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泳ぎ続ける意味〜6回目のジャパンマスターズ参戦記

投稿日:2009/08/07更新日:2019/08/20

水泳のジャパンマスターズに参戦するのは、今年で6回目である。ジャパンマスターズは、一年に一回しか開催されない。野球でいえば高校の甲子園大会のようなものだ。往年の水泳選手はこの大会を目指して一年間かけて練習するのである。

僕は、中学、高校、大学と水泳部、スイミング・クラブ、そして体育会で真剣に泳いできた。大学で引退したあとは、あくまでも体を鍛えるため、そしてダイエットのために、たまに泳ぎに行く程度であった。

体を鍛えるためやダイエットのために泳ぐとなると、自分が、「ある程度、鍛えられて、ダイエットができている」と、勝手に甘く判断すると、それだけでプールから遠のいてしまう。つまり、自分に対してついつい甘くなってしまうものなのである。

一方、水泳の大会に出ると決めると、話は別である。大会には、半端な気持ちでは出られないので、一生懸命に練習する。しかも、大会でタイムを測り、順位が決まるので、モチベーションが上がる。「体を鍛える」という目的よりも、「勝ちたい」という気持ちが強くなり、結果として一生懸命に泳ぐことになる。つまり、練習の結果である「副産物」として、健康が維持され、ダイエットができるのである。

僕が、水泳のマスターズに出ようと決めてから、今年で6年目である。以来、毎年欠かさずこの大会に照準を合わせて練習をしてきたのである。

ここで、簡単に水泳のジャパンマスターズの仕組みを説明しよう。マスターズは、5歳刻みで年齢区分が変わるのである。30-34、35-39、40-44、45-49などの刻みが、90-94、95-99などと続いていくのである。

全てのレースは、基本的にタイムレースで行われる。つまり、予選・決勝は無く、一回泳いだ時のタイムで競いあうのだ。さらに、年齢区分ごとに泳ぐわけではない。すべての年齢区分を一緒にして、遅い順から早い順でレースが編成されるのである。たとえば、僕が出場している200メートル個人メドレーは、全部で26組あるが、遅
い選手の組からスタートして、最後は早い選手が泳ぐ組へと流れていくのである。同じレースで、30歳、35歳、40歳、45歳などが競い合うのだ。早い組になればなるほど若い年齢区分の選手が登場するのだ。従い、同じ年齢区分の人がどの程度のタイムを出すかや、自分の順位が何位になるかは、全ての選手が泳ぎ切るまでわからないのである。

このマスターズの大会は、実に4日間かけて開催される長丁場なのである。毎年7月中旬に日程が組まれ、200メートル個人メドレー(以後「2個メ」)は、第4日の海の日の最終種目として、通常14:30頃にスタートして、17:00まで延々とタイムレースが続くのである。

僕は、参戦してから最初の3年間は40-44歳区分に所属していたのだが、これが意外や意外まったく入賞ができないのである。高校時代に水泳で国体6位になったことがあるので、泳ぐのには自信があったのだが、レベルが高いのか、あるいは僕の泳ぐのが遅いのかわからないが、とても悔しい思いを毎年してきたのである。最初の3
年間は、毎週1-2回の練習であったのだが、それからペースを徐々に上げて、毎週3回泳ぐようになってきた。そして、練習の成果もあり、45ー49歳区分に移行した一昨年に、初めて8位入賞することができ、メダルを獲得したのである。このときは、とてもうれしかった。とは言っても45歳のその年は、年齢区分で最も若い年齢なので、有利なのである。原則、自分が一番若く、後は年上の人と競い合うので、一番チャンスがあったからである。

その後、歳を経るに従い、若い選手が下から入ってくる。しかも毎年レベルが上がっているので、入賞を維持するのが困難になるのである。昨年も幸いにもギリギリ8位入賞することができた。だが、今年は、同じ年齢区分で3年目なので入賞を維持するのは大変なのである。

今年の大会に向けては、4月以降、毎週4回泳ぐことを自分に課すことにした。自分のスケジュール帳を目を皿のようにして見つめて、隙間時間を見つけては「水泳」とインプットすることにした。僕は、特定のスポーツジムに所属しておらず、原則公共のプールで練習をしている。

青山方面に仕事で行けば東京体育館に立ち寄り、大手町方面に行けば千代田区スポーツセンターで泳ぎ、会社の帰りや会食の前には、麹町小プールで泳いだりするという具合である。当然出張に行けば、プールがあるホテルに泊まり、朝夜問わずにひたすら泳ぎ続けた。週末や平日の夕方には、可能な限り子供たちを連れて練習に行くことにしている。子供たちと触れ合う時間が増えるし、自分の練習ができるし、僕の自主練習が終わったら子供たちに泳ぎ方を教えることができるので、一石三鳥なのである。

