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ハーバードから学ぶトップビジネス・スクールの経営

投稿日:2005/10/28更新日:2019/08/26

「ハーバード・ビジネス・スクールの卒業生理事会メンバーになりませんか?」

昨年末に、新生銀行の現社長を務めるティエリー・ポルテ氏と東京倶楽部で昼食をしたときに、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の卒業生理事会(アルムナイ・ボード)にジョインをしないかと誘われた。

このHBSのアルムナイボードは、日本からは過去に、キッコーマンの茂木賢三郎氏、そしてティエリー・ポルテ氏が努めるような名誉ある会である。興味をもって詳細を詳しく聞いてみた。

任期は、3年間。年に3回ボストンに行くことが要求される。年に一回のグローバル・リーダーシップ・コンファレンス(グロービス・マネジメント・スクール(GMS)でいう「あすか会議」のような会合)にも参加が推奨されていた。

全ての費用は、個人負担である。従い、時間と費用のコミットメントは、多大になる。

僕は、「興味があります。グロービスのボード(取締役会)と相談させてください」と返答してランチを終えた。その日のうちに、グロービスの取締役会(BM)と社内の経営執行委員会(エグゼクティブ・コミッティー=EC)のメンバーにメールを送った。

グロービスの取締役会(BM)は、外部取締役二名と外部監査役一名で構成されており、僕以外は全て外部である。月に一回集まるが、迅速な判断を仰ぐ必要がある重要案件やトップが多くの時間を使うようなコミットメントをする際には、このようにメールを活用している。

ちなみに、社内の経営執行委員会(EC)は、毎週月曜日に開催されており、ここではグループにかかわる重要案件の意思決定が行われている。

僕が、HBSのアルムナイボードに興味をもった理由は、このアルムナイボードにジョインすることが名誉だからではない。むしろ多くの学びがあるからだと思っていたからだ。 
グロービスは、アジアNo.1のビジネススクールを目指している。その過程で大学院化することも視野に入っている。そしてGMSもアルムナイボードを運営している。

僕は、HBSのアルムナイボードにジョインして、そこがどのように機能しているかを学びたいと思っていた。HBSの今の課題は何で、戦略は何か?どうやって組織が構成されているのか?卒業生のネットワークをどう活用しているのか?こういう話を、HBSの学長や卒業生の代表から学び意見交換してみたかったのだ。

取締役会と経営執行委員会には、「このアルムナイボードへの参加をグロービスの業務として捉えてもらい、旅費を会社負担とさせて欲しい」、ということも伝えた。

取締役会の判断は、「賛成。多いに学んでこい」ということだったので、早速HBSよりアプリケーションを取り寄せ、簡単なエッセイを書き、提出した。その後、電話による面接などを経て、今年6月のアルムナイボードで正式承認を得て、晴れてメンバーとなったのである。

最初のボードの日程が、本年10月20日-22日であった。ちょうど、ボストンでキャリア・フォーラムが10月21日-23日に開催されるのでちょうど良かった。昨年よりグロービスは、このフォーラムに参加しているのである(参照コラム:3週間の世界一周出張(その7-ボストン編))。

第五子が生まれたばかりで、東京を離れたくなかったが、こればかりは仕事だから仕方が無い。10月20日に東京を発ち、シカゴ経由でボストンに入った。昨年の今頃のボストンは、レッドソックスの大躍進で盛り上がっていたが、今年は早々に敗退したので、静かであった。

チャールズ川沿いの木々からは、秋の気配を感じ取れた。ボストンでは、この週末に「ヘッズ・オブ・ザ・チャールズ」というレガッタ(ボートレース)の大会がある。僕の乗るタクシーは、数多くのレガッタを追い抜いていった。

HBSの近くにあるホテルに着いた。チェックイン後、シャワーを浴びて、メールチェックをしているうちに、レセプションの時間となった。僕はこういう場合には、なるべく多くの人と挨拶するために、レセプション会場には、「一番乗り」で入ることにしている。そうすることにより入ってきた人、一人一人に挨拶をできるからだ。

