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「失われた10年」は、「学びと戦略・体質改善の10年」だった

投稿日:2008/11/07更新日:2019/08/20

最近、欧米の新聞等で、「欧米の国々も日本と同様に『失われた10年』を迎えるのであろうか」との論調を目にすることがある。しかし、「失われた10年」と言われるが、本当に“失われて”いたのであろうか。

そもそも、90年代の日本のバブル崩壊と今の欧米が置かれているサブプライム・バブル崩壊とでは状況が違うので(バブルが発生した要因が違うので)、単純に比較できるものではないし、「失われた10年」の定義自体が不明確なので、比較しようとすることが無意味なものだと思っている。

そもそも「バブル崩壊」とはどのようなものであろうか。「バブル崩壊」とは、「過剰流動性や加熱な投資熱の結果、株式・不動産などの資産価格が極度に上昇し、資産価格の下落とともに、信用収縮、資産デフレ、消費低迷が伴うものである」というように説明されることが多い。

経済学的には正しい説明なのであろうが、そこには、人の要素が全くない。僕は、先のコラムにも書いたが、どちらかというと経済を数字として見ないで、人の心理や行動の集合体として見る習慣がある。やはり、経済学を学ぶとどうしても数字やモデルを中心に考えるのであろうが、僕のように経営学を学び、自ら経営を実践していると、人を中心にしてみてしまいがちなのである。どちらが良いというわけではなくて、アプローチが違うのである。

僕の見方は、次のとおりである。日本におけるバブル発生は、経営者の間違った認識(経営の誤謬)によってもたらされたものである。そして、日本にとってバブル崩壊後の「失われた10年」とは、「学びと戦略・体質改善の10年」であった、である。

まずは、バブルが発生した理由を以下の通り、三つの誤謬としてまとめてみることにした。

資本コストの概念が欠如していた結果、行われた「財テク」。
マーケットは成長し続けるものであると過信したことによって行われた過剰設備投資。
そして、戦略の概念の欠如から生まれた、横並びの経営。

厳しい言い方になるが、バブルそのものは、全て当時の経営者の経営学の「無学」から発生したものである。当然、その無学の経営者によって率いられた会社は、現在倒産したか吸収合併されていて、この世には存在しない。あるいは、存在していても、経営陣、株主は総入れ替えとなっている。

では、簡単に上記三つの「経営の誤謬」から見ていこう。

資本コストの概念が欠如していた結果、行われた「財テク」。
今でもよく覚えているが、日本経済新聞の記事で、「エクイティ(株式)・ファイナンスは安価である。配当の利回り分のコストしかかからず、返済義務も無いからだ」と当たり前のように書かれてあった。その当時の日本の経営者は、皆、そのように考えていたようだった。だからこそ、「安価」なエクイティ・ファイナンスを繰り返し行い、可能な限りのデット(借入)もし、調達した資金を「財テク」と称して、株式投資、債権、土地に回したり、過剰な設備投資や海外企業の買収に向かわせたりしていたのである。

ここには、「資本コスト」の概念は、無い。僕は、バブルの全盛期の1989年の9月からハーバード・ビジネス・スクール(HBS)に学びに留学したが、一年生のファイナンスの最初に、資本コストの概念を学んだ。つまり、「エクイティ(株式)・ファイナンスは、デット(借入)・ファイナンスよりも高価である。そして、株主の期待する資本コストよりも高いリターンを生み出さないと、株価は下落する」、と。

これを学んだ瞬間、僕は、日本の株式市場は下落・暴落することを予感した。なぜならば、「エクイティ・ファイナンスは安価である」と新聞にまで書かれていた時代であるから、世の中もそう受け止めていた。そうした経営学に「無学」なリーダーやマスコミのために、エクイティ・ファイナンスを繰り返し行い、日本企業のROEは極端に下がり、一株当たり利益も下がり、株価の是正が始まるとともに、バブル崩壊へとつき進んでいったのである。

これが、僕の結論である。日本のバブルの発生と崩壊は、経営学の無学・無知によってはじまり、起こされたのである。この点は、あまり多くの人は指摘していない。

マーケットは成長し続けるものであると過信したことによって行われた過剰設備投資。
そして、戦略の概念の欠如から生まれた、横並びの経営。

これら二つの誤謬ついては、詳細に論述する必要を、あまり感じ無い。なぜならば、コラムの多くの読者もそれらがバブルを発生させたと理解していると思うからだ。特に、「戦略の概念の欠如から生まれた、横並びの経営」は、その当時の日本企業特有の発想である。マイケル・ポーター教授が来日した際に、よく使っていた言葉が、「ネズミの競争(Rat Race)」である。「日本の電機メーカーは、全て同じ横並びの戦略をとっている。日立、東芝、松下しかりである。その結果、同じような領域に参入しているが、皆、売上高が大きいのにもかかわらず、利益率が極端に低い。それは、横並びのまま川に向かって行進するような“ネズミの競争”を行っているからだ」というのが論旨であった。厳しいご指摘であった。

そして、バブルが崩壊した。それから10年間、日本の企業は何をしたのであろうか?

