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欧州視察団Ⅰ〜モスクワへの道

投稿日:2007/06/04更新日:2019/08/21

ガタガタという音を鳴らしながら、機内のトイレを開ける。そして、ガタガタという音をまた立てながら、ドアを閉める。本来ならば、鍵をかけた瞬間に電気がつくものだが、明るくなる気配が無い。薄暗い中で、トイレの便器を覗きこむと、僕が最初のお客のはずなのに、なぜだか茶色いものがこびりついていた。

機内の通路側座席で落ち着いている時も、横の通路を大きなフライト・アテンダントが通るたびに、ぶよぶよした肉が僕の肘にあたるのである。食事を運ぶときの彼女達の顔には、笑顔はなく、「配膳」というよりも「配給」といった印象を受けた。

ここは、モスクワ行きのアエロフロート・ロシア航空の機内である。こうしてモスクワから始まる9泊11日の「欧州視察団」の旅が始まったのだ。

簡単に「欧州視察団」組成の背景を説明しよう。グロービスは、ご存知のとおり、アジアNO.1のビジネススクールとアジアNo.1のベンチャー・キャピタル (VC)を創る事を目指している。そのためには、世界のスタンダードを知るこ とが重要になってくる。僕一人が海外に行ってグローバルな視野を身に着けても組織全体には、その視野や意識は広まらない。少なくともリーダークラス全員が世界レベルに触れる機会を持つ必要があるのだ。そうでないと、どうしても国内のみに目が行ってしまい、日本No.1になれたとしても、アジアNo.1には到達できないのである。

グロービスのVC部門である、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)では、数年前より海外のパートナーがいたし、80%以上の投資家が海外なので、自然とグローバルな意識が身についている。しかし最近は、Apaxとの提携も解消しつつあるので、僕はベンチャー・キャピタリスト全員に、最低でも年一回は、海外に出張することを奨励している。そういうルールをつくると、皆アンテナを張りめぐらして、「あのカンファレンスに行きたい」、「あそこから学びたい」、と提案してくれることになる。そうやってグローバルなマイン ドを維持し続けているのである。やはり海外に行かないと、そういった意識は芽生えない。

一方の学校部門でも、着々とグローバル化の布石は打っている。昨年の10月から英語でMBA科目を教える、グロービス・インターナショナル・スクール (GIS)が始まった。今般、日本語を話せないアメリカ人も初めて採用した。会議は必然的に英語になる。こうやって、アジアNO.1に向けて、舵を切り始めていた。

当然、アジアNo.1を目指すからには、世界を知らなければならない。ところが、VC部門と比べても、まだまだグローバルな意識が足りなかった。そこで、マネジャー以上は全員が海外に行くように半強制的にスケジュールを組んでみることにした。ちょうど、ビジネススクールのカンファレンスが、5月から6月にかけて3箇所で、各地で開催されることになったので、以下3チームに分けて、海外のビジネススクール事情を視察することとした。

第一陣:5月中旬の北京における会議への参加。グロービスより2名が参加。 会議後、北京にある大学院を視察してきた。

第二陣:今回の僕らの視察団。グロービスから4名が参加。モスクワでのカンフ ァレンス後に、スイスのローザンヌ、フランスのフォンテンブローへの視察団である。

第三陣:6月末にベルギーにおける会議への参加。グロービスから4名が参加。スペイン、ロンドンのビジネススクールを視察する予定である。

僕らは、岩倉具視を代表とする明治初期の欧米視察団を意識して、海外から学んで来ようと思い、通称「視察団」と呼ぶことにした。昨年参加した人も加えると総勢14名が海外に渡航することになる。その体験をもとに、確実に一歩一歩進んで行ければと思っている。

そして今回のコラムは、僕が参加した第二次視察団に関する報告を中心に行うことにする。旅程は、以下の感じである。

5月23日-26日 : モスクワでAMBA(MBA協会)の学長会議に参加。
5月26-27日: サンクトペテルブルグの週末を過ごす。
5月28日 : ローザンヌ
5月29日 : ジュネーブ
5月30日 : パリ

という具合である。

モスクワに4泊したあとは、全て各都市一泊づつ。合計で9泊11日の旅程である。先ずはモスクワのAMBA(MBA協会)の学長会議である。この会議には、世界各国のビジネススクールの学長が参加する。従いこの会議に参加することにより、(1)海外のビジネススクールとのネットワークが作られ、(2)他校のベスト・プラクティスが学べ、しかも、(3)グロービスの知名度を上げるチャンスがある、のである。

この会議に、グロービスは一昨年から参加している。僕は二年前のロンドンで開かれた会議に、 参加した。昨年のアムステルダムで開催された時には、グロービス から3名派遣した。

今回のモスクワには、4名で参加である。僕以外の3名は、一足先にJALで現地入りしていたが、僕だけが国内業務の関係で一日遅れたので、アエロフロートに乗っての出発となったのである。前述のとおり、機内の食事やサービ スもかなりレベルが低い。これからの出張が思いやられた。

幸い、機内の座席の間隔だけは、ゆったりとしたスペースが取られていることもあり、ぐっすりと眠れることができた。ロシア人のサイズに合わせているのであろう。

現地時間の22日夕方5時にモスクワ空港に着いた。モスクワは、意外に暖かい。いや、むしろ暑いぐらいであった。空港に運転手が迎えに来てくれていた。だが困ったことにこの運転手は、全くサービス精神が無いのである。挨拶もキチンとしないし、身なりも清潔感がない。僕が持っているスーツケースを運ぼうとする気配も無い。彼は振り向きもせずに前を歩き、僕がその後ろからスーツケースを引っ張りながらついていっている、という構図である。 僕はお客の筈なのに、である。

駐車場までやっとたどり着いたが、そこに待っていたのは、泥で汚れたまま洗車もされていない、中古のボロボロの乗用車である。ちゃんとホテルに向かってくれるかが若干心配になったが、こういう時は堂々としているのが一番である。何も無かったかのように僕は乗車した。

ドロドロの車は、緑の中を通り、モスクワの市街地に差し掛かってきた。相変わらず運転手とは、一言も話をしていない。交通渋滞がひどくなってきた。渋滞でイライラする気持ちを抑えるために、i-podでクラシック音楽を聴きながら、窓の外に目をやった。街並みの中から、たまねぎが乗っかっているような屋根をした、ロシア正教の教会がチラホラと散見された。

2時間程度かかって、やっと川沿いに位置する40階建てのモダンなホテルに着いた。ロビーではファッションショーが開催されていてやたらと騒々しい。

やっとのことでチェックインを済ませ、部屋に入った。夕食の約束の夜8時はもうすでに過ぎていた。慌しくシャワーを浴びて、先に到着していた視察団の待つレストランに向かった。結局、視察団と合流できたのは、夜の8時半ぐらいであった。翌日から始まる会議に向けて、食事をしながら軽く打ち合わせをした。初日なので食事を早く済ませて部屋に戻り、溜まったメールチェックをして、早めにベッドに潜りこむことにした。

窓の外は、夜の11時だというのに明るい。カーテンを閉めないと眠れない。ふと窓から空を見上げると、そこには、白いまま薄暗くなっている天空が あった。いわゆる「白夜」の状態に近いのだろう。しばらく眺めた後で、ベッドに滑り込んだ。

こうして、全行程9泊11日の欧州視察団の一日目を終えようとしていた。

2007年5月30日
成田に向かう飛行機の中で執筆
堀義人

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