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ダボス会議2010〜(7)ダボス4日目の風景

投稿日:2010/02/02更新日:2019/08/20

昨日の晴れから一転して、今日は雪である。晴れ、雪、晴れ、雪のジグザグな天候である。僕は、本日帰国する予定なので、パッキングをほぼ済ませて、メイン会場に向かった。朝9時からは、どうしても見逃せないセッションがあった。それは、「サイバー・セキュリティ」のセッションである。

このセッションに是非とも参加したいと思った理由が、グーグルである。グーグルがあのように態度を硬化させたのは、度重なる中国からのサイバーアタックがあり、最後の攻撃では、実際に防御を破られ、Gmailのアカウントからメールが漏えいしたからだと、報道されている。その記事に出てくるのが、グーグルとタイアップして現状を調査し、防衛戦線を張っているのがマカフィーというセキュリティ会社である。

昨日の、グーグルCEOのシュミット氏からは、「今回は一切この件に関しては喋らない」、という強い姿勢が伝わってきた。おそらく、今中国側と何らかの協議をしている最中だからであろう。ただし、僕は、知りたかったのだ。今、何がサイバー・スぺースで起こっているのか。そして、何を企業、国家としてすべきなのか、ということを。

このセッションの陣容も、素晴らしい。テクノロジー系からは、米マカフィーのCEO、スイスのクデルスキーのCEO、マイクロソフトのリサーチと戦略のトップ(Chief Research and Strategy Officer)、行政からは米国の上院議員、そして、通信関係の国際機関である国際通信ユニオン(ITU)の事務局長(ジュネーブ)という陣容であった。結果的には、僕は、このセッションが、ダボス会議全体を通して、No.1セッションとなった(当然、アバターの監督は別格である)。

まずは、マカフィーのCEO、クデルスキーのCEO、マイクロソフトのCRSOから、今何が起こっているかの説明があった。総合すると以下である。

コンピューターの悪質な用途は、3つのステージで進展した。第1ステージが個人的なハッカーや、ウィルスを忍び込ませるような、いたずら行為であった。第2ステージが、インターネットを介した産業スパイである。そして今最も問題になっているのが、第3ステージである国家が関与する組織的なサイバー攻撃である。このサイバー攻撃あるいはスパイを国家として行える力を持っているのが現時点では10カ国ぐらいである(日本はその力があるのであろうか、と疑問に思いながら聞いていた)。

これに対する防御は、全くできていない。わかりやすく喩えて説明すると、中世の時代に、城に城壁を築き、お堀を張り巡らせているところに、空軍が爆撃をしかけるようなものである。つまり、今行っている城壁を張り巡らせているような守りに対して、攻撃側は、さらなる最新兵器を持って攻撃を仕掛けているのである。しかも、全くの善良な市民が持っているパソコンが、乗っ取られて、その数多くの「善良な」パソコンから攻撃を仕掛けてくるのである(僕は、この話を聞きながら映画に良く出てくるシーン、つまり、無人の部屋でパソコンが勝手に動いている状態を、思い出した)。

その無数の善良なパソコンを操っている人々を特定するのも難しい。サイバー攻撃は、インターネットの特性も手伝い、誰が、どこから攻撃してきているのかが特定しにくい。国家の大きさに関係なく、その意図があれば、個人あるいはテロ組織が、連続的に攻撃できる特性があるのだ。

僕は、この話を聞きながら、映画「ダイ・ハード」の最新作を思い浮かべていた。それまでのダイ・ハードでは、攻撃と言ってもテロの爆弾による攻撃だったのだが、最新作での攻撃は、ハッカー集団を雇い、サイバースペースによるコンピューターシステムの乗っ取りから始まるのである。その集団の攻撃に、国家は全く無防備な姿を呈していた。あの状態である。

その状態に対して、守る方法は、3つある、と。一つが、技術を使っての防御である。これは、やるべきことは明白で、マカフィーなどのセキュリティ会社が行っている。一方、アーキテクチュアルなデザイン面で、防御する方法である。そして、最後に法律面で防御する方法である。

