中部電力は、曖昧な「要請」に断固拒否を 

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中部電力の管内にあるグロービス経営大学院の名古屋校で、クラスの冒頭にケース討議を行った。テーマは、今回の政府による浜岡原発停止要請へ中部電力の取締役としてどう対応するかだ。

「中部電力が、政府から浜岡原発を全面停止するように緊急要請を受けた。その損失を積算すると、年間2500億円で、営業利益の二年分に匹敵すると見積もられた。そのコストは、株主の損失、電力のユーザーへの価格転嫁、或いは社員の人件費のカット等で賄われることになる。地元市長は継続を希望し、県知事は政府の要請を歓迎している。

福島第一原発を襲ったのと同様の地震・津波を想定した安全対策を施し、瞬時に電源の確保ができる準備を行い、事故の可能性は無視できるほど低いと判断していると仮定しよう。さて、貴方が中部電力の取締役ならば、何を考え、どう判断しますか?」。

様々な意見が出た後に、最後に僕の見解を述べた。

「僕が、中電の取締役であれば、法的根拠の無い曖昧な『要請」を受け入れない。だが、法的根拠のある『命令』には従う。自主的に浜岡原発を停止すると、年間2500億円の損失を株主に与えることになり、株主代表訴訟の対象になりかねないからだ。

従い、官邸には、次の3点を伝える。(1)株主代表訴訟のリスクがあるので、要請には答えられない。法的根拠のある命令であれば、受け入れる。但し命令の際には、なぜ浜岡原発のみが対象になるのかの明確な基準を提示して欲しい。

(2)その命令により年間2500億円の損失が発生するので、政府に補償を希望する。併せて、(3)安全に関しては、万全を期している旨再度説明をする。

つまり、ボールを官邸に投げ返すのだ。命令が出たならば従い、補償を期待する。補償が無ければ、株主利益を守るために訴訟も辞さない態度で臨むのだ」。

ドイツで、大震災後にドイツ政府が原発7基を停止したことに対し、電力企業が「暫定停止は違法だ」として国を相手取った訴訟を起こした。この訴訟は、どちらが勝つかは不明だが、上場企業としては、曖昧な要請ではなく、法的根拠を持った命令にのみに従うのが妥当だと思う。

僕の提案のポイントを整理すると、以下となる。

(1)曖昧な「要請」には拒否するが、法的根拠がある「命令」には従い停止する、という姿勢をとることにより、反原発派等からの批判を避けることができる。命令であれば、損失補償の可能性が生まれる。「出荷停止命令」等には補償があるが、自主的判断では、基本的に補償は期待できないであろう。

(2)基準を明確にしてもらうことにより、再稼働に向けた行動がとりやすくなる。経産大臣がテレビで、「密集しているから」というコメントをしていたが、それが理由ならば建て直すことが必要になる。基準なき曖昧な要請を受けると、停止期間中何をすべきかがわからない。基準があれば、「なぜ浜岡だけで、他の原発は違うのか」という疑問も明確に説明してもらえる筈だ。

(3)自主判断で停止をすると、政府の補償が得られないとともに、株主代表訴訟に対しても、説明ができなくなる。「命令」に対応した停止であれば、補償無き場合には、政府を訴える余地が残る。その際には、「基準」の面で十分な安全対処ができているかの争いになろう。だからこそ、再度安全対策を説明するのだ。

取締役は、株主、顧客、社員、地域コミュニティを含む全てのステークホールダーを守る必要がある。曖昧な「要請」をそのまま受け入れると、説明責任を放棄することになり、政府の曖昧な「行政指導」を助長することになる。筋の通らないことは受けてはならないのだ。「無理を通せば、道理が引っ込む」だ。

クラスは中部電力の取締役としての対応を討議した後に、ヤマト運輸のケースで学んだ。ヤマト運輸元会長の小倉昌男さんは、「よく行政にたてついて平気でしたね」との質問に対して、「行政にたてついた気は無い。強いて言えば、行政がヤマトにたてついてきたのだ」という趣旨のことを仰っていた。中部電力の取締役に、その気概を望みたい。


2011年5月9日
堀義人

 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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