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ダボス会議2010〜(6)ダボス3日目の風景

投稿日:2010/02/01更新日:2019/08/20

朝8時から予定されているハーバードのレセプションに向かうべくホテルを出た。昨日よりも一時間弱ほどホテルを出るのが遅いので、既に外は明るくなっていた。雪も止んでおり気持ちが良かったので、足を止めて一瞬の間ダボスの景色を楽しむことにした。高台にあるホテルからは、ダボスの街並みが一望できる。目の前には、教会のとんがった塔が聳え立っていた。その塔の奥には、アルプスの山並みである。山の上の方が緩やかになっていて、スキーゲレンデをかすかに見ることができた。ダボスのスキー場は、山の頂上の平坦な地に開けている(コラム:ダボス会議番外編〜ダボスでのスキー参照)。

いつものように坂を下りて、三叉路でメイン会場とは逆の方向に曲がり、レセプション会場まで歩いていった。ホテルに到着したが、レセプション会場が見当たらない。フロントのホテル・パーソンに聞いても、「知らない」という。途方に暮れて、日本の秘書に確認をとる。確認を待っている間に、ホテルマンが近付いてきて、「午前8時ではなくて、午後8時からの開催です」、と教えてくれた。何と、amとpmを間違えたのである。暫く呆然としていたが、気を取り直して、スケジュール表に目を通すことにした。

Fri, 29 Jan
08:00-10:00 Harvard Reception
09:00-10:00 Redesigning Capital Markets 
10:30-11:45 Rethinking Government Assistance
12:00-14:00 Infosys luncheon
14:00-14:45 Beautiful Science
14:45-15:45 Global Industry Outlook: Finance, Service and Media
16:00-17:00 Technology for Society
17:15-18:15 Business Leadership for the 21st Century
18:15-19:00 The US Economic Outlook
20:00-21:30 India Reception

今日は、基本的には、全てセッションへの参加である。僕が登壇するセッションはないし、特定の会議も入っていない。丸一日学びの日である。

最初のセッションは、朝9時からである。今の時間は、朝8時前。ホテルに戻るかどうかと考えたが、良い答えが出なかった。こういう時は、僕は常にあまり深く考えずに、「とりあえず」何かをすることにしていた。そこで、この場面でも、「とりあえず」メイン会場であるコングレス・センターに向かうことにした。シャトル・バスに乗り、同乗者と会話を楽しむ。コングレス・センターに着くと、インフォメーション・デスクに出向く。「朝食を提供している」との情報を得て、その会場に向かう。途中で、ダボス会議のコンピューター(KIOSK端末)にアクセスをして、本日の様々なセッションの登壇者を頭の中に入れる。知り合いを見つけ、食事をしながら会話をする。そうこうするうちに、時計の針は9時前をさしていた。そして、最初のセッションである「Redesigning Capital Markets」の会場に向かった。

このセッションには、LBOを「発明」したあの伝説のKKRの創業者のヘンリー・クラビス氏が登壇する。他には、メリルリンチを買収したバンカメ(Bank of America)のトップ、カナダの財務大臣、ニューヨーク証券取引所(NYSE)のトップ、イタリアの銀行のCEO、そして日本からは野村ホールディングスの氏家会長というような豪華な布陣である。

ダボスのセッションは、通常1時間程度と短い。そこに数名のパネラーが出て、会場から質問を受けるので、1回か2回しか発言できない。となるとモデレータの力量がよほど大きくないと議論が分散してしまうのである。

僕は、ダボスを「リーダーの品評会」だと思っている。だからこそ、このセッションでも一番前のど真ん前に座ってリーダーの「面構え」を見ることにした。

やはり、クラビス氏は、百戦錬磨の顔つきである。一方隣に座っているバンカメの社長は、経験が足りなく、どことなく頼りない感じがする。面構え以外には、姿勢、そして話す内容も重要である。いかにわかりやすく、的確に話をするかである。わが日本代表の氏家さんは、しっかりと準備してきているので、とてもわかりやすい。またウィットにも富んでいた。

議論の中で印象に残ったのが、「感情に任せて意思決定する危険性」の指摘である。「経営でも感情に任せて意思決定するとろくなことが無い。政府もしかりである。ただ、今起こっているのは、感情論によって動かされた意思決定である。エンロン事件後のSOX法のように、過剰規制を招きかねない」、というNYSEのトップの発言は、うなずかされるものがあった。

「Rethinking Government Assistance」は、政府の関与がどれほどあるべきかを論じるセッションである。このセッションは、あのマイケル・ポーター教授がモデレートする。セッションの本命は、英国保守党のトップをつとめるデイビッド・キャメロン氏である。今年の選挙で、英国の首相になることが有望視されている若き政治家がどのような論戦を張るのかが、注目された。

