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クリントンからの招待状(1)〜好奇心の塊(かたまり)

投稿日:2008/12/05更新日:2019/08/21

アジアで初めて開催されるクリントン・グローバル・イニシアチブ(CGI)への招待状が届いたのは、猛暑が過ぎ去った運動会シーズンの頃のことであった。

メールには、「高等教育のあり方に関して、パネリストとして登壇して欲しい」との主旨の記載があった。

CGIは、ダボス会議に次ぐ、世界的なコンファレンスだと認識していたので、即座に日程調整をして可能な限り長く参加できるように手配した。

ちなみに、僕が認知している世界次元のコンファレンスは、以下のように分類できる。

<政治家・経済会などのトップが集う会>
世界経済フォーラム(いわゆる「ダボス会議」)
クリントン・グローバル・イニシアチブ(CGI)

<主に経済人向け>
フォーブズCEOコンファレンス
ビジネス・ウィークCEOコンファレンス他

<ベンチャーキャピタルやテクノロジー系向け>
アジアベンチャー・キャピタル・コンファレンス
スーパー・リターン
ETRE(欧州技術ラウンドテーブル)
レッドヘリング他

<社長・起業家の会員向け>
EO(旧YEO)ユニバーシティ
YPOユニバーシティなど

僕は、これらのコンファレンスにほぼ全てにスピーカーとして登壇する栄誉を得てきた(これらの活動が、世界からの資金集めに多少なりとも貢献したと僕は思っている。ちなみにグロービスのファンドの8-9割は海外投資家からである)。

トピックスは、ベンチャーキャピタル、起業家精神、教育、組織経営など多岐にわたるジャンルである。違う内容を喋るたびに、新たな世界が広がるような感覚を持っているので、積極的に自分の枠を広げるようにしている。登壇の前は、当初は緊張していたが、最近では知的興奮を得ることに喜びを感じるようになってきていた。

僕は、自らを「好奇心の塊」と称するように、知らない世界があれば、ついつい覗いてみたくなってしまう質(たち)なのである。「あの世界はどうなっているのか?」と興味を持っているうちに、チャンスが到来する。すると、「よし、覗いてみよう」となる。そして、「なるほどこうなっているのか」と納得して、次の好奇心の対象に関心が向かうのである。

基本的には、「好奇心-実行-好奇心-実行」という連続でここまで生きてきた感すらある。僕は、この一連の流れの中で、さまざまな世界を体験した。TPOに応じた立ち居振る舞いが身につき、どんな世界に飛び込んでも物怖じしない度胸がつくられ、そしてそれらが、年月を経るにつれて自信に繋がってきているのだと思う。

そして、最近その好奇心の矛先が向いていたのが、このクリントンのコンファレンスであった。様々な方々から評判を聞いていたので、一度は行ってみたいと思っていた。通常は、毎年9月の国連総会に合わせてNYで開催される。僕は、毎年9月に何回か日程を調整したが、今に至るまで残念ながら一度もスケジュールが合わなかったのである。

「アジアで初めて12月に開催する」、ということも知っていたのだが、他の予定が入りつつあったので、躊躇していた。そこに、冒頭のようにスピーカーとしての登壇の案内状が届いたのである。迷わずスケジュールを変更して、参加することにした。ところが、一件だけランチ・ミーティングを主催していることもあり、二日目からの参加となってしまった。

羽田夜8時半発の便で、深夜に香港国際空港に着いた。ホテルにチェックインして、メール対応が終わり、寝床に着いたのは、現地時間の夜中の3時近くであった。

二日目は、朝8時半から会合である。受付を済ませ早めに会場に出向き、なるべく前の席を確保して着席したが、一向に始まらない。その間、プログラムに目を通した。一日目の最初は、国連事務総長を含むパネルであった。クリントン前大統領、アロヨ大統領、そして日本からは川口順子元外務大臣が登壇されていた。さらに、午後にはリー・クワン・ユー上級相とクリントン氏との対談もあったようだ。

確かに、クリントン氏であれば、どんな肩書きの方でも会うであろうし、登壇を頼まれたら断りにくいのではないかと思う。

日本からの登壇者は、他には小池百合子さんがワークショップで登壇する以外には、見当たらなかった。政治家以外では、僕のみがスピーカーとして招へいされているようであった。参加者の中には、マネックス証券の松本大氏の名前があった。金融関係のセッションでは、松本氏が登壇してしかるべきだと思う。是非多くの日本人の方に登壇頂きたいものである。

30分たってようやくクリントン前大統領の登場である。このコンファレンスでは、一貫して開始時間が遅れていた。その点は、あまり感心できない。ダボス会議は、かなり時間厳守で動くので、その点、気持ちがいい。

クリントン氏は、簡単に挨拶をした後に、「4つのコミットメントを紹介する」と言った。そして、最初のコミットメントということで、フィリピンにおけるNPOの教育団体を壇上に招へいし、コミットメントの内容を読み上げ始めたのである。

CGIでは、コンファレンスはただ単に集い、学びあう場のみではない、という位置づけだ。各自が世界をよりよい場所にするための「行動をするコミットメント」が大きな目的になっているのだ。その行動を起こす重点分野が、教育、公衆衛生、そして地球環境であった。全体会(プレナリー)と分科会(ワークショップ)に分かれているが、分科会は、わかりやすくその3つに分類されていた(ちなみにその一つの教育で、僕が招聘されたのである)。

このコミットメントをクリントン前大統領が読み上げた後に、自身の私見も述べ、「コミットメントの認証」と書かれた賞状のようなものが手渡されて、その団体とクリントン氏が写真撮影をして、次の団体を呼ぶ、というルーティンが行われた。

この4つずつコミットメントを紹介するルーティンは、全てのセッションの前に行われ続けた。その都度団体が呼ばれて、内容を紹介されていた。紹介された代表者は、いつも誇らしげであった。

コミットメントの内容は多岐にわたっていた。タイ国の乳癌の治療、ベトナムの外科医の拡充、自殺者の削減コミットメント、中国におけるクリーンテクノロジーの展示会の設営、世界における10億円の教育基金の設立、アディダスなどの大手企業の寄付などもあった。

ここでは、「有言実行」且つ「言わなければ損」的な文化が醸成されていた。皆が競ってコミットメントを書き、紹介を受けている。自らの信じるままに、社会にとって良きものを、人知れず寡黙に行うという日本的美徳は、ここには存在していないのだ。このコミットメントの紹介を聞いていると、一部の方々は、名声のためにコミットメントを行っているのではないかと、疑われてしまうこともあるのではと思えてしまうほどである。

おそらくこのような疑念を持ってしまう僕がまだまだ人間としてできていないのであろう。世の中が良くなれば、宣伝であっても良いではないかとも思えてくるからだ。

その(2)に続く。

2008年12 月4日
中部国際空港に向かう機内にて執筆
堀義人

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