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ダボス会議2010〜(3)ワインのある風景

投稿日:2010/01/29更新日:2019/08/21

翌朝早めに目が覚めたので、メールの返信をする。時差があるので、早朝でも大量にメールが溜まっている。一段落したところで、泳ぎに行った。今回は、誰もプールにはいなかった。サウナで体を温めてから、シャワーを浴びてプールに入った。

チェックアウトの際に、思い切って聞いてみることにした。「地階にあるプールは、裸で泳ぐのが正しいのか、水着を着るのが正しいのか、どちらですか?」。

白い透き通った肌をした美人のホテルウーマンの答えは、「どっちでもいいですよ」というものであった。僕は、納得がいかなかったので、さらに聞いてみた。「あなたであれば、どうしますか?」、と。彼女は、「サウナには裸で入るけれど、プールは、水着で入る」とありきたりの回答が返ってきたのでまだ納得できないので、さらに聞いてみることにした。「このホテルの地階の場合には、どうしますか?」、と。彼女は、笑いながら、「私は、当ホテルで泳ぐことが許されていないからわからないわ」との返答であった。結局、わかったような、わからないような気分になった。ま、要はどっちでもいいのであろう。僕は、男性は、女性の行動に合わせるのが正しいように思えていた。基本的に、まわりにいる人が好感を持てる行動をとるのが、正解なのであろう。

どんよりとした天気のもと、一面の銀世界の中、ライン川のゆったりとした黒い流れがホテルのロビーから見えた。そこを通る貨物船に惹かれ、外に散歩に出かけようと思っていた矢先に、ビジネススクールからのお迎えの方に出会った。国産のドイツ車ではなく、なぜかフランス製の車を運転しているので、その理由を聞きながら、学校に向かった。その地域は、ワインの産地で、葡萄畑が広がっていた。運転手曰く、「ドイツは、赤ワインはフランスに負けるけど、白ワイン、特にリーズリングは、フランスよりおいしいと思う」とのことである。僕も同調しているうちに、ビジネススクールに着いた。

スクールでは、ドイツのビジネススクール事情のレクチャーを受け、キャンパスを訪問し、グロービス経営大学院と何ができるかを討議した。葡萄畑の中にキャンパスが存在し、目の前にはライン川の流れである。美しい光景である。

正午過ぎに、キャンパスを後にして、チューリッヒ空港まで向かう。いつの間にか、天気は好転し、太陽の光が、葡萄畑の雪に反射していた。アウトバーンを150キロぐらいの猛スピードで、フォルクスワーゲンが走りぬけて行った。飛行機の出発が遅れる中、フィナンシャル・タイムズやフォーブスなどの記事や、ダボス会議関連資料に目を通した。

夕方、チューリッヒ空港に着いた。「ダボス直前会議」の会場のホテルは、空港の中にあるので、とても便利である。チェックインを済ませ、パソコンを立ち上げ、メール返信をしてから、すぐにワイン・テイスティングの会場に向かった。このワイン・テイスティングには、フィナンシャル・タイムズ(以下、FT)に寄稿しているカリスマソムリエである、ジャンシス・ロビンソン女史が参加することになっていた。彼女のワイン片手に撮った写真入りの週末のFTのワイン記事が好きで、よく目を通していた。

このワインの企画は、「ワイン・フォーラム」と呼ばれ、ワイン好きのカリフォルニアのベンチャー・キャピタリストが立ち上げたもので、今回がその第一回の創立イベントであった。発起人代表によると、次のような流れで始めることになったというのだ。

「2006年ごろから、ダボス会議で、ジャンシスを招いてワイン・テイスティングイベントを開催した。とても好評だったにも関わらず、昨年からは、世界経済危機の影響もあってか、『そのような華美なものは、慎むように』というお達しがきて、結局開催できなくなってしまった。

そこで、今回は、同じ意思を持つワイン愛好家の同志が集い、ダボスの直前にチューリッヒで開催することにした」、と。

ジャンシスの言葉によると、「あの寒くて、セキュリティーが厳しくて、不便なダボスに行くよりも、ずっといい。スノーブーツを履かなくてもいいし、空港から降りてすぐの場所にあるし、ゆったりとした会場も確保できるから」とのことだ。

会場は、会議室に丸テーブルが8つほど配置されていた。各テーブルには6〜7人座り、机の前には、全部で11個のグラスが所せましと並べられていた。ワインリストには、以下の通り記載されていた。

(I) Krug Grande Cuvee
(II) Y de Chateau d’Yquem, 2006
(III) Petit Cheval, 2000
(IV) Chateau Cheval Blanc, 2005
(V) Chateau Cheval Blanc,2001
(VI) Chateau Cheval Blanc, 1998
(VII) Chateau Cheval Blanc, 1989
(VIII) Chateau d’Yquem, 2005
(IX) Chateau d’Yquem, 1998
(X) Chateau d’Yquem,1990
(XI) Chateau d’Yquem, 1959

ワイン・フォーラムの流れは次の通りであった。クリュッグのシャンパンを楽しみながら、参加者と談笑する。着席後、オリバー・クリュッグ氏(クリュッグ社)よりクリュッグのシャンパンの説明がされる。

そして着席後、最高級の貴腐ワインであるシャトー・ディケムを楽しむ。その後ボルドーのシャトー・シュヴァル・ブランを味わうのである。ひな壇には、カリスマ・ソムリエのジャンシスが座り、その横には、シャトー・ディケムとシャトー・シュヴァル・ブラン双方の社長兼カリスマワインの作り手であるピエール・リュルトン氏が陣取り、対談をしながら、ワインの解説をしてくれるのである。

何という贅沢であろうか。一本数万円から数十万円するワインを飲めるばかりでなく、その説明をそのシャトーのトップから受け、しかもカリスマソムリエのジャンシス・ロビンソン女史が、さらなる解説をしてくれるのである。僕の横には、NYの著名ワインのバイヤーが、真剣な表情をしながら、飲んではプラスティックのコップにワインを戻していた。僕は、かなり美味しいワインばかりであるから、戻すのももったいなくて、ついつい全部飲みしてしまう。知らぬうちに、相当酔っ払ってきた。そうこうするうちに、予定の時間の夜8時半が過ぎたので、そのワイン・フォーラムはお開きとなった。次回は、6月ごろにボルドーで開催し、そのあとはナパバレーで開催される予定なのだという。

同じホテルの会場の横では、「ダボス直前会議」のレセプションが開かれていた。僕は、共同議長の立場なので、そこにいなければならない。酔っ払っているのが、分からないようにと、気を使いながら、会場に向かい、知己の人を見つけて、談笑の輪に入って行った。フィンランドの元首相で、現在ノキアの上級副社長の方とも挨拶をした。

ある程度の方々に挨拶をして、ホテルの部屋に戻った。寝る用意をして、ほろ酔い気分のままベッドに滑り込んでいった。

2010年1月27日
チューリッヒのホテルにて
堀義人

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