その対抗馬が、ジャン=クロード・トリシェ氏である。かの有名な欧州中銀総裁である。そして、大穴がマッキンゼーのトップ、スタンダード・チャータード銀行のトップなどである。各人のリーダーとしての力量が注目された。

「レース」の前に、僕の隣に座っていたワシントン・ポストのエディターが、キャメロン氏のことを愛嬌があって、面白いとほめていた。そのような下馬評を聞きながら、マイケル・ポーターの仕切りで、リーダーの「力比べレース」が始まった。

キャメロン氏は、僕の印象をはるかに超える存在感を発揮していた。発言は、慎重に言葉を選びながら行っているが、明確に主張すべきは、主張していた。知性もあるし、愛嬌もあった。彼が、今年英国の首相になるのは、ほぼ間違い無い気がしていた。やはり、欧州の政治のトップリーダーは、大舞台での言動には慣れている。

一方、トリシェ氏も重厚な存在感を発揮していた。知性と人間力を兼ね備えている。中銀総裁としての、重みと安心感を具現化しているような存在である。それに比べて銀行やコンサルティング会社のトップには、あまり目を見張るものを感じなかった。国を動かしていくのだ、世界の金融を良くするのだ、という自覚に比べて、どうしても見劣りしてしまうのであろう。

ランチは、インドのインフォシス社からの招待での昼食会である。コートを着て、雪道を歩いて、セキュリティを受けて、コートを脱ぐという、ルーチンを行い、会場のホテルに着いた。ダボス会議は、あまりにも規模が大きいので、メイン会場以外にもさまざまなホテルが会場となるのである。

インフォシスのCEOのクリス・S・ゴパラクリシュナン氏とは、僕が2006年12月にバンガローに訪問した時に昼食を一対一でした間柄である(コラム:■インド出張 -その4:バンガロールの風景 参照)。クリスがCEOにその後昇格したが、それから会うのは初めてであった。僕以外は、ほとんど皆インフォシス社のクライアント企業のトップである。僕は、遠慮がちにクリスに招待しれくれたお礼を申し上げて、インド料理を堪能することにした。暫くすると、パネルディスカッションが始まった。タイトルは、「Social Network vs. CEO」である。ソーシャル・ネットワークが広まることによって、経営がどう変わるのかを論じるのである。

これが意外にも、予想をはるかに超えて面白かった。セッションを受けての僕なりの結論は、「組織もマーケティングも、ソーシャル・ネットワーク型になっていく」、というものであった。命令やコントロールでは、人々は動かない。組織は、ピラミッド型からネットワーク型になり、さらには顧客を含めたネットワークに移行する(ちなみに、このコンセプトは、グロービスの創業以来語っているものとまったく同じである)。

広告宣伝も無意味になっていくであろう。今後は、既存媒体がメディアの中心の時代から、人々がメディアの中心になっていく。となると、メディアとしての人々をどうやって、エンパワーして、良い情報を人々に語ってもらうかが重要になってくる。つまり、「口コミ」のパワーである。ソーシャル・ネットワークが広がると、既存の一方通行のメディアが凌駕されていくことになるのだ。

今回のダボスで比較的よく出てくる言葉が、「Tribe」である。人々は、ネット上で興味・関心の種類に応じて、自然と種族(Tribe)ごとにつながり、群れていくのである。そのTribeの一人一人には、複数のAvatar(思想の体現者)がいるので、情報が人々を通して伝播していく。企業は、それをいかに活用するかが鍵となる、と言うのである。

インド料理を堪能したあとに、クロークが込み合うのを避けるために早めにその場を退出して、メイン会場に戻った。

14時からは、「Beautiful Science」である。MOMAのキュレーターとハーバードの教授とのコラボレーションであった。文化と科学の融合というコンセプトであったが、あまり関心をそそられなかった。僕は、この機会に、目を閉じて、脳を停止状態にして、思考機能を回復する時間に使わせてもらった。

14時45分からは、「Global Industry Outlook: Finance, Service and Media」であった。ドイツ銀行のトップ、ボストン コンサルティング グループのトップ、米NBCのトップなどがパネラーであったが、あまりにも範囲が広すぎてしまい、表面的な議論に終わりそうだったので、途中で退席することにした。

16時からは、「Technology for Society」を登録していたが、急遽ハーバード大学主催の「アイディア・ラボ」に参加することにした。ファウスト学長が、全体の構成を紹介して、ハーバードの各スクールのディーン(学部長)や教授が5人程度プレゼンをする、というコンセプトであった。各教授に与えられた時間は、5分程度。教授がその間に伝えたいことを伝える。その後で、各教授単位で、グループディスカッションを行い、最後にその中身を参加者がシェアする、という構成であった。

