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インド出張 - その3:インドのIT業界の巨人達

投稿日:2006/12/05更新日:2019/08/21

インド経済サミットの3日目の朝8時30分に、インドの友人であるNIIT社のラージュ・パワール社長 と待ち合わせをして、朝食をともにした。このラージュ氏と最初に出会ったのは、7年前の上海であった。アジア・ソサイエティ主催のコンファレンスで同じパネル・ディスカッションに参加していたのが、ラージュ氏であった。

ラージュ氏は、インドでITスクールを展開している起業家である。25年ほど前に立ち上げた学校は、現在までインドのIT技術者の1/3を育成するに至っている。インドのIT化を推進させた立役者と言っても過言では無いと思う。彼がインドでITスクールを、そして僕が日本でマネジメントスクールを展開しているという共通点があるからか、ラージュ氏が来日の度に情報交換をするなど親しく交流させてもらっている。

ラージュ氏と僕とには共通点が多くあるが、いくつかの相違点もある。 ラージュ氏の会社は上場しており規模を追求するが、グロービスは上場をしないと決めているので質を追求できる。インドでは民間の学校を大学院化できないが、グロービスはいち早く大学院化した。その違いは大きいと、僕は感じている。

ひと通り日印の教育環境に関して意見交換をした後、ラージュ氏は僕のインドでのスケジュールを確認してくれた。「バンガロールに行くならば、IIM(インド経営大学院)に行った方がいいよ」と言ってくれて、その場で携帯電話を取り出し、アポを取得してくれた。ラージュ氏から、インフォシスの会長秘書に電話が入り、会長秘書からIIMにアポを入れてもらうという筋書きである。これは、相当パワフルなルートである。

アジアNo1のビジネススクールになるには、同業他社として、インドのIIMは気になる存在であったから、訪問できるならばラッキーである。(その後、 IIMの学長(Director)とアポが取れた旨、インフォシスの会長秘書から連絡があった。やはり友達の力は大きい、と実感した。)

朝食後、二人でインド経済サミットのセッションに参加した。イノベーションに関するセッションであった。日本からは、元学術会議のヘッドの黒川清さんが参加していた。やはり、日本人がスピーカーとして参加すると、日本のプレゼンスが上がるのでとても良いと痛感した。

僕は、そのセッションを途中で抜け出して、インドの哲学者兼スピリチュアルリーダーの一人と言われている人のセッションに参加した。経済サミットには、ふさわしくない風貌の方である。テーマは、「内面の技術〜健全である方法論は?」である。つまり、外的な美しさや物理的欲求よりも内面の心を健全にしなさい、というインドならではの精神性が高い内容のものであった。経済・ビジネス中心のサミットの中では、心のオアシス的なセッションとなった。

その次の全体セッションには、友達のラージュ氏が登場した。パネルの共演者は、ウィプロ社の創業会長である アジム・H・プレムジー氏、インドの情報通信大臣、そして英国テレコム(BT)の社長である。テーマは、「インドとIT・通信の将来」というものであった。圧巻は、ウィプロ社のプレムジー氏である。彼の洞察力ある冷静な語り口は、人々を圧倒する力を持っていた。質疑応答の時間には、彼に質問が集中してしまい、大臣を含めて他のパネリストが手持ち無沙汰になる感じであった。彼が言うには、既に世界のITサービス企業のトップ10のうち3社がインドの会社である。後で調べてみたが、インフォシス、TCS、そしてウィプロ社とも、既に時価総額が2兆円を超えていた。

最後のセッションには、インフォシス社の共同創業者兼CEOのナンダン・M・ニレカニ氏が参加していた。相変わらず切れ味のいい意見を拝聴できた。僕は最後のセッションの後、バンガロールに向かうため空港に直行した。

空港でセキュリティを通過するときに、ウィプロ社の創業会長であるアジム・H・プレムジー氏そして、インフォシス社のナンダン社長と一緒になった。彼らも同じ飛行機でバンガロールに向かうようであった。ナンダン氏と歩きながらコンファレンスの感想を語り合った。

僕は、機内では彼らと同じ列に並ぶことになった。インドのIT業界の覇者のトップ二社と僕が、横に4列しかない飛行機のうち3席を占めているのであ る。プレムジー氏は、移動中ずっと書類に目を通していた。 彼は、ひたすら真面目に、静かに、そして賢く、社長業の求道者という雰囲気であった。

一方のナンダン氏は、機内でゆったりとお休みであった。 ダイナミックでありながらもチャーミングな面が見受けられた。ちょっと失礼かもしれないが、英国のコメディに出てくる「ミスター・ビーン」にどことなく似ていた。

印象的だったのは、バンガロール空港に到着したあとで、バッゲージ・クレームで荷物をピックアップするときのことである。ナンダン氏は、荷物をピックアップしないで、素通りして取り巻きを伴って帰っていった。恐らく部下の誰 かに荷物を任せているのであろう。一方のプレムジー氏は、何と一人でバッゲージクレームで荷物が出てくるのを待っているのである。時価総額2兆円を超える企業の創業会長が、一人で荷物が出てくるのを待っているのである。

僕は、この間を利用して、プレムジー氏と色々と意見交換させてもらった。彼は、ウィプロ社の二代目経営者であるらしい。ウィプロ社を1983年にハー ドウェアのエンジニアリング会社に衣替えして、1986年からはソフトウェアに参入した。当初は、ムンバイを拠点にしていたが、6年前にバンガロールに拠点を移していた。日本にも力を入れていて、日本のソフトウェア会社の買収にも意欲的に取り組みたいとの意向を持っていた。僕はこの機会にグロー ビスに関しても説明させてもらった。

僕は、荷物が出てくる前に、ちょっと意地悪な質問をしてみた。「ある雑誌の記事で、プレムジーさんは出張中にホテルで下着は自分で洗うと書いてあったけど、本当ですか?」、と。僕は、その記事をよく覚えていた。プレンジ氏は、既に一兆5千億円以上の資産を持つ、インドのNo.,1の資産家起業家である。その資産家が、出張中に下着をローンドリー(洗濯)に出さないで、自分で洗うのだという。彼は、照れくさそうに、「短期出張中の時だけだよ」とは言っていた。僕は正直に、「その質素な姿勢に大変感銘を受けた」、と お伝えした。

僕は、このような方が好きなのである。いくらお金ができたとしても、「もったいない」の精神を維持し、以前とそれほど変わらない姿勢を維持できるのは、僕にとっては尊敬に値するのである。本来ならば、プライベートジェット機で移動してもいいぐらいの立場の方である。

プレムジー氏の荷物が先に出てきた。彼は自ら荷物をベルト・コンベアから降ろして、僕と再会を誓って別れの握手をした。
彼は、ガラガラと荷物を引っ張りながら、出口に向かい歩いていった。僕が手を振ったら、白髪の老紳士は静かな笑顔を称えて、片手で手を振り返してくれた。そして、そのまま一人で出口に向かっていった。

2006年11月30日
バンガロールからアウランガバードに向かう機内にて執筆
堀義人

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