グロービス・マネジメント・スクール(GMS)の教育理念の一つに、「将来にわたる人的ネットワーク構築の場」提供」がある。この意味するところは、「幅広い友達を創ると、人間的にも豊かになる し、さまざまなものが可能になる」、である。
そして、「高い能力」、「人的ネットワーク」、そして「志」があれば、裸一貫で何かを始めても、基本的には成功できるのでは、と僕は、思っている。従い、その3つがグロー ビスの教育理念として各教室に張り出されているのである。
教育理念の一つである「人的ネットワークの構築」は、僕自身も実行している。人的ネットワークの構築には、学校とともに、会合やコンファレンスの場が有効であるこ とを経験的に認識している。特に海外に出ると、国内ほどグロービスは知られていない。しかも、地理的に広がりがあるので、仮に一度出会っても、友達関係まで親しくなるには、時間とエネルギーが必要となる。
そこで僕は、組織ネットワークとコンファレンスを活用することにしている。組織ネットワークがあると、何をしなくても、友達としての同胞的な意識を持てるし、コンファレンスでは、数多くの人々に短時間で会えるからである。
僕は、それらを「チャネル」とか「アベニュー」と呼び、海外ネットワークをつくる良い手段として活用させてもらっている。
簡単に、その活用しているネットワークを紹介しよう。
①起業家ネットワークとしては、YEO(Young Entrepreneurs Organization= 青年企業家機構)。
②大学院の同窓会組織として、HBS(ハーバードビジネススクール)の卒業生の会。
③政治家、マスコミ、学者などの幅広いネットワークとして、World Economic Forum(ダボス会議)
僕は、これらにただ単に参加するのでなくて、主導的立場で参画している。YEOでは、日本の創始者であり、アジアの初代代表兼世界の理事メンバーでもあった。HBSでは、HBSの世界の理事会のメンバーに今年就任したばかりである。ダボス会議では、ニューアジアンリーダー(NAL)の日本代表として理事会メンバーにも加わった。これらネットワークを活用することによって、網の目のように世界にネットワークを構築することができるのである。
更に、コンファレンスの活用としては、以下がある。
①アジアのベンチャーキャピタル(VC)や投資家と出会う場。Asian Venture Capital Forum(AVF)
②IT企業家やVCと出会う場としてのETRE、RedHerring, Alaways Onなど。
③そしてビジネススクールのネットワークのためのAMBA(Association of MBA)の会合。などである。
当然、YEO、HBS、そしてダボス会議がそれぞれコンファレンスを開催しているので、それらにも参加することになる。これらの会合に参加するたびに、コラムで報告してきたので、読者の方にはも馴染みがあるかもしれない。
コンファレンスが良い理由は、企画者が世界各国から参加者を呼んでくるので、僕自身が個人としてアポイントを取らずとも、主要なメンバーに同じ場所で短期間で会えることである。こんな効率的で便利なものは無い。
従い、僕の海外出張は、先ず上記の海外ネットワーク構築・維持のためのコンファレンスのスケジュールに合わせて、確定していくのが常である。そして海外出張に行くたびに、各地の投資家を訪問したり、ビジネススクールでスピーチをしたりしているのである。
出張は欧米が多いのだが、僕のネットワーク構築の基本は、「アジア重視と同世代重視」である。同世代の友達がかなりのパワーを持つころには、グロービスも全日制の英語の大学院が山の中に出来上がっていることであろう。アジアで評判を確立して人的ネットワークを構築することにより、優秀な学生を呼べるようになると思われる (という名目のもと世界の友達と遊んでいるだけなのかもしれないが。。)。
「アジアNo,1のビジネススクールを目指して」という新聞広告も掲載し始めている。 これからもアジアを主体として考えたい。
そして、昨年より新たに加入した世界的ネットワークがYPO(Young President Organization)である。YPOは、YEOの兄貴的存在であるが、実はかなり違うのである。YEOは、40歳以下の起業家だが、YPOは50歳以下の社長なのである。従い、YPOの方が年齢層が高く、オーナー社長やプロフェッショナルの経営者など幅広いメン バー構成となっている。
僕は、昨年末にYPOに加入したのだが、今まで海外のコンファレンスには参加してこなかったが、国際的なイベントのスケジュールのリストの中で、2005年11月30日-12月4日にマニラで開催される、YPOの「アジア太平洋のコンファレンス(ASAPCON)」があった。早期申し込み者には、割引があるので、半年以上も前に申し込むことにした。
だが、いざ時期が近づいてくると、結構バタバタしていることに気がつく。11月30日に友人の社長就任のパーティが開催され、12月4日には友人の結婚式での主賓の挨拶を依頼されていた。
