか』と言われたのです。

ただ、中華料理には新規性が感じられなかったので、やはりインドかなと思いました。しかしインドから直接誘致するのは、時期尚早だと判断しましてね。それで、ニューヨークで洗練されたインド・レストランにしようと考えたんです」

ところが、ニューヨークで最初に紹介されたレストランは、ヨーロッパ調の古いタイプの店。小島氏のイメージからはかけ離れたものだった。そして、ここからドラマは動き始める。

この時、小島氏のパートナーとしてニューヨークの案内役を務めたのが、ウォーレン氏(Warren Wadud)だった。ウォーレン氏は慶應義塾大学で日本語やビジネスを学び、米国に帰国後、JETRO(日本貿易振興会)に1年間勤務。その後、2005年に日米間での起業に関するマーケティングと戦略コンサルティングの会社「EN GROUP INTERNATIONAL LLC」を設立していた人物だ。「EN」とは「ご縁」のことで、ウォーレン氏の大好きな言葉だった。

「紹介されたインド・レストランが私のコンセプトと合わないことが判明した時、ウォーレンが、実は、自分は『ニルヴァーナニューヨーク』の創業者の息子だと話したのです。ニルヴァーナをミッドタウンでオープンしたいと思うがどうだろうか? って言い出したんですよ。ニルヴァーナには以前私も行ったことがあり、強い印象を受けていました。それで話を進めることにしたんです」

ウォーレン氏は、父親が体を壊したのに伴い日本から帰国し、1998年から2002年までは、「ニルヴァーナ」を自ら経営していた。こうした偶然の“縁”の導きにより、小島氏とウォーレン氏の思いが重なって、ニューヨーク時代のDNAを継承した新生ニルヴァーナが東京にオープンしたのである。

東京ミッドタウンのニルヴァーナは、たちまち連日行列ができる人気店になった。米国の定評あるレストラン・ガイド「ザガットサーベイ 東京版 2008」でも、初登場でいきなり21点を獲得*1している。

日本に誘致して成功するレストランとは?

海外の有名レストランを日本に誘致して成功させるのは決して容易なことではない。料理は、その土地の気候風土や人情と不可分一体を成しているからだ。例えば、熱帯の高温多湿な土地で大汗をかきながら食べる香辛料たっぷりのエスニック料理を、日本で氷雨降りしきる寒い夜に食べたとする。現地で食べた時と同じ感動を味わえるかと言えば、明らかに答えはノーだ。

現地の味をそのまま日本に持ってきても、決してうまくはいかない。では逆に、日本人の味覚に合わせてアレンジしてしまうとどうなるか? 日本のフランス料理やイタリア料理でもよく起こることだが、たちどころに「フランス“風”料理」や「イタリア“風”料理」に変質してしまう。

何をアレンジして、何を変えてはいけないのか? 小島氏は、その秘訣をこう明かす。「海外のレストラン、とりわけ老舗の名店を日本市場に誘致する際に考えなくてはいけないこと。それは、何があっても決して『変えてはいけないこと』(=「不変」の対象)と、大胆に「変えるべきこと」(=「革新」の対象)とがあるということです。その両者の『識別』を的確に行うことが大切なんです」

その「識別」のポイントはどこになるのだろうか?

「お客様から見て『愛情の対象』となってきた部分は、決して変えてはいけません。ニルヴァーナの場合であれば、『ニューヨークならではのインド料理』という部分は変えてはいけないんです」

2008年1月のディナーコースの一例(8000円)を挙げてみよう。

「ムング豆のブリニイチジクチャツネ、ナスのディップ、キャビアを添えて」

「新鮮ホタテのバナナリーフ包み焼き ガーリックミント風味」

「オーストラリア産ラムシャンク輪切りのカシミール風カレー」

「プレーンナン」

「さつまいもとホワイトセロリのライタ」

「キングブロンとビーフサーロインのタンドールグリル盛り合わせ」

「ジンジャーチョコレートケーキ

いかがだろうか? 純正のインド料理でありながら、同時に、ニューヨークの洗練を感じさせるラインアップではないだろうか。

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変えるべきところ、変えてはいけないところはどこか

小島氏はこうも言う。「また、ニューヨーク時代の『ニルヴァーナ』には、『ホンモノ志向』と同時に、『ノスタルジックな雰囲気』がありました。これも変えてはいけない部分です」と。

昨今の日本社会は人心が疲弊し、暖かい島国にあるリゾート地への移住や、映画「ALWAYS 3丁目の夕日」に代表されるような、昭和中期へのノスタルジーがちょっとしたブームになっている。そういう意味で、ニルヴァーナの「ノスタルジー」は、顧客ニーズにも適合するのでは?

「まさにその通りなんですよ。ですから、ニルヴァーナを東京で復活させるに当たっては、『多くの日本人が漠然と抱いている将来に対する不安感を解消すること』、『仕事や家庭などの日常生活に対する不満感を解消すること』と並んで『ノスタルジーを感じさせる』ことを重視したんです」

筆者の理解では、小島氏の「不変」の貫徹とは、すなわち、海外の本店が持っている「ときめきや感動の源泉」を、日本という文脈の中で変質させることなく再現することにある。

逆に「革新」の実現とは、「不変」の貫徹に貢献し得る部分を思い切って変えてゆくことだ。同時に、海外の本店が持っている魅力的なファクターでも、上記の「不変」の対象になり得なかったり、日本での進出地域の気候風土や顧客ニーズにそぐわなかったりする点を、大胆に変えてゆくということである。

東京ミッドタウンの新生「ニルヴァーナ」は、小島社長のこうした思いが隅々まで裏打ちされた店になっている。ミッドタウンにすでに行かれた方々は理解してもらえると思うが、昼はテラス席の目の前に緑豊かな庭が広がり、夜になれば大きなよく磨かれた窓の向こうに輝く夜景を臨み、ロマンチックな雰囲気が店内に漂う。そしてテーブルに饗されるのは、洗練された“ニューヨーク式インド料理”だ。「日本でもニューヨークと同じように、プロポーズ神話に彩られたセレブ御用達の名店になるのでは?」そんな気にさせられる。

小島氏はこう語る。「ニルヴァーナはニューヨークで始まり、しかしそれは悲劇的な事故によって途絶えました。それが何年か後に、遠い日本で復活を遂げた。となれば、やはりこの物語は、ニルヴァーナがニューヨークに凱旋することによって完結するのではないでしょうか?」そう、ニルヴァーナの物語はこれで終わりではなく、ニューヨーク編へと続くのだ。

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次回は小島氏がこれまで、どのように海外のレストランを日本に誘致し、成功させてきたのか。その軌跡を紹介する。

*1 ザガットサーベイでは、「料理」「内装」「サービス」の3項目について各10点ずつ、30点満点で採点している。

▼「Business Media 誠」とは

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