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キャリアコンサルタント・小杉俊哉氏―人生を輝かせる、「絶対的キャリア」発想のススメ

投稿日:2008/02/08更新日:2019/04/09

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小杉俊哉氏は、新卒で日本電気(以下、NEC)に入社、海外営業や法務関連の仕事に従事した後、29歳でマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)にMBA留学。帰国後は、マッキンゼー日本支社を経て、30歳代という若さでユニデン、アップルジャパンといった名だたる企業の人事トップを歴任、39歳で独立した。現在は、コーポレート・ユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役社長ほか数社の取締役を務め、人材育成、組織・人事コンサルティングに携わるほか、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科で教鞭も執る。小杉氏の考える、環境変化に耐える理想的なキャリアデザインとは。

変化の激しい時代には「絶対的キャリア」の発想が不可欠

私は仕事がら、大学生から就職の相談を受けることも多いのですが、よく聞かれるのが、「どんな会社が伸びそうですか」、「どんな資格をとっておけば一生、食べていけますか」といったことです。

でも、そんなこと、答えようがありません。今は良い会社であっても、例えば10年後にどうなっているかを明言することは、不可能です。こんな時代ですから、オーナーが代わって外資系になってしまうかもしれないし、会社自体がなくなってしまうかもしれない。「(就職したいと考える先の)会社が何を求めているか」に自分を合わせようとしても、その基準自体が、ある日、突然に変容する可能性があるわけですから、そうした発想で物事を考えていても、振り回されるだけです。

既に仕事をしている人も同様です。たとえ今、社内で高い評価を受けていたとしても、急に新しい上司が来たり、評価制度がガラリと変わったり、会社が買収されることもあり得ます。そう考えると、会社から与えられた評価項目をひたすら高めることに、どれだけ意味があるのでしょうか。

誰かが決めた基準に自分自身を合わせようとするキャリアを「相対的キャリア」と呼んでいます。これに対して、私が必要だと思うのが「絶対的キャリア」です。自分が何をしたいか、自分ならどう判断するかという基準を明確にし、それに沿って仕事をすること。キャリアも評価も自分で作り出そうということです。

皆さんは今、自分の判断で講演を聴きに来てくださっていますよね。忙しいなか、自分で仕事のやりくりをしていらしたわけです。これが会社の研修だったらどうでしょう? ほとんどの人が、「会社が決めたから」、「上司が聴いて来いと言ったから」などと答えるでしょう。取締役クラスでもそんなことを言います。受け身になってしまうわけです。

では、もし、「1日3食、全部ラーメンを食べろ」と人事から言われたら、ラーメンを食べ続けるのか。しないですよね。従う必要がないからです。「会社に従わなかったらクビになる。出世できなくなる」と言うかもしれない。でもそれも含めて自分の判断でしょう。仕事も、会社も、家族も全て自分で選んだものです。「今ここにいること」を自分の意思で選んでいると自覚する。それが「自律」であり、「自分でキャリアを作る」ことの第一歩です。

「自立」ではなく「自律」です。「自立」は自分の力で生活する、一人前になるということです。当たり前のことですね。「自律」は自分で選んだことに責任を持つということ。自分で選んでいるという意識があるからこそ、コミットメントが生まれます。

「偶然」と「食わず嫌いをせぬ努力」が、キャリアデザインを可能にする

では、絶対的キャリアを構築していくために、必要な要件とは何か。

よく言われるのは、「ジェネラリストはダメ。専門性を身に付けなさい」ということです。しかし、一つの資格、スキルを持っているからといって安泰ではありません。ある会社のCFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)のコンピテンス(能力)を分析したら、面白い結果が出ました。

財務・会計関連の専門性は必要条件ではあるけれど差別化要因ではなかったのです。他の部署と絶えずコミュニケーションをとって情報をやり取りしている。そして社外とのネットワークを持っている。そういう要素がCFOをCFOたらしめていた。いわばメインの専門分野と第2、第3専攻の組み合わせによって自分自身を差別化しているわけです。会社や商品と同じように、自分自身の差別化戦略を立ててみてはどうでしょうか。