6年間もこの生活を続けると慣れてくるものである。毎日のように、水着、ゴーグル、スイミング・キャップの3点セットとシャンプー・リンスとタオルを入れた小さな防水のポーチを、カバンの中に忍び込ませることにしている。

スーツのままプールに行き、着替えて、30分程度で1000メートル程度を泳ぐことにしている。本当は、これでは練習が足りないのだが、どうしても時間がなかなかとれないので、1000メートルを一つの基本形にして練習メニューを組んでいる。そして、プールに着いて着替えて、泳ぎ、シャワーを浴びて、着替えて次のアポに行くまでは、だいたい50分程度で済ませることができるようになる。大体一時間半の隙間時間があれば、プールの往復と水泳の練習に当てることができる計算となる。究極の隙間時間の有効活用である。

そして梅雨に入り、蒸し暑くなり、ジャパンマスターズのシーズンが近付いてきた。今年は、いろいろと考えたけど、結局思い切って水着を新調することにした。昨年のオリンピックの頃から、水着の話題が、数多くニュースに流れていた。昨年は、スピード社のレーザー・レーサーが話題になり、今年は入江陵介選手が世界記録(未公認)を出したデサント社の水着が話題になった。グロービスの同僚の水泳選手に聞くと、新しい水着を着用すると、どうやら本当に早くなるらしいのである。そこで、僕も悩んだ挙句に、結局、新規購入することにした。

入江選手が世界記録を出した水着は、生産が間に合わないので手に入らないらしいが、その下のライト・バージョンを手に入れることができた。驚くことに、水着を買う時に、手袋の購入を勧められるのである。「締め付けがきついので履くのに20-30分かかるし、繊維が繊細なので素手で無理して履くと、水着を傷つけてしまうから」と店員が説明してくれた。

翌日、実際に手袋を着用して水着を履いてみた。確かに締め付けがきつく、履くのに時間がかかった。実際に泳いでみた。水の中に入ると姿勢が良くなり、水の抵抗が少なく感じられた。とても軽いし、水はけがいい感じなのである。ただ、何よりも気になったのが、締め付けがきついことにより、おなかの肉のダブり感が強調されてしまい、格好悪いという点である。しかも、おなかの肉がダブつくと逆に水の抵抗を悪くするように思えてきた。

「やはり、こういう競泳用の水着は、体脂肪率が一桁以内の現役の若手水泳選手が履くものであって、僕みたいは中年水泳選手が履くものではないのであろう」と思ったものの、折角購入したので、是非とも大会で着てみたい、と強く思っていた。そして、その日から断酒、ダイエットをして、おなかの肉を削減する努力が始まった。水泳の大会に向けて、減量の努力が始まったのである。その時、既にマスターズの大会まで残り一週間を切っていた。

そして、大会当日を迎えた。今年は、残念ながら子どもたちの囲碁の大会と重なってしまっていたので、孤独な大会となった。囲碁大会では、長男から三男が同一チームを組み、四男も別のチームとして囲碁の団体戦に参戦していたのである。堀3兄弟チームとしては、8月上旬の少年少女囲碁大会に向けた最後の仕上げの模擬試験のよ
うなものであった。五男はその間妻の実家に預けられていた。妻は、4人の付き添いであり、僕は水泳の大会である。堀家全員その日は、何らかの形で闘っているのである。

僕は、午前中に子供たちの囲碁の大会に付き添ってから、横浜国際プールに向かった。だんだん緊張感がこみ上げてくるのが自分でも手に取るようにわかった。会場に着き、受付を済ませて観客席に入った。プールでは、200メートル自由形のタイムレースが延々と続いていた。僕は、暫くは場の雰囲気に慣れるためにボンヤリとレースの行方を見守っていた。2個メの種目が始まると同時に、サブプールに向かい、レース用の水着を着用してアップをした。200メートル程度泳ぎ、エントリーの場所に向かった。ちょっと早く着きすぎたので、持参したiPodを聞きながら心を落ち着けることにした。

僕の組の召集時間となったので、エントリーを済ませ、いよいよ僕らのスタートまで残り2レースとなった。レースの直前はいつも不安な気持ちになる。50メートルの種目であればかなり気が楽なのだが、200メートルの種目となるとしんどいレースになるのが目に見えているのである。最初のバタフライはまだいいのだが、次のバックでは極度に心拍数が上がり、折り返した後の平泳ぎでは両手がパンパンに膨れ上がるほど疲れ果て、そして最後の自由形では、手が上がらないし足もがちがちになってキックがきかなくなるのである。

こうなるのが目に見えているのである。「そうなるのがわかっていてなぜ泳ぐのだろうか」、と、ふと考え始めた。そして、自問自答を繰り返した。「でも、考えようによっては泳げるだけでも幸せではないのか?」、「80歳までマスターズに出続けることができるとしたら、あと33回もこの2個メを泳ぎ続けることができるのである。そうなると、今日のレースは、あくまでも80歳まで泳ぎ続けるための一つの通過点でしかないのでは?」などと考え続けた。

