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アジア円卓会議その1--アジアの中の日中韓関係

投稿日:2005/05/12更新日:2019/08/21

ダボス会議を主宰するWorld Economic Forum(WEF)が毎年アジアで実施している、「アジア円卓会議」が今年も開催された。一昨年のシンガポール、昨年のソウルに続いて、僕は3年連続でこの会議に参加している。

「あすか会議」の翌日に東京を発ち、シンガポール入りした。シンガポールでは、事前に投資家訪問を済ませてから、会議に参加することにした。ホテルは相変わらず警備が厳しい。 円卓会議の直前に、 ヨルダン国王が主催するプライベートなミーティング に招待された。国王とは、今年初めに日本でお会いして以来である。 実に7回もお会いしたことになる。 入場して上座に座り参加者を確認しているときに、 国王は僕の事を覚えていて下さった様子で、 僕の顔を見つけ、多少表情を緩めたのが印象的であった。 ミーティング終了後、「どうしていましたか。 再度会えて嬉しい」、と声をかけて握手をして下さりとても嬉しかった。

程なくして会議が始まった。WEFが主催する会議では、最初の「プレナリー」と呼ばれる全員が参加するセッションで大枠の会議のトーンが決まる。今回の最初のセッションは、「アジアの経済成長の戦略的意味合い」と題されるものである。6名のパネラーが壇上に並んでいる。シンガポール、中国、UAE、オーストラリア、ドイツそして日本の6カ国の方々である。なぜだか米国人がいない。日本からは逢沢一郎外務副大臣が参加されていた。モデレーターは、英国BBC放送のキャスターであるニック・コーイング氏である。

先ずは、シンガポールの首相府の大臣が口火を切った。そして、ほかのパネラーが順繰りに喋り始めた。大方のトピックスは、次のようなものであった。

・中国とインドの台頭は目覚しい。双方共に人口は、世界全体の40%を占めるのでインパクトは大きい。
・アジアの経済成長のスピードが速い。アジア地域の成長は7.3%で他地域の成長率4%に比べて3.3%も高い。
・アジア域内の貿易依存度が高くなっている。日中の貿易量が昨年日米を上回った。
・アジアの存在感が高まっている。荷物の取扱高をとっても、2000年は米国:欧州:アジアが、50:35:15だったのが、2005年では40:30:30になった。
・日本の大きさを忘れてはいけない。現状は、日本という巨人に、中国が迫っている状況で、7、8年後には追いつくのであろう。
・ゴールドマンサックスの試算では2040年までには、中国は米国をも追い抜くであろう。

というように基本的には、よく言われている内容である。「中国の存在在感が高まりつつあり、その結果食料、エネルギー、地下資源などをどうやって賄うのか」、という論調から、「この中国の台頭に日本・米国はどのように対応するのであろうか」という論調まであり、特に真新しいものは無かった。

今回、会場が最も注目したのが、日中関係である。中国における反日デモの激しい映像が脳裏に刻まれ、その余韻を残しての開催であるから無理も無い。会場からの質問もその点が多くなる。「日本はドイツに比べて十分な戦後処理をしていないのではないか」。という良く出される質問がインド系シンガポール人から投げかけられた。逢沢副大臣は、落ち着いた口調で、「日本は過去を反省している。ただ、日中の友好の歴史は2000年にも及ぶ。その中である時期に不幸な出来事があったのは残念である。一方、理解して欲しいのは、戦後60年間の日本がしてきたアジア地域への貢献を忘れないで欲しい。これからはさらに良好な日中関係が保たれることを望む」という趣旨のことを日本語で訴えかけていた。

その後で、シンガポールの大臣が、「日本の過去60年間のアジア地域の貢献というもを忘れるべきではない。日中関係は、アジア及び世界にとっても重要である。過去の歴史問題に焦点をあてることによって日本の貢献を過小評価する必要は無い」と言明していたのが印象的であった。