一方で、長期的なキャリアということになると、そう単純ではありません。「キャリアデザイン」という言葉がよく聞かれますが、建物を建てるように設計図を描いてキャリアをデザインできるのか。この答えは「YES」であり、「NO」でもあります。

30歳代後半以降、それまでに様々な可能性にチャレンジして自分の強みや弱みを把握した上で、それらを伸ばす努力をしてきた人は、キャリアデザインが可能です。しかし、経験の浅い20歳代後半、30歳代前半のビジネスパーソンでは難しい。

では、どうするか。まずは、食わず嫌いをなくすことです。例えば「起業したい」という人に、「じゃあ簿記を勉強していますか」と聞くと、ほとんどが勉強してはいません。「会計士に頼むから」という。しかし、本当に人任せでいいのか。バランスシートの情報も読めずして、どう経営判断をするというのか――。

苦手と感じていることでも、実際にやってみたら面白いかもしれません。私は、NECに勤めていた時期に通信講座で簿記講座を受けて、その後、そのアドバンス講座も受講しました。さらに留学先のビジネススクールでも、当然、コンサルティング会社に転職してからも、財務分析に取り組みました。それでも、やはり苦手で、数字の羅列からは多くを読み取れない。ただ、そこまでやって初めて、「苦手」と言い切れるのだと思うのです。

とにかく、やってみる。経験でしか補えないことというのは多いのです。最近、一部上場企業の社長の年齢が若くなっていることに気づきませんか? これは、突然、若年層の能力が上がったとか、成果主義の導入により、若い社長が登場しやすくなった、とかいうだけが理由ではないのです。「若いうちにやらせてしまおう」という雰囲気が、広く醸成されてきたのです。社長としての能力は、社長にならなければ身に付かない。やってみなければ分からないことは多々あります。

ローソンの新浪(剛史・代表取締役社長兼CEO)さんや、元・ダイエー社長の樋口(泰行・マイクロソフト代表執行役兼COO)さんも、40歳代でした。新浪さんは確かに三菱商事からハーバード・ビジネス・スクールに留学したという、華やかな経歴の持ち主だけれど、三菱商事には優秀な人は他にも多数いる。では彼らと新浪さんでは何が違うのかというと、新浪さんは三菱商事時代に、不採算の小さな給食会社を買収して自ら社長となり、見事に再生させました。その手腕を買われてローソンの社長に就任したわけです。樋口さんも同様で、日本ヒューレット・パッカードでの社長経験があったからこそ、「国を挙げてダイエーを救おう」ということになった時、声がかかったと聞いています。

私自身のキャリアを振り返っても、36歳でアップルの人事総務本部長という職責に就けたのは、前職のユニデンで、33歳のときに人事総務部長を経験していたからでした。では、ユニデンでなぜ、若い私が大きな仕事を任せてもらえたかといえば、これは全くの偶然からでした。

留学先から帰国後、戦略コンサルタントとしてマッキンゼーに従事していたのですが、途中から、やはり自身でマネジメントに挑戦したいと考えるようになり、MITの先輩に相談に行ったのです。その先輩というのがユニデンの常務(当時)で、「会長直轄の組織で、社内の様々な問題解決に取り組まないか」と声をかけてくれました。

そこで最初に、「法務部を作らなければダメだ」という提案をして法務部を作って、法務部長になったところ、1カ月ほどして会長から「法務と人事総務は関連があるから、一緒にやれ」と人事総務も任されるに至った。

「キャリアは、自分自身でデザインできるのか」という問いに対する答えが、「YES」であり、「NO」であると話したのには、そんな経験も影響しています。

キャリアを方向づけていく最初のきっかけは、「知人の薦めで偶然に」とか、「たまたま読んだ書籍に刺激を受けて」など、偶発的な要素が極めて大きいと思います。ただ、そこで食わず嫌いをせずに一所懸命に取り組み、次のチャンスにつなげられるかは、個人の自発的な姿勢が大きく関わります。