ひたすら学び続けたのである。

僕が、留学する時によく言われたのが、「もう今更アメリカから学ぶものは無いのに、何をしに留学するのだ。MBAなどは取っても意味がないじゃないか」、ということであった。しかし、バブル崩壊後、日本企業は、バブル崩壊までの軌跡を反省し、急速に最先端の経営学を身に付けていったのである。

グロービスは、バブル崩壊後の1992年に設立された。その当時、某大手銀行の研修を行った際の驚きを未だに鮮明に覚えている。キャッシュフローの概念や、IRRの概念が全く銀行の中に存在していなかったのである。

ところが、今や、資本コストの概念、キャッシュフロー、戦略の概念などが多くの企業に浸透している。これには、グロービスによる企業研修や、スクール、『グロービスMBAシリーズ』を中心とした書籍などが多少なりとも、貢献していると思っている。

その結果、経営の誤謬のうち、上記一つめの資本コストの概念に関しては、日本企業はROEを高める経営に完全に移行している。さらに、資本基盤を強化して不必要な借り入れも減らしている。今や、トップ数十社で現金約40兆円超を保持するに至っている。

二つめの過剰な設備投資に関しては、老朽化した設備の廃棄、ムリ・ムダを人・設備の両面から排除し、キャパシティの調整ができるように柔軟な生産体制を確立している。つまり、慎重なスタンスで設備増強をしてきていたのである(その慎重さを批判されることがあったが、地道に一歩一歩、進んでいったのである)。

最後の横並びの経営に関しては、「選択と集中」を行ってきた。電機メーカーなどではDRAMなどから撤退し、事業の売却・統廃合を行い、世界で勝てる分野のみに事業を絞り込む努力をしてきた。今や、様変わりである。

そして、バブル崩壊後10年が経ち、さらに数年が経過して、欧米のサブプライム・バブルが崩壊したのである。今度は、欧・米・中・印の企業が反省し、学ぶ番なのであろう。特に、市場が常に成長することを前提に行われた過剰設備投資による余波は中国で多く発生するであろうし、レバレッジをかけて資本効率を極度に高めてきたツケは、今度は欧米金融機関や企業が払うことになろう

先のコラムで、これからは日本的経営が見直されるであろう、と指摘したのは、その「失われた10年」の間に、日本はひたすら学び続け、戦略・体質の改善に不断の努力をしてきたからである。なぜ、僕がそう言いきれるかというと、僕らグロービスは、主に日本企業のパートナーとして、クライアント企業の人材育成に全力で取り組んできたからである。

あまり知られていないようであるが、グロービスの売上の過半数は、日本の大手企業向けの研修で占められている。グロービスの研修部門の講師やスタッフは、日本の企業(日本在の外資系を含む)の人材育成に献身的に仕えてきたのである。

これから、日本の景気も下降曲線となるかもしれないが、それでも日本企業は相対的に強い。トヨタが7割強の減益と言っても、まだ5000億円の利益を生み出しているのである。一方の、欧米企業の大半は、赤字決算となることが予想される(特に米国は巨額の赤字となるであろう)。

では、この時期に日本企業は、何をすべきであろうか?

その答えは、明白である。日本は今後も、ひたすら学び続け、戦略・体質の改善に不断の努力をし続けるべきだ、ということだ。特に、グローバルで活躍できる人材は、これからさらに必要となる。なぜならば、今が安く外国企業を買えるときであるからだ。採用も容易である。資金も十分にあるのである。あとは、人材である。

バブルが崩壊した後にわかったことは、「難局を乗り切ったあとは、強い会社はさらに強くなり、弱い会社は淘汰される」ということである。強い会社とは、人材を育成し、強い組織文化を持ち、そして明確に勝てるコア事業にフォーカスをしながら、日々不断の努力をし続ける会社である。そのグッドサイクルの起点は、人材育成だと、僕は思う。

所詮、日本には、人材という資源しかないのである。それを鍛え続けることが、日本企業をさらに強くし続けるのだと信じている。

2008年11月7日
自宅にて執筆
堀義人

追伸:グロービスは、2009年4月より、英語のMBAプログラムである、インターナショナルMBAを開講する予定だ。グローバル・リーダーを志すものには、是非チャレンジして欲しい(http://imba.globis.ac.jp/)。

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