「その状況に対して、行政は準備ができているのか?」が、上院議員への質問となる。この質問の振り方が絶妙なのである。誰も特定をしないが、背後には仮想敵国としての中国の脅威があることは、暗黙の了解であった。

議員からは、次の通りの説明があった。現在、議会で討議をしているのが、インターネット上のサイバー攻撃の非合法化さらにはそれらを取り締まる法律をつくるべきかどうかである。さらには、サイバー攻撃からどうやって国を守るかも討議されている。国防総省以外の系統をどの機関がどのように守るかは、未だに固まっていないのだ。しかも、重要なインフラの85%は、民間企業の傘下にある(おそらく、電力、ガス、石油系統、などを指すのであろう)。現時点では、まだ議論の最中である。

さらに、今議論をしているのが、何を持って「戦争行為」と断定するかである。たとえば、電力系統のグリッドに物理的な攻撃をしかけて爆破すれば、これは明らかな戦争行為である。しかし、サイバースペースから侵入し、電力系統を破壊する行為は、これを戦争行為と定義すべきかどうかが、まだ確定していないのだ。その議員本人は、これを明確に戦争行為として認識していると仰っていた。

まさに、サイバー戦争である。それに対して、まだ米国の議会は、「議論」に終始していると言う。ただ、実際には、米国のCIA、FBIを含めて相当な行為を米国も行っていることは、明白な事実である。

そして、「この状況を超国家の国際機関でガイドラインを作成し、取り締まるべきかどうか?」が次の課題になる。そこで、ITUの事務局長の登場となる。彼の説明も明快である。今、全世界で45億人もの、インターネット・携帯ユーザーがいる。それらのユーザーの安全を保障するためにも、何らかの憲章のようなものが必要になる。

その憲章は、以下のような構成となるであろう。

第一条は、全ての人々は、基本的人権として、インターネット上で自由に表現でき、交流できる。
第二条、全ての国は、インターネット上での自由、且つ正当なトラフィックを保証する義務がある。
そして、
第三条は、いかなる国も、サイバースペース上で先制攻撃をしかけない。

核不拡散条約でも顕著なのは、米国や中国のような比較優位に位置する国は、その優位性を放棄したくないから、批准しないのでは、との危惧である。でも、子供の安全を守るためにも何らかのガイドラインを出したいと思っている、との見解であった。ただ、これができるかどうかすら、現実には不明確な状態である。

それから、質疑応答に入った。実際にどうやって、マイクロソフトがサイバー攻撃の脅威から身を守ってきたかの具体的説明があったり、今後のサイバースペース上の安全性を担保するために、車の運転と同じように、インターネット上でも運転免許を必ず保持させ、車を登録させなるなどの規制が必要になるのでは、という議論があったり、である。さらには一番の脅威は企業や国家のインサイダーが、外の組織と組んで攻撃するようなリスクである。このリスクにどうやって対応するかの議論もあった。まさに、「ダイ・ハード4.0」の世界である。僕は、このセッションの一時間の間、知的興奮を隠しえなかった。

議論が終わった後で、会場にいた慶応大学の村井純先生と立ち話をした。僕が気になったのは、「日本の状況についてどうか」、である。村井先生は、「今、やるべきことはしっかりとやっている。是非、皆で支援して欲しい」、と。確かに、大きな問題である。あの場の議論を村井先生が聞いていてくれたことに、一つの安心感を持ちえた。是非多くの日本人が、このような場に参加して、世界の流れはどうなっているのかを、肌で感じてほしいものである。とは。言っても、ダボス会議への招待状は、なかなか届かない。村井先生のように、世界に発信する努力を、各分野の教授陣には、して欲しいと思う。そうしなければ、この場に存在する権利すら得られないのである。

次に参加したのが、「世界経済の見通し」である。この参加者は、国別に言うと、米国(ラリー・サマーズ・国家経済会議委員長)、ドイツ(ドイツ銀行CEO)、フランス(女性の経済大臣)、IMF理事長、インド、中国、そして日本である。モデレーターは、英国人(フィナンシャル・タイムズ誌)である。

