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アスペンで「人間学」を学ぶ〜その1)学ぶ目的とその目的

投稿日:2008/07/22更新日:2019/08/20

「『坂の上の雲』の登場人物の一人である秋山真之氏がワシントンに留学した時、次の思いで学んだといいます。

『自分が一日さぼれば、日本が一日遅れる』

僕は今、米国コロラド州のアスペンに学びに来ています。グロービスが始まって以来初めて、純粋に学びのみを目的にした海外出張です。アジアNO.1のビジネススクールを目指すならば、学長がアジアNo.1の資質を持たなければならないです。そのために何が必要かと考え、小林陽太郎さんのお勧めもあり、やって来ました。

こちらでは、ひたすら勉強しています。食事と水泳(翌週の月曜日がマスターズの大会なので)の時間以外は、プラトン、ソクラテスなどの古典を英語で読んでいます。そのワークロードと集中度合いの高さは、ハーバード時代にタイムトリップした感覚です。

今回は、グロービスのお陰で学びに来られているので、しっかりと学んで、貢献したいと思っています。

『自分が一日さぼれば、グロービスが一日遅れる』

という感覚ですね。(^^)」

という趣旨のメールをグロービス全員参加のメーリングリストに送った。そうなのだ。グロービス始まって以来、初めて1週間の休みをとり、学びにきているのだ。

そもそもなぜアスペンに来ようと思ったかを、整理することにしよう。

僕は、20代後半にハーバードで経営学を学んだ後、30歳の時にグロービスを立ち上げた。それから16年間、ひたすら走り続けてきた。

グロービスは大学院となり学校法人化された。ベンチャーキャピタルもある程度は、組織運営できる体制が見えてきた。家庭も5人の子供に恵まれて、今は「生産」期間から「育成」期間へと移行した。そして、気が付いたら僕も40代後半となっていた。

そしてある時に、「教養(リベラル・アーツ)は重要だよ。一度、アスペン研究所で学んできたらいいのではないか?」と、国際大学の理事長でもある小林陽太郎さんから、アスペンでの学びを推奨された。

小林さんとは、僕が同大学の理事に就任したこともあり、何度か会う機会を頂いていた。その中で、小林さんは、「機会があれば是非行ってこい」と、勧めてくれていたのである。その機会を一年以上も模索して、いよいよ念願がかない、今年の7月12日から一週間にわたりアスペンに学びに来ているのだ。

ハーバードでは経営学を学んだが、アスペンでは人間学を学ぶのだ。その学びの題材として今回は読んでいるテキストが、プラトン、アリストテレス、マキュアベリ、ホッブズ、ロック、ルソー、マルクスなどの古典と呼ばれる哲学、社会学である。一方最近の著者では、マーチン・ルーサー・キング・ジュニアやアウン・サン・スー・チーなどである。

アスペンでは、これら題材を通して、(1)人間の本質、(2)個人の権利・自由、(3)所有・生産性、(4)平等・社会福祉、(5)リーダーシップ、(6)コミュニティという、6つのテーマに関して意見交換するのである。

参加者は、事前に与えられたテキストを読んでくることが要求されている。

例えば「(1)人間の本質」では、アリストテレスの「ニコマコス倫理学」、マキュアベリの「君主論」、孟子の「言語録」、そしてダーウィンの「人類の道徳観念の発達」などのテキストを合計50〜100ページぐらい読んで行くのである。

先ずは、難解な英語を読むのに苦労する。電子辞書を片手にひたすら読み続けるのだが、一回読んでも意味がわからないので、通常2回は読み返すことになる。その事前学習のために、アスペンに来ている間は、ひたすら読書の時間に割かれてしまうのだ。ハーバードでひたすらサイド・リーディングとケースを読んだのと同じである。

クラスは、各4時間で、すべてDaialectと言われる独特な討議形式を採用している。机は、横に長い長方形にロの字に配置され、短い両端の真ん中にモデレーターが計2人陣取り、計23名の参加者が指定された机に座ることになる(参加者同士が親しくなれるように毎日座る場所が変更されていた)。

参加者のバックグラウンドは、多岐に亘っていた。豪州のシドニーの中高一貫の名門男子校の校長先生や、海軍兵学校の最高経営責任者。黒人の政治家、大学の女性教授、元ゴールドマン・サックスのマネジング・ディレクターでその後バンク・オブ・アメリカの経営チームに参画したバンカー。バングラデシュ系の女性弁護士や同族企業の女性CEOなどである。

