欧州視察団Ⅲ〜AMBAのコンファレンス 

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やっとコラム3本目にして、仕事関係の報告をすることになる。これは観光や遊びが楽しすぎるからでもなく、仕事を疎かにしているわけでもない。ただ単にロシアという国の特異さに目が行ってしまうからである。言い訳っぽくなるが、そのことだけは冒頭にお断りすることにする。(^^)

今回モスクワに来た目的は、コラムⅠで説明したとおり、コンファレンスに参加するためである。ただ、コンファレンスは、どこで開催されてももコンファレンスである。つまり、ホテルの会場に閉じこもりきりとなり、会議は英語でディスカッションされ、欧州、アフリカ、アジア、南米、米国などバライエティに富んだ参加者と交流をする。ディナーの会場で外に出るときのみ、その開 催国の雰囲気を味わえるのだが、それ以外の場所では、開催国のロシアを感じることは無い。

一方、コンファレンス会場のホテルから外に一歩出ると、そこはロシアである。ギリシャ文字に似ているロシア語表記の看板、サービス精神が無い無愛想な対応の人々、観光客をぼったくろうというタクシーの運転手、なかなか笑顔を見せない人々。他方ではロシアの至宝という、美しい美術品や建築、世界遺産の修道院、タマネギがのっかったロシア正教。あまりにも今まで訪れた地域とは違うので、どうしても外への関心が高くなる。

でも、今回は視察団である。当然、コンファレンスにはしっかりと参加して、ネットワークを作り、知名度を上げ、しっかりと学んで来なければならない。詳細は割愛するが、僕が感じたことを、ざっくばらんに書いてみようと思う。 

先ずは、AMBAコンファレンスの主催者とその開催趣旨を説明しよう。AMBAとは、Association of MBAの略で、世界のトップ3に入るMBAの認証機関である。世界には、主に3つのMBA認証機関があり、ちょうど金融の世界でスタンダード&プアーズやムーディーズが、社債の格付け機関として活用されているように、これらの3つの機関は、民間の立場でMBAの品質を保証しているのである。AMBAは、その3つの中でも欧州系のビジネススクールに強みを持っている。各国のビジネススクールは、国内で学位発行する認可をもらいながら(例えば日本では文科省から認可をもらいながら)、海外での品質の認証を受けるのである。ただ、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)など、米国のトップスクールは、認証には興味を示していない。ブランドさえ確立してしまえば、基本的には必要ないものなのだ。

そのAMBAが毎年開催している、学長・ディレクター向けコンファレンスが、今回はモスクワで行われている。昨年はアムステルダム、そして来年はポルトガルで行われる予定だ。参加者が飽きないように、開催地を変更しているのである。

このコンファレンスでは、世界を代表するビジネススクールのリーダーがスピーカーとなり、ベストプラクティスを発表してもらい、僕ら参加者は意見交換をしながら進められていくものである。参加者は欧州を中心に、南米、 中近東、アフリカ、アジアから集まっており、日本からの参加は、グロービスのみであった。

そのコンファレンスでは、以下のようなトピックスに関して討議された。

・ビジネスリーダーを育成するには、どういうカリキュラムが最適か。
・どうやったら、学びを現実の社会に生かせるようにできるのか。
・学びの手法に関しては、どの方法が一番良いのか(ケースメソッド、プロジェクト手法、アクションラーニング、グループスタディなど)。
・アルムナイ・ネットワークの活用方法とはどうあるべきか。
・エグゼクティブ・プログラムや研修のあり方はどうか。

などである。スピーカー発表の半分は学者のプレゼン風で全く面白みに欠けるものである。どうしても僕が参加している他のコンファレンスのスピーカーと比較してしまう。

フォーブスやビジネスウィーク、企業家(EO)のコンファレンス、さらにはベンチャー・キャピタル、テクノロジー系のコンファレンス、あるいはダボス会議などと比べても、スピーカーの本気度という迫力や洞察力あるユニークな発想の有無、あるいは訴えかけるインスピレーション的なものの有無が、明らかに違っているのである。中には抜群に面白い人が2,3名いたが(当然その方とは親しくなったが)、後は質問する参加者を含めて、迫力が欠けるものであった。アカデミックな方々は、なぜこうも冗長になってしまうのかとついつい考え込んでしまう。おそらく実社会と乖離していくと、どんどんそういう現場感というものが失われていくのであろう。

リーダーを育成するというセッションで面白い質問が一つあった。「リーダーを育成しようにも、ビジネススクールの中にロールモデルとしてのリーダーがいないのに、どうやって育成できるのか?」であった。

知識は教えることができる。知恵に関しては、ケースメソッドのディスカッションを通して学ぶ機会を提供できる。ただ、リーダーシップや人間力は、教えるのは簡単ではない。それらを修得してもらうためには、リーダーシップを持った人、さらには人間力が高い人に触れる機会を与えなければならない。グロービスとしては、 僕らが常に自らがよきリーダーとなり、よき人間として研鑽し続ることが、結果的には良きリーダー・良き人間を育成することとなるのであろう。

グロービスの掲げる、「創造と変革」に関して言うと、僕らグロービス自身がゼロからの創造であり、日々変革をしながら、アジアNo,1を目指しているのである。つまり、僕らが率先して実践しているのである。だからこそ、気概が校風となり、多くの志の高い学生をひきつける魅力になっているのだと思う。 グロービス自らが、その強い願望と気概を持ち続けられたならば、グロービスのMBAからは将来にわたって数多くの「創造と変革の志士」が輩出されていくこととなろう。そして日本、いやアジア全体に、新たな創造と変革の息吹を吹き込む事となろう。

毎回こういう会合に参加して思うのだが、グロービスのカリキュラムは世界的に見ても、かなりいい線行っていると思っている。だが一方では、グロービスとしてやるべきことはまだまだ多い。

他のビジネススクールと比較して、英語のカリキュラムが弱く、フルタイムのMBAカリキュラムが無い、海外における知名度が低いなどである。今年は、グロービスの15周年記念の年だ。建学から、30年計画で実行しているので、今年、やっと折り返し地点に着いたようなものである。これから残り15年間で、グローバルに通用するアジアNo.1のビジネススクールに向けて、舵を切ることになる。そのための視察団である。

コンファレンスは、水曜夕方のレセプションで始まり、金曜日のディナーで閉幕となる。木曜の夜は、モスクワ川のボートクルーズがあり、金曜の夜には、救世主キリスト聖堂の中で行われるフェアウェルディナーである。日中はひたすらホテルで学び、夜は交流である。

視察団の他のメンバーにとっては、初めての海外出張である。僕は団長として範をたれねらばならない。僕は積極的に発言し、多くの方々と知り合いになり、さまざまなことを吸収するように努めた。このコンファレンスを通して、数多くのビジネススクールのリーダーと出会い、友達になれた。15年後の2022年には、この並いるビジネススクールの中でも、グロービスがトップクラスの評価を得るようになっていいるべく、 努力をしたいと思う。

視察団は、金曜の夜にコンファレンスを終え、翌土曜の朝4時30分にホテルのロビーに集合し、サンクト・ペテルブルグで週末を過ごすべく、モスクワを後にすることにした。
車の窓から見えるモスクワの街並みは、短い夜を経て、長い一日の始まりを迎えていた。

2007年6月1日
成田に向かう飛行機で執筆
堀義人

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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