予定通り一番に会場入りした。思い思いの格好で参加者が集ってきた。アジアからは、僕以外に、上海、パキスタンから代表者が来ていた。欧州は、英国、フランス、アイルランド、ギリシャから。南米は、ブラジルとチリ。そして豪州から一名メンバーに入っていた。アフリカからも、一名選ばれており、その方は今NY在住である。

アルムナイボードのメンバーは、合計で36名。毎年12名選ばれる。今年から「メンタープログラム」が始まり、新人には一人メンターが付き、適宜相談にのってもらえる仕組みになっていた。

僕のメンターは、HBSのPhDプログラムで博士課程を修了して、現在アトランタにあるエモリー大学のビジネススクールの副学長を務めている方だ。

この人は、面白い経歴で、最初のキャリアは、何とミュージシャンで7、8年プロのギタリストとして生計を立てていて、その後、MITで学び、HBSでPhDを取得してアカデミックなキャリアを歩んでいる。とても人間的にも豊かな人である。

カクテルパーティのあとに簡単なビュッフェ形式の会食があった。初日ということもあり、この夜は早めにお開きとなった。

翌朝、川沿いを歩き、HBSのキャンパスに向かった。天気は快晴、気持ちがいい。暫く歩いていると、鴨の群れに遭遇した。デジカメを持っていれば、ブログに貼り付けられるのに、と思いながら鴨の中を横切った。20羽ほど川に浮かんでいたり歩道で立っていたりして、のんびりとボストンの秋を楽しんでいるようだった。

キャンパスの会場にも早めに入った。HBSは、僕が卒業した後に、ものすごい勢いで、キャンパスの建設を始めた。皆、ビクトリア調の建築様式なので、全体としての一体感は、保たれていた。

ボードの会場は、扇状の階段教室である。会議風の雰囲気ではなくて、学生としてクラスに戻った気持ちになる。

最初のセッションは、「学長との対話」である。といっても、前学長であるキム・クラーク氏が9年ほど歴任された後、退任されたので、暫定学長が代わりに登場された。

暫定学長は、デスクの上にちょこんと座って、語り始めた。未だに米国の教授が教えるときのお行儀の悪さには、僕は慣れ親しんでいない。日本人としては、机の上に座るというのは、考えられないことだからだ。

暫定学長は、仲間に語りかけるかのように、今の課題、自分の時間配分、学長選任のプロセス、HBSの優先順位など多岐にわたって喋ってくれた。ただ、どちらかというと暫定的な立場ということもあり、ビジョンを語るよりも、実務的に今までの路線を踏襲する、という内容であった。

次のセッションは、オリエンテーションである。今年初めての試みで、僕ら「新人」にHBSのアルムナイボードは何をするのかを教えてくれるセッションである。そこで初めて、アルムナイボードの理念、定款、歴史などを知る。

僕は、こういう場では、必ず発言して、存在感を示すことにしている。どうしても聞きたい点があったので、すかさず手を上げて聞いてみることにした。

「HBSのアルムナイボードの位置づけを知りたい。ガバナンスを発揮させる場なのか、何らかの大学の方向性につき意思決定する場なのか、それとも卒業生と大学とのパイプ役という位置づけなのかを教えて欲しい」。

グロービスでもアルムナイボードがあるので、ぜひ知りたいところだった。

答えは、「意思決定には関与しない、ガバナンスでもない。あくまでも①卒業生の代表として卒業生の考えを伝えること、②卒業生に大学の状況を伝え、③卒業生代表として、大学の方向性に影響を与えること」、であるとの回答を得た。

ボードと称するものの、どうやらガバナンス機能は無いようである。「ガバナンス機能はどうなっているのか?」と続けて質問すると、「ハーバード大学の総長のローレンス・サマーズ氏がその機能を果たしている」という回答であった。