特徴的なのは、半数ぐらいが何らかの形のフェローシップで来ている点である。アスペン研究所は、1950年から非営利で運営されているために、今までに数多くの参加者を輩出している。彼らは成功した後に、将来のリーダーになる人々にも受講させる目的で財団をつくり、リーダーを自薦・他薦で選出し、奨学金を支給しているのである。そもそも、参加者は、ここに来る前に選別されているから、かなりレベルが高いのである。

4時間のクラスは、前半と後半に分けて、大体一時間にひとつのテキストを扱う。クラスは、全て対話形式である。モデレーターは、ひたすら質問を投げかけ、意見を喚起させ、気付きを与えていくのである。モデレーターが見解を言うことはほとんど無い。ちょうど、グロービス経営大学院で行っている「経営道場」のクラスの手法と同じである。

クラスでは、先ずテキストの理解を促進させるために、記載されている論旨に関する質問を投げかけ、必要に応じてテキストを朗読してもらう形で進行する。こうして、全員の理解を一致させた上で、根源的な質問を投げかけ、議論を繰り広げて行くのである。

「(2)個人の権利・自由」では、アリストテレスの「政治学」、ルソーの「社会契約論」、トーマス・ジェファーソンの「アメリカ独立宣言」、そして最近の論文2編である。これらを通して、西洋文明で確立されてきた、人権や社会的契約関係を論じるのである。

「(3)所有・生産性」では、プラトンの「国家」、ホッブズの「リバイアサン」、ジョン・ロックの「統治二論」、そしてカルドンの「歴史への導入」である。これらを通して、所有の自由と基本的人権を語り、

「(4)平等・社会福祉」ではキング牧師の「バーミンガム刑務所からの手紙」で人種問題を議論し、ボーボワールの「第二の性」で性差別を議論する。さらには、マルクスとエンゲルの「共産主義宣言」で、資本主義の問題を認識し、アウン・サン・スー・チーを通して、人権を論じるのである。

「(5)リーダーシップ」では、再度プラトンの「国家」を読み、孔子の「論語」を読む。そして最近の論文2編を元に議論をするのである。この合間に「アンティゴニー」という古代ギリシャ悲劇を全員で演じて(後述)、そして最後に

「(6)コミュニティ」では、アリストテレスをきっかけに、ポストモダニズム(ガイア仮説を含む)と環境問題などの最近の事象に関して意見を交わすのである。

これで、1週間のプログラムである。通常、午前中8時半から一クラス4時間あり、午後からは、さまざまなオプショナル企画がある。アスペンのハイキングがあったり、カソリック教会の僧院への訪問があったり、さらには演劇の企画・リハーサルなどである。そして、夕方からは、ディナーを通しての交流である。

僕は、そのオプショナル企画的なものには、勉強のため殆ど参加できなかった。なるべくクラスで多くを学びとりたいと必至になって予習をしていたのだ。それこそ、「僕がさぼると、グロービスが一日遅れる」という気持ちである。

ただ、勉強の合間を縫って、アスペンでは、必ず毎日泳ぐことにした。大会まで一週間を切っているので、緊張感が増してきているのだ。こっちにきて泳いでいるのだが、自分の体が重く、しかも息が荒くなりやすかった。時差ボケのせいかと思い、大会前に海外出張を組んだことを悔いたのだが、、、

2、3日たってその理由がわかった。(^^)

アスペンは、何と標高2400mもあるから、酸素が薄く息切れがしやすいんだ、と。
つまり、高地トレーニングをしているようなものなのである。そういえば、北島康介選手もコロラド州の近くで高地トレーニング中だったと記憶している。

「そうだ、高地トレーニングなのだ」と、思い聞かせながら、勉強の合間に泳ぐことにした。できたら、翌週開催される今年のジャパン・マスターズでも、自己ベストを更新したいものである。

そう思いながら泳ぎ、そしてひたすら勉強を続けた。

その2に続く。

2008年7月20日
帰りの機内にて執筆
堀義人

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本年9月10日(水)、銀座柳画廊で開催予定の
「アートと経営を語る」に、画家の岡野博さんと
登壇の予定です。詳細は以下のURLからご覧ください。
http://www.yanagi.com/events/gams_20080910.shtml
なお、岡野博さんの作品は、以下のURLでご覧になれます。
http://www.yanagi.com/works/okano.shtml
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