私自身、ユニデンで人事総務部長に就いた際には、大変な思いをしました。普通は年配の社員がする仕事を、僕のような若造が担うわけですから、周囲から“なめられる”わけです。吊るし上げられ、足を引っ張られ、でも頑張りました。そうしたら、次があった。始まりは偶然でしたが、自発的な積み重ねによって、自身のキャリアを構築することができたのです。

「仮面」を外し、ありのままの自分をさらけ出すことが人を引き付ける

では、30歳代後半以降になって、自身の思い描くキャリアを手に入れられない人というのは、何が足らないのでしょう。

ほんの5年ほど前までは「リストラ」が叫ばれ、年収1000万円だった人がハローワークに通い仕事を探しても、年収400万円の仕事もない状況がありました。一方で、年収何千万というヘッドハンティングを受けた人もいた。

その差は何か。中高年になってキャリアチェンジできない原因は明確で、大きく分けて三つあると思っています。「学習していない」、「受身の仕事をしていた」、「組織に同化していた」です。

「学習していない」というのは「人の話を聞かない」ということです。特に若い人の話を聞かない。年配の人の場合、自分より年下の人と接する機会のほうが圧倒的多いですから、「若い人からも学ぼう」という意識を持たない限り、自身の成長は止まります。しかし、多くは上ばかり見て上司の言うことしか聞きません。それから「自分は営業畑の人間だから」というように、新しいことに挑戦しない人も多いです。これも学習しない人ということになります。居心地の良い「安全領域」から出て行くことも必要です。

「受身の仕事をしていた」というのは「会社の言うとおりに仕事をしてきた」ということです。それは無駄ではないけれど、そうして得る高評価は、あくまで会社の内部でしか通用しないものです。ある会社特有のやり方が、ほかの会社は全く通じないということも起き得ます。自分で提案して、自分で働きかけて、自分で変えようとした経験がないと、新しい環境には適応できません。

「組織に同化していた」人というのは「会社の壁」になっている人です。「うちの会社はこうだから」と自分から「壁」を作ってしまう人です。30歳代のうちからこんなこと言っている人は悲劇ですね。会社自体が変わったときに対応できない。会社は変わるときは本当に変わりますからね。うっかりしたらなくなっちゃうこともあるのですから。

ハーバード大学で教えていたウォーレン・ベニスという教授は「多くの人は自分の才能や興味、趣向を発見できない」と言っています。「なぜなら才能や興味、趣向を発見する機会を作れないからだ」と。

先にも述べましたが、まずカラダを動かしてチャレンジしてみないことには、自分は何をやりたいのか、どうしたらいいのかは、いつまでも経っても見えてこないということでしょう。

キャリアを構築していくうえで必要なのは、専門性やスキルだけではありません。専門性やスキルを組み合わせた「知恵」に加わってくるのが「人間性」です。平たく言うと「その人に頼んでいると安心だ」とか「ずっと一緒に仕事をしたい」と相手に感じてもらうことです。どんなに知識があっても「この人は嫌だな」と思ったら、相手は逃げていってしまいます。

では人間性をどうやって高めたらいいのか。これは簡単。自分を出しちゃう。ありのままの自分を出す。皆さん、職場では「仕事用の仮面」をかぶっているのではないですか? 私は数年前まではすごく仮面をかぶっていました。

コンサルタント時代は、「隙を作ってはいけない」、「何を聞かれてもズバッと切り返さなければいけない」と思っていました。マッキンゼーでは、「いいスーツを着ろ、いいカバンを買え、いい靴を履け、そしていい飯を食え」と言われました。

人事部長になってからも、上からものを言ったり、どの社員に対しても平等に接しようとして、どうしても自分を作ってしまった。それからこう見えてもすごく小心者で、人前に出るとつい構えてしまいます。

