グロービスの大学院化のビジョンは、創業当初より思い描いていたものである。ただ、その方法論は、柔軟に考えていた。当初は、3つのオプションを挙げていたのだが、最終的には、もう一つのオプションの「社会認知型大学院」を加えて4つのオプションとなった。それらの中で最も良い方法論を、1996年より、下記3つのステージ に分けて実施することにした。
ステージ1 「海外大学院との提携」によるMBAの発行(1996年開始)。
ステージ2 「社会認知型大学院」(2003年4月開始)。
ステージ3 「文科省認可の大学院」(2006年4月開始)。
「文科省認可の大学院」を創ることは、大学院化のオプションのひとつに挙がっていながらも、早い時点で、その可能性は断念していた。拙書「吾人の任務」に、以下のとおり、その経緯が書かれている。長くなるが、全文を掲載することにする。
<以下「吾人の任務」 第5章「MBAを創る」より抜粋>
「●グロービスのMBAへの道のり
HBSのキャンパスで寝転がって描いた「大学院化」のビジョンに向かって、数年前より GMSの大学院化計画を始動していた。ただ、一言で「経営大学院」を創ろう、と言ってはみても、現実はそう簡単ではなかった。創業当初より、「どうすれば大学院をつく れるのであろうか?」と、僕は考え続けた。
HBSのケース中で出てくる起業家のように、僕も冷静に経営環境を分析して、様々な選択肢を考えてみた。その際には、「可能性を信じる」という信念のもとに自ら限界をつくらずに、青天井の可能性があるという前提で検討した。
経営大学院化に向けて、以下3つの選択肢を挙げた。
1)文部省(当時)認可の大学院を創ること。
2)米国大学院を買収して日本校をつくる
3)海外の名門大学院と単位互換でMBAを発行する。
これらを一つ一つの可能性を考えてみた。
1)文部省認可の大学院を創ること
文部省認可の大学院となるには、先ずは学校法人をつくる必要がある。そのためには、土地とある程度の資金が必要となる。資本金80万円のベンチャーとして始まった会社には、そのような資金力は無い。
例え、学校法人を創れたとしても、大学院認可への道のりはとてつもなく長い。様々な規制があり、大学設置委員会への申請があったり、しかも最終的には文部省の承認が必要である。仮に認可を受けたとしても、われわれの税金を使った補助金を受け、様々な規制のもとで教育サービスを提供することになる。この税金を使う補助金というコンセプトと規制には、僕らは抵抗があった。
HBSで学ぶことの一つに、「ビジネスは、政府に近づけば近づくほど非効率にな る」という考え方がある。郵便局とヤマト運輸の事例を出す人がいる。郵便局が提供しているサービスと民間のヤマト運輸が提供しているサービスでは、どちらがクオリティーが高くて、消費者の利便性を上げているであろうか。そもそも「書類を運ぶ」というサービスであれば、政府系であろうが民間であろうが、信頼性が高くて品質が良く、早くて安ければいいのである。
大学院も同じで、品質が高い教育サービスを、利便性が高い形態で、価値に見合った値段で提供できれば良いのである。つまり、政府の認可を得るために頭を下げて申請し免許を受けて規制の中で経営することには、さほど大きな意味はないのであろう。一番重要なことは、そのビジネススクールの価値を受講生、企業、そして社会が認めることである」。
このように、「吾人の任務」に定義した通り、文科省の大学院化の選択肢は、早い時点で削除されていたのである。
そして先ずは、上記3)の「海外の名門大学院と単位互換でMBAを発行する」オプションから着手することになった。
2005年12月11日
自宅にて
堀義人