主要国、勢揃いである。ただ、プログラムには、日本人の名前が入っていない。最後の最後に、鳩山総理大臣のダボス訪問がキャンセルとなって、仙石行政刷新担当大臣が登壇することになったのだ。ダボス4日目にして初めて、日本の政治家の登壇である。朝9時からは、直嶋経済産業大臣、そして、午後のセッションでは、古川元久内閣府副大臣が登壇することになっていた。

ダボスの会議では、珍しく1時間半の時間が、この「世界経済の見通し」のセッションには、割り振られていた。一人ずつ質問を投げかけて、それに一人一人が答える形態で進行した。英語以外の言語で喋ったのは、仙石大臣だけである。そのたびに会場の参加者が、ヘッドフォンをつけなければならない。会場内で、ヘッドフォンを探しつける音が響きわたるのである。

僕は、あまり多くを学びえないと思い、途中で抜け出してしまったが、感想は、以下であった。

日本人としては、仙石大臣が来てくれて嬉しい。このセッションは、ホールで開催されるメインイベントの一つである。アジアから中国とインドが登壇する中で、日本が不在では、存在感の低下を露呈するようなものである。国際舞台では存在が無い、つまり不在が、一番良くないことである。

ただし、一人加わったことによる、議論の付加価値があったかどうか。つまり、日本人以外の聴衆が、面白いと思ってくれたかどうかは、不明である。英語で喋らないと、ヘッドフォンを一々するのが面倒だし、通訳を介すので途中で意図が間違って伝わることが多い。僕は、仙石さんの発言をヘッドフォンをして、英語で聞いてみることにした。やはり、わかりにくくなってしまうのだ。フランス語から英語の通訳と、日本語から英語への通訳とでは、語順が違うので、難易度がかなり違うのだ。

ただ、何度も言うが、来てくれたことは、日本にとっては、良いことであろう。僕は、ダボス会議に関して、あるいは他の場でもそうだが、来られるチャンスがある人、登壇できる資格を持っている人は、この場に来て、積極的に発言すべきだと思っている。

日本であれば、政治家のトップ、トヨタ、キヤノンなどの国際優良企業のトップ。さらには、同友会・経団連のトップ、学界のトップや主要メディアのエディタークラスである。これらの人々は、日本の経済力を考えれば、来れば必ずセンターステージに登壇できる。

一方、来ないと他の人では、センターステージを飾れないのだ。そうなると不在を露呈することになる。僕らの立場では、パネルに登壇することすら許されないし、センターステージを飾るなどまだまだ先のことである。ただ、これも地道な活動をし続けるしかない。

その点、評価に値するのが、竹中平蔵さん、武田の長谷川さん、日本学術会議のトップの黒川さん、朝日新聞の船橋さん、慶応大学の村井教授や夏野剛さんである。その必要性を強く認識していて、自らが率先して行動するばかりか、多くの人にもそうするように、呼びかけているからである。残念ながら、日本では、「国際派」と呼ばれている人は、やっかみの対象にしかならないケースが多い。その風潮を変えなければならない。

彼らは、日本代表として、母国語でない英語で、慣れない文化の中で、ダボスという世論形成の場で戦っている。今後、こうした日本代表として参加する人をもっと増やすように努力をしなければならない。そして、参加者を増やすばかりでなく、活躍し、多くの人々から賞賛を得られるようにしなければならない。ちょうど、野球でイチローや松井選手が、メジャー・リーグで活躍しているようなものなのである。良い人は、必ず評価される。そして、良い人が日本人であれば、日本人全体への評価が上がり、必然的に発言力が高まるのである。とても、シンプルな構図である。

そのためには、若いころからの訓練が必要となる。イチロー、松井選手の努力と同じように、僕らもその努力をしなければならないのだ。さらに、機会を与える必要がある。これぞという人材には、ヤング・グローバル・リーダーとして経験を積む機会を与えなければならない。僕も推薦にも積極的にかかわったので、ハーバードの後輩の岩瀬氏(ライフネット生命保険)が選ばれたと聞き、とても喜んだ。