僕らの順番が来た。一列になって入場し、審判員の方に一礼をして、コースの前の席に座った。僕の思索の結論は、「今年も健康のまま泳ぐことができるのは、何て幸せなことではないか。これから80歳までマスターズに出続けて、水泳を思いっきり楽しもう」、であった。そう思うと、レース前なのにもかかわらず、不思議と笑みさえ浮かんでくるのである。

スイミング・キャップをしっかりとかぶり、ゴーグルをして目の前のプールを見つめる。選手のアナウンスが始まり、「第5コース、堀君、グロービス」と呼ばれ、立ち上がり、会釈をして、立ったまま笛の合図を待つ。笛の合図で足をスタート台に乗せ、足の指をかける。ヨーイの合図で体を曲げて、「プ」の機械音とともに、水の中に飛び込んだ。

バタフライでは思ったより体が軽いのだが、息が上がるのが予想よりも早かった。背泳ぎでは、息苦しいのを我慢しながらも大きく泳ぐように努力した。もう既に息が苦しくなってきていた。平泳ぎでは、後半で腕がパンパンになっているのを実感しながらも踏ん張った。最後の折り返しの後の自由形では持てる余力をすべて出して泳ぎ切った。

タッチをして、パっと電光掲示板を見たら、2分45秒03と表示されていた。何と、マスターズの自己ベストを3秒以上も更新することができたのである。僕は、思わず、ガッツポーズをしていた。すぐに、係員に上がるように促され、疲れ切った体をプールから自らの残った力を使って引きずりあげ、タオルや着替えを片手に、サブプールまで息も絶え絶え歩いていった。サブプールに飛び込み、ゆっくりと泳いで体をほぐした。そして、シャワーを浴びて、着替えた。

6年前にマスターズに参戦してから、毎年確実にタイムをあげることができていた。初年度が2分52秒。二年前と昨年が2分48秒台。そして今年は、一挙に3秒以上更新して、2分45秒03である。

タイムは更新できたが、一番気になるのが、順位である。エントリー・タイムでは、僕は同じ年齢区分の中では11番目の早さだったのである。8位入賞するためには、最低でも3人を抜かなければならない。昨年よりも3秒早いので、入賞の可能性はあると思っていた。掲示板に結果が張り出されるのを待った。係員が結果をもった紙を持ってきて、セロハンテープを使って掲示板に張りつけた。

45-49歳の年齢区分の欄を見つけ、自分の名前を探して、順位を見た。ヤッター、僕は幸いにもギリギリ8位に入賞することができていたのである。所定の受け付けに出向き、係員の拍手の中、メダルを授与された。

自宅に向かう帰りの車の中では上機嫌である。その頃自宅では、囲碁仲間の子供たちと親たちがピザ・パーティをしているとのことである。自宅のガレージに車を停めて、玄関の前でメダルを首からぶら下げて、ドアを開けた。「お帰り〜」の子供たちの声に対して、僕は誇らしげにメダルを自慢してみせた。子供たちは、友達を合わせて10人以上いた。

僕は、「エヘン」と誇らしげに自分のメダルを見せて、子供たちに、「みんなのメダルはどこ?」とわざと聞いてみた。その日の大会は、高校生まで参加するので、メダルを獲得するのは難しいのはわかっていたし、結果も事前に聞いていたのだが、勝つことに向けての執念を持ってほしいと思い、わざと聞いてみたのだ。2週間後には、いよいよ子供たちの「甲子園」となる、全国少年少女囲碁大会の団体戦と個人戦なのである。今年こそは、メダルを獲得して欲しいものである。

僕は、その夜は断酒を解禁し、ビール、白ワイン、赤ワインと気持ちがいい祝杯をあげさせてもらった。子供たちに囲まれ、ほろ酔い気分の中、スタート前に考えた言葉を思い出していた。

「今年も健康のまま泳ぐことができるのは、何て幸せなことではないか。これから80歳までジャパンマスターズに出続けて、水泳を思いっきり楽しもう」。

構想では、50ー54歳区分では、何とか3位入賞し、60歳区分ぐらいでは、日本一となり、70歳区分では日本記録をつくり、80歳になったら世界記録を塗り替えたいと思っている。

その間、ずっと健康のまま水泳を楽しみ続けようと思っている。健康のまま水泳を楽しみ続けることこそが、泳ぎ続ける意味なのである。

そして、ゆくゆくは「33回目のジャパンマスターズ参戦記」を執筆し、可能ならば「世界記録樹立!」というサブタイトルをつけたいものである。(^^)¥

2009年7月23日
大会の二日後、出張に向かう飛行機の中で執筆
堀義人

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