その後、独立してからも、講演や研修の際には、ついつい、そうしたコンサルタントとか人事部長の仮面をかぶってしまっていました。

けれど、ふと気づいたのです。「どんなに良い内容を話しても、ありのままの自分を隠して何かを演じている限り、話している内容は人の心には響かない」。それであるとき、「クールでインテリっぽくて冷静で隙がない」という仮面を取ってしまおうと、決めました。

これでも私は結構、心が温かいし、涙もろくて、傷つきやすかったりするんです。おっちょこちょいだったり、おちゃめだったりもします(会場笑)。そういう一面が、少しでも皆さんに伝わるといい。そんな風に考え方を変えました。

人それぞれ、その人なりの良さというものがあって、それは友人や家族が好きと思ってくれる自分の姿だったりします。「理想の自分」に向かっていくことは大切です。しかし面接やプレゼンなど重要な場面ほど、人間らしさを出すと心が通い合う。もちろんお客さんや上司に対して100パーセント出すのは難しいと思う。今ゼロだったら20出して、40だったら60出してみたらどうでしょうか。

実は、世の中には、そのものズバリ、「仮面を脱ぐ研修」というのもあるんです。1日かけて仮面を脱ぎ捨てるという研修です。

私も受講したことがあるのですが、途中まで凄く斜に構えて皆と話していました。すると、あるアメリカ人から、「あんたはセクシーじゃない」、「この場にいない感じで全然、魅力的じゃない」と言われてしまったのです。これは非常にショックでした。

その後、ちょうどお昼になって皆で食事に行った時に、交差点で転びそうになった。そうしたら皆からの笑い声が起きて、視線が温かくなったのです。「転びもしない嫌な奴」と思われていたのが、「そんな人間的なところもあるじゃない」と、変わった瞬間でした。

そこで勘所が掴めたというか、以降は、「うまくやってやろう」、「よく見せよう」と、肩に力を入れるのを止めることができました。「思い切って自分を出してしまって、分かってくれない人とは縁がなかったと割り切ろう」。そう考え方を変えてから、講演や研修の評価もビックリするぐらい上がりました。

「夢」と「ビジョン」は異なる。具体的なイメージが実現への第1歩

最後に「ビジョン」ということについてお話しましょう。

皆さん、「将来こうなりたい」という願望をお持ちのことと思います。しかし多くの願望は、悲しいかな「夢」で終わります。人偏に「夢」と書いて「儚い」。儚いのが「夢」なのです。現在からその夢までのつながりが見えないと、どうしていいか分からない。手の届くところまで近づいてきてはくれません。

一方、ビジョナリスト(ビジョンを持っている人)は何が違うかというと、具体的で明確なビジョンを持っています。事業計画を書ける、という意味ではありません。夢が叶ったときの様子がはっきりと目に浮かんで、その時の、ワクワクとして楽しい気分とか充実感があるといった感情まで想像できる。匂いや肌感覚まで分かっている人がビジョンを達成していきます。

こうした人は、目標に向かって突き進み、「この人はできる」と周りの人を巻き込んでいきます。「確かにそれはすごい」、「本気で考えている」と思わせてしまうのです。5年後のビジョンが明確であれば3年後には何をしているか、そのためには半年後には何をしているか、そのためには今日どうするか決まってくるわけですね。今、いろいろな人がビジョンについて語っていますが、基本的には同じことを言っているのだと思います。

ビジョンは不言実行ではなくて、有言実行でないと人には伝わりません。実現した場合の絵図を、自分の細胞レベルにまで叩き込み、一つずつ形にし、他人をも巻き込んでいく。これは他人の評価軸に自分を当てはめるということの対極にある生き方です。

自分の意思で自分の行動を決めているのだと認識すること。評価を他人の手に委ねずに、自分で自分を評価する。相対的キャリアから絶対的キャリアへ。他律意識から自律意識へ。学習を続け、できるだけ早くチャレンジを始めること――。

最後にこの言葉を皆さんにお伝えします。「今までと同じことをして違う結果を期待するものをバカ者という」。アインシュタインの言葉です。今までと違う結果を求めるなら違う行動をとるべきです。当たり前の言葉ですが、我々は肝に銘じるべきと思います。

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