ダボス会議では、オクスフォード大学、MITなど名だたる大学を招聘して、この「アイディア・ラボ」を実施している。いわゆる「知の競演」である。各大学が、その威信をかけて知を発表するのである。日本の大学は、サマー・ダボスには招聘されていたが、本場のダボスでは、まだ招聘されるには至っていない。やはり、プレゼン能力を磨かないと、世界では通用しないのであろう。

17時15分からは、「Business Leadership for the 21st Century」と題して、「リーダーシップ」を語るのである。やはり、注目は、グーグルのCEOのエリック・シュミット氏である。中国に対して「宣戦布告」をしたグーグルのCEOが何を話すのか、に僕の関心があった。更には、ぺプシコのインド系女性CEOのインドラ・ノーイ女史の人間性。HSBCのトップとチャイナモバイルのCEOの力量はどれほどのものか、など興味が尽きない。

ところが、ところがである。このセッションは、ありきたりの中身になってしまい、学びがゼロであった。リーダーとしても最も腰が据わっていたのは、ペプシコのCEOであった。終わった後に、田坂さん、新浪さんに感想を聞いてみたら、皆同様の意見であった。

しかし、この不満は、最後の「The US Economic Outlook」のセッションで、完璧に払拭された。このセッションには、ハーバード大学の学長をつとめ、その以前には、クリントン政権下の商務長官をつとめた、ラリー・サマーズ氏の登壇である。現在は、オバマ政権の国家経済会議の一員で、経済関係のNo.1のブレーンである人物である。サマーズ氏のスピーチは、過去に何度か聞いたことがあったが、実に面白い。常に、単刀直入に理論的に語り、常識と思われる事柄でも果敢にバサバサと切っていくので、常に知的快楽と興奮を得ることができるのだ。

今回もやはり例外ではなかった。このセッションは、アンカーとの対談形式で進んで言った。先ずは、最初の問いである。「オバマが、銀行への規制を発表した。いわゆるボルカー・ルールだが、この方針に関しては、ラリーを含めて皆一枚岩なのか」。この答えも明確である。結論から言うと、「オバマ政権は、本気で銀行への規制をかけようとしている」、である。

次の質問は、「2009年の第4四半期の成長は、予想を超えたが、米国の経済の現状をどう見ているか」。彼の答えもわかりやすい。「GDPの成長は、今後とも緩やかに上がる。だが、それよりも気になるのが、失業率の問題である。現在10%を超えている。オバマ大統領とは、毎朝どうやったら職が増えるのか、経済がどのようにして回復するかばかり議論している。米国の経済に関しては、強い信頼を持っている。短期的には、難しいことばかりだが、中長期的には、米国ほど、ハードワーキングの国はないし、米国ほどイノベーションが生まれている国は無い。さらに、米国の柔軟性と強靭性は、他国の追随を許さないし、市場やシステムのオープン性は賞賛に値するものである」、と。

次の質問もまた厳しい。「米国は、中国に国債を買ってもらっている。つまりおんぶに抱っこの状態だが、この状態が今後も続くのか」。そして、質問が続く、「オープニング・スピーチでサルコジ大統領が、機軸通貨としての米国ドルを変えたがっているが、どう思うか」。そして、最後の質問が、「ハーバードを退職するときに、『何が本質的な価値なのかを見極めよ』と言った。今の本質的な価値・問題は、なんだと思うのか」、などである。

彼の答えを要約すると、次のとおりとなる。「短期的には、米国の国債を中国に買ってもらう状況は続くであろう。ただし、長期的には、中国の通貨の変動相場への以降と経済のリバランス(中国の内需の喚起と米国の輸出増加)が重要であろう。基軸通貨は、市場が決めるもので、政府が決めるものでない。米国としてできることは市場が米国ドルを機軸通貨として使いたがるようにインフラを整備し続けることである。ミドル・クラスの子供の世代が親の世代よりも良い暮らしを与え続けられる国が継続的に繁栄する。その環境を作ることが、本質的に重要だとおもう」、と。会議の後では、竹中平蔵さん、緒方貞子さんと感想を述べあった。皆、知的興奮を得て絶賛しているのが見て取れた。やはり、皆それぞれの視点で、人々を品評し、学ぼうとしているのであろう。

コートを取り出して、シャトル・バスに乗り、インド・ナイトに向かった。今日は、昼も夜もインド料理である。インドの存在感は、今回はとても高い。大臣二人に挨拶をして、インド料理をたいらげ、友達と談笑をして、その場を後にした。そして、ハーバードのレセプションに向かった。学長と二人のディーン(学部長)のスピーチを聞いた。その後で、多くの方と知り合い、情報交換した。やはり、「ハーバード閥」は、健在であった。

そして、JETROの林理事長の車に便乗し、ホテルの近くまで送ってもらった。いつもの坂を上って、ホテルに戻った。その日の夜は、もう足がパンパンで、歩くことができない状態であった。

2010年1月30日
成田に向かう機内で執筆
堀義人

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