となると4泊5日のASAPCONへの参加もたったの2泊3日になってしまい、コンファレンスにもほとんど参加できない。何度も行くのを辞めようかと思ったけど、 「YPOメンバーになって初めての海外イベントだし、顔だけでも出してみよう。」、と思い立ち、マニラに行くことにした。
マニラ空港に到着し、一早く飛行機から降りて、いつものように移民局(イミグレーション)まで一目散に足早で進んだ。移民局の前で、僕の名前が書かれた看板を持った黒服の紳士を見つけた。僕がHoriだと告げたら、「Mr.Horiようこそ、マニラ へ。どうぞラウンジでごゆっくりしてください」と言われた。
「せっかく先手必勝で一番早く移民局に着きそうなのに、のんびりしたくない」、という気持ちがあったが、言われるがままに、ラウンジでゆっくりすることにした。冷たい水を飲みながら、ゆっくりとしていると、違う紳士が近づいてきた。「パスポー トを預からせてください」というので渡すと、暫くして、「僕の代わりに入国審査を終えました」と言ってもどってきたのである。
一休みした後、担当の方に導かれて、移民局の長蛇の列を横目に、通り過ぎることができた。「気持ちがいい」、こんな待遇始めてである。そして、そのまま空港出口の前に横付けされた黒塗りのリムジンに乗り、ホテルに直行である。
部屋に入り、シャワーを浴び、一日分のメールチェックをする。ダークスーツに着替えて、17時30分に待ち合わせ場所に向かった。そこで、早速韓国のHBSの友達と会う。
バスに搭乗し、韓国の友人、会で出会った台湾の友人二人と談笑。「バスの流れが良いな〜」と思い、ふと外を見ると、何と前にはパトカー、そして両脇には白バイのエスコ-トである。渋滞の場合には反対車線を通行したり、混雑している交差点をブロ ックしてくれたりで、スムーズに走っていった。
そして、着いた場所が、あのマルコス元大統領が愛用したマラカニアン宮殿である。フィリ ピン版のホワイトハウスだ。歴代の大統領の油絵がかかる大広間で、シャンパングラスを片手に、数多くの仲間と再会することができた。HBSの同窓生から、YEO仲間、そしてダボスのニューアジアンリーダー(NAL)の仲間などである。確実に、アジアにネットワークの網が広がっているのを、実感できた。
そして、メインルームに誘導された。暫くすると、赤いカーペットの上をアロヨ大統領が背筋を伸ばして歩いて登場された。第一印象は、失礼ながら、「背が低くてチャーミングな女性」である。身長は150センチも無いと思われる。
背は低いけど、スピーチは、威厳を伴ったものであった。ビックリしたのだが、閣議のうち4名がYPO出身だというのである。ポリティカル・アポインティ(政治的任命)がフィリピンでは当然のように行われているようである。そう言えば、ダボスで会ったフィリピンの大臣と意見交換したことがあったが、彼もYPO出身だったということを思い出した。
スピーチの後、アロヨ大統領は、1時間ほど参加者の中を徘徊したり、着席して食事をしたりしていた。背が低いのでお姿を確認することは出来ないが 、取り巻きの流れでいらっしゃる場所がわかった。僕は、大統領に挨拶をすることにした。身長差のため腰を最大限曲げ、握手をして、簡単に自己紹介した。チャーミングな笑顔である。
その後、宮殿の近くのYPO仲間の自宅の庭で、著名な歌手によるディナーショーが行われ、その後、カクテルパーティが開かれた。マニラの夜は遅い。立ちっぱなしで疲れたので、その夜は、早めにベッドに入ることにした。
翌日のコンファレンスも同様にネットワーキング主体であった。夜は、華僑系の大金持ちの家に小グループで招待された。ホストは、携帯電話会社や航空会社を傘下に持つ、いわゆる財閥のオーナー社長である。素晴らしく礼儀正しく、好感が持てる方である。彼は、WhartonのMBAホルダーである。アジアのエリートは、皆高学歴である。
僕の隣には、フィリピン最大の民族系の電力会社の若き社長がいた。彼は、HBSに留学していた。毎日自宅のプールで2000Mを泳ぐという。同世代ということもありすぐに意気投合した。「いつかは世界マスターズの大会に一緒に出よう」、と誓い合った。彼の奥様は、とびっきりの美女である。聞くと、スペイン、中国、フィリピンそして、アメリカの血が交じっているのだという。
そして、翌日にはもう帰国である。最後の晩が最高に盛り上がるらしい。でも、翌日の結婚式参加のため、どうしても帰らなければならない。コンファレンスで親しくなった方々に、再会を誓い、別れを告げ、ホテルを出て、空港に向かった。
空港ラウンジでこのコラムを書き始め、飛行機の中でようやく書き終えようとしていた。飛行機は、常夏のマニラから初冬の東京へと北上している。
あっという間であったが、今後ともアジアを中心として人的ネットワークの構築のために時間を使おうと思った。東京に到着次第、日本YEO仲間のクリスマスパーティの二次会に出席することになっている。いい仲間を持つと、人生が本当に豊かになり、とても嬉しい。
ヘッドホンからは、ベートーベンの第九「喜びの歌」が聴こえてきている。今年もあと少しである。今回で今年の海外出張は終了だ。体調管理しながら、良い年を迎 えることとしたい。
2005年12月3日
マニラから東京に戻る飛行機の中で
堀義人