確かに、先のセッションでも「HBSの学長選任は、ローレンス・サマーズ氏のアポイントによって決まる。これは、ハーバード大学の創設以来の伝統的手法であって、現時点でこれを変える必要は感じていない」、という説明があった。

ランチの後は、ジェームス・L・ヘスケット教授によるケースディスカッションであった。ヘスケット教授といえば、サービスマネジメントの大家で、僕らグロービスでも彼の著書「カスタマー・ロイヤルティの経営」を全員が読んで、グロービスのサービス力向上に役立てさせてもらっていた。

このセッションでは、ヘスケット教授が書いたコラムを事前に読んできて、それをケースとして意見交換する手法をとっていた。面白かったのが、「MBAは、不要となるのか?」というケースであった。

エール大学ビジネススクールの学長が書いたハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)への投稿記事を引用しながら「MBAが余りにもアカデミックに偏りすぎて、本来の経営者育成というプロフェッショナル・スクールとしての本分を失っているのではないか」という問題提議をしているのだ。

大学の教授の業務は、「リサーチ」というアカデミックな研究活動や論文の執筆業務と、「ティーチング」という経営者育成業務に分かれる。

他の大学では、ケースを書いても評価はされないし、ティーチングの質は余り議論されない。あくまでも論文至上主義で、論文を執筆しないと評価されないのである。

一方、HBSでは、ケースの執筆やティーチングの質が評価され、「いかに多くの有能な学生を輩出するか」が高く評価される、というのだ。

HBSは、米国で唯一「ティーチング」に重きを置いた学校であるとのことである。従い、HBSと他の大学では、教員の評価される項目が違うので、HBSの教員の次のキャリアパスが難しいのだという。なぜならばティーチングが良くて、いいケースを書けても、論文が書かれていないと他校では評価されないからだ。

(確かにその後スタンフォード・ビジネス・スクールに行ったときに、壁にノーベル賞学者を評価して写真が飾られていたのを思い出した)。

それでも、ヘスケット教授がハッキリといっていたのは、「HBSはこれからもティーチングに重きを置く。ティーチングというのを他の大学は軽く見るが、これを高めるには多くの年月が必要とされるのである。ティーチングの現場こそがプロフェッショナル・スクールとしては、一番重要なのである」、と。

僕らのグロービスの考え方を追認したHBSでの体験であった。GMSもティーチングに重きを置き続け、如何に多くの「創造と変革の志士」を生み出したかを自らの評価の軸にしようと再度決意した。

当日最後のセッションは、各コミッティ(委員会)に分かれての議論であった。僕は、「100周年記念行事」の担当委員となった。2008年にHBSは、100周年を迎える。僕は、任期中にこの行事に関われるのである。企画段階から是非加わらせてもらうことにした。

翌日は、HBSのエクスターナル・リレーションズ(ER)というセクションの担当教授からのプレゼンがあった。何と、この4-5年間でHBSは、650億円もの寄付金を集めたのである。目標の500億円をはるかに凌ぐ額である。

この「実弾」の使い方も説明があった。これでは、他の大学はかなうわけがない。この資金力があるから、HBSは、基金の運用を含めて黒字経営ができるのである。ただ、「凄い」の一言である。

(その翌週にスタンフォード・ビジネス・スクールの学長との面談時に聴取したことだが、スタンフォードでさえ学長の50%以上の時間は、資金集めに使われるのである。収入の半分のみが学費収入で、残りの半分が寄付金である。寄付金の半分が基金の運用で、半分が寄付金そのものを充当するのだという)。

しかも、このERに携わっているスタッフがHBSには85名もいるのだという。ERは、寄付金集めから、アルムナイリレーション、各地域のHBSの卒業生クラブの運営などに携わっている組織である。