僕も「中国と韓国の友達へ」というコラムで、「あなた方が納得するまで、僕らはあとどれだけ謝罪し続ける必要があるのでしょうか?」と書いた。 しかし、多くの方からのコメントにもあるとおり、公の場で、これは僕らが言うべきではないのであろう。またドイツを引き合いに出すべきでなかったかもしれない。基本的には、 1:戦争に関して謝罪し、2:日中関係の歴史の長さを話し、 3:その上で、僕らのアジア地域への貢献を説明し、 4:将来指向の関係を構築することを訴えかけるのが一番良いのであろう。ただ、プライベートな場での意見交換では、それだけでは物足りない気がしている。やはり、本音で語る方が良いと思う。後に述べるがランチタイムに韓国の友人と本音で語り合ってきた。

壇上のディスカッションに話を戻そう。もう一つ話題になったのが、国際機関によるガバナンスをどうするかである。今後、世界の重心がアジアに向かうにつれて、保護貿易的な風潮が出てくるであろう。更には、日中間や日米間の二国間の対立も増えてくるであろう。その時に、国際的な枠組みによるガバナンスを働かせる必要がある、と述べられた。

このようなトーン・セッティングで、「アジア円卓会議」が始まった。この会議の参加者は、約300名程度である。なるべく多くの参加者が十分にディスカッションできるように配慮されていた。テーマ設定及び運営方法などは、来年以降の「あすか会議」でも参考にさせてもらおうと思っている。これらの会議で、特に参考になるのが、名簿である。「あすか会議」では、個人情報保護の気運もあって、名簿を作成しなかったのだが、この円卓会議では、各国の要人が集いながらも、写真入りで生年月日、会社概要、個人の略歴、電話番号なども記載されていた。ただ、この名簿はとても役に立つ。受付けを済ませてから先ず目を通すのが、プログラムと参加者名簿である。

ランチタイムになった。このランチタイムには、どこに座るかも重要である。僕は、昨年のダボス会議で親しくなった、韓国のエネルギー関係のデッサング(Daesung)グループの会長兼CEOであるキム氏の隣に座った。彼とは、WEFの会合を通して知り合い、既に過去3回会っている。僕よりも10歳年上だが、親しくさせてもらっていた。最初のうちは当り障りがない話しをしてみたが、どうしても竹島問題に関する韓国の事情を聞いてみたかったし、何よりも彼の見解を聞いてみたかった。

先ず、「今回の日中関係の状況はどう思うか?」と切り出した。彼は暫く考えてから、「難しい問題だね。逆にどう考えるのか?」と返された。親しさからか、僕は本音を言ってみた。「公式には、逢沢副大臣が言ったとおりである。つまり、日本は過去の戦争で近隣諸国に対して申し訳ないことをしたと思っている。従い、何度も謝罪をしてきた。ただ、僕らは、生まれたときから諸外国に罪悪感を持たなければならない環境にいることに、居心地の悪さを感じてきた。戦争は、僕らも知らないし、当然個人としては責任を感じることができない。中国のデモに参加したのも戦争を知らない若者である。確かに、日本は悪いことはしたけど、なぜ若者がもっと未来指向になれないのかが不思議である」と。

彼は、「気持ちは良く分かる」と共感してくれた。そして、暫く日中関係について話をした後、今度は日韓関係に関して言及してみた。「ワールドカップ共催から始まった日韓の友好関係は、今年になって領土問題をきっかけに冷え込んでしまった。しかも韓国は、日本の安保理常任理事国就任に反対する立場を明確にした。韓国の反対の姿勢には、日本人として傷ついている人が多いのが事実である。近隣諸国として今の状況は好ましいとは思えない。日韓関係を良好にするためには、日本は何をすべきだと思いますか?」と問い掛けてみた。

キム氏は、「感情的な問題が絡むので難しい。今回は、ランチの場でもあるし、会場もざわついているので、なかなか落ち着いて話しをすることができない。違う場でゆっくりと話しをしたいね。でも、こういう議論を持ち出してくれて嬉しい。やはり、本音の付き合いをしなけらば両国の関係は良くならないと思う」と。このような話しができてお互いに何となくサバサバしていた。ランチ前のぎこちなさは無くなり前の友情関係にもどったような気がした。やはり、思っていることを率直に言い合うことが一番重要なのではないかと思えてきた。

ランチが終わり午後からは、僕がパネラーとして参加するセッションが始まる。
ホテルの部屋に一旦戻って内容に目を通しながら、気持ちを落ち着かせることにした。

2005年4月29日
シンガポールのホテルで
堀義人

 

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