あるいは、EOやYPOなどの国際機関で、積極的に海外と関わり続けるしかない。現在、EOでは、積極的に海外に行こうという機運が出てきている。とても良いことである。また、ダボス会議とまでいかなくても、業界ごとの国際会議は、数多くある。そこに積極的に参加し、登壇する機会があれば、積極的に行くべきである。

ダボスに来て痛感することは、この会場の中に入ると、バックグラウンドなどの支援が無いのだ。付き添いも同伴できないし、肩書きも関係なくなるのだ。会議の場では自らの言葉で発言をしなければならない。生身の人間としての、面構え、立ち居振る舞い、言動、視点などの全人格が勝負となるのだ。まさしく、丸裸(すっぽんぽん)になってどれだけの魅力を出せるかが勝負になるのである。

G8やG20の場でも同様であろう。一人間としての魅力があるかどうか、どれだけの視点を持っているか、人間としての幅・哲学をどれだけ兼ね備えられているのかが勝負になる。その人間性を高めるためには、普段からの鍛錬が必要になる。

日本市場・経済の魅力度が低下する中で、グローバルで活躍できる人材が、今ほど必要とされる時代は無い。グロービス経営大学院も昨年から英語でMBAを取得できる、インターナショナルMBAプログラム(IMBA)を始めた。日本人以外の学生が、過半数を占める日は近い。英語での議論をする力を身につけるためにも、是非積極的に活用してもらいたい。「単科生制度」というのがあり入学しなくても、一科目から体験的に学習することができる。初めの一歩が大事なのである。まずは、一歩を踏み出すことである。

さらに、僕は、ダボス会議の様な経験を多くの方にしてもらうために、「日本版ダボス会議」と称して、グロービスの学生向けには、「あすか会議」を主催し、日本を引っ張っていく若きリーダー層に対しても新たな枠組みを創っている。それらの場を通して、多くの日本人が世界に飛び立っていく一助になれば、幸いだと思う。僕にできることは、そのようなインフラ(場)を提供することである。

ダボス会議のメイン会場を後にして、中国国営テレビのCCTVのインタビューを受けた。僕は、現時点では、日本ではテレビには出ない方針だが、世界では積極的に出ようと思っている。

雪が降りしきる中、ホテルに戻り、着替えて、パッキングを完了させ、チェックアウトした。高台にあるホテルから見える、ダボスの街並みの風景は、素晴らしい。ホテルの人に、駅まで送ってもらい、暫くして汽車に乗り込んだ。2回乗り換えて、チューリッヒ空港に着いた。そこからは、ラウンジや機内で、ひたすらこのコラムを書き続けてきた。

幸いダボス会議に参加する資格を得たので、その体験を多くの人々と共有するのが、一つの義務だと思い、感動や記憶が薄れる前に、一気呵成に仕上げてしまいたいと思い、パソコンに向かって執筆し続けた。

もうそろそろ成田に到着する。日本に着くまでには、幸いにも書き上げることができそうだ。日本に戻ると、長男の中学受験だ。長男を信じて、あとは祈るしかないのだ。

朝日小学生新聞にダボス会議のことが紹介されていたから、子供たちも子供たちなりに、その重要性を認識しているようだ。僕は、ことあるごとに、「世界で活躍する人材になれよ」と言い続けている。だからと言って英語だけが重要だとは思わない。それよりも、数多くの試練を経ながら、日本人としてのアイデンティティをしっかりと植え付けることが肝要だと思っている(この教育論に関しては別の機会に論じたいと思う)。

国民皆が、日本代表としての自覚を持ち、この国を良くしようと思えば、世の中は良くなっていくのだ。

さあ、明日から日本で出社だ。一隅を照らすではないが、現場での小さな積み重ねを通して、日本、アジア、世界が良くなる方向に、微力ながらも向かわせることができたら幸いである。

ダボス会議2010のコラムに、ここまでお付き合い頂き深く感謝します。

2010年1月31日
機内にて
堀義人

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