その次のセクションが、HBSにおけるIT活用の事例である。これも圧巻である。先ずは、ベイカー・ライブラリーという図書館の電子バージョンであるE-Libraryの担当者によるプレゼンである。

彼女は、マイクロソフト出身でライブラリアンの修士も取っている。HBSのライブラリの電子バージョンに携わっている人が彼女以外に数名いるという。

そして、その次のセッションが、ティーチングの現場におけるIT活用の事例紹介である。具体的には、e-Learningの活用と、ケースのマルチメディア化に関する紹介である。

HBSの「ティーチング」へのフォーカスというのは、ここでも遺憾なく発揮された。普通の教授はこういうコンテンツ作成を嫌がるのだが、HBSではこういうコンテンツの開発が評価されるのである。

最新のディスカバリー号のケース設定は、実に興味深い。最初は、ディスカバリー号とケネディ宇宙センターの交信というオーディオから入る。皆、耳を澄まして、その交信のやり取りを聞く。その数分後にディスカバリー号は大気圏に突入して、爆破して乗組員が全員死亡するので、この交信もなぜだか痛々しく聞こえてくる。

このケースでは、爆破の原因を、NASAの内部組織の違う立場の人々の立場になりきって、究明することが求められていた。各学生は、役割を決められており、知っている情報も限られているのだ。

ケースの中では、実際にNASAの担当者が持っている問題意識がインタビューという形でビデオに納められていた。学生は自らの役割の人々が知っていた情報だけを元に自分なりの原因分析をしてクラスに参加する。

そしてクラスでは、それぞれの立場でロールプレイをするという設定である。このケースを通してグループダイナミックを学ぶことを目的としていた。

HBSでは、こういう音声・ビデオを融合したケースを既に80以上もつくっているらしい。

一方、e-Learningは、入学する前に、会計、財務、意思決定科学など4つのモジュールを最低限やってくることが要求されるらしい。各モジュール7-8時間かかるらしい。このe-Learningは、グロービスの方が進んでいるような印象を受けた。

僕は、このセッションの後に、タクシーに乗ってボストン・キャリア・フォーラムの会場に向かった。グロービスは、今年も採用のためにブースを出しており、スピーチ枠も確保していたのだ。

グロービスの人材紹介会社である、グロービス・マネジメント・バンク(GMB)から岡島氏、斎藤氏の二名と、人事から良田氏の3名体制で臨んでいた。

僕は、到着後、準備もそこそこに、留学生向けにスピーチを開始した。「一緒にアジアNo.1のビジネススクールを作ろう」と訴えかけた。自ずと言葉に力が入った。ベンチャーキャピタル業務に関心が高い学生も数多くいた。

そのスピーチの後に、タクシーをつかまえて、再度HBSに戻ることにした。最後のランチミーティングだったので、是非とも参加したかったのだ。

僕が不在中に行われた各コミッティの議論のアップデートが行われ、今後の予定が発表となった。次のアルムナイボードは来年1月だ。皆に、別れを告げて、タクシーに乗り、再度グロービスのスタッフが待つキャリアフォーラムに向かった。

その後、土日を挟んで、10名近くの優秀な方々とキャリア・フォーラムの場で面接をした。

土曜日の夜は、エール大学で学ぶ中国人の友達がわざわざニューへイブンから車を飛ばして会いに来てくれた。東京で徹底討論した友達が今エール大学に留学しているのである。どんどん友情が深まっていくのが実感できた。やはり、率直な意見交換は、相互理解には不可欠だと確信した。
参照コラム: 「中国人の友達との徹底討論(その1)靖国問題・東京裁判」

そして日曜日の午後のフライトで、次の目的地サンフランシスコに向かった。

出発の日のボストンは、雨が降り続き寒かったが、6時間のフライトの後には、カリフォルニアの青い空が僕を出迎えてくれていた。

2005年10月24日
サンフランシスコのホテルにて
堀義人

 

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