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「学びの場」と人間の成長

投稿日:2003/09/04更新日:2019/09/04

僕は、30才で独立したときに一つ気が付いたことがあった。それは、上司がいなくなり、教えを請う対象がいなくなったということである。

それまでは、家庭、学校、会社などの学びの場が与えられていた。家庭からは色々と学んだが、独立後、当然の事ながらビジネスに関しては教えてもらえない。大学では教授がいたが、卒業後は工学系ということもあって、ビジネスとは接点が無い。住友商事には良き上司がいたが、退職後は関係が薄れていった。つまり、学びの場はもう与えられないのだ。独立後は、自らが学びの場をつくらないと、成長できないのだ。

幸い、ベンチャー経営者であること自体が、日々研鑚の連続である。常に、難題を与えられて、自らが知恵を振り絞り意思決定する。間違った判断をしないために、当然数多くの書物に触れた。自らの能力の足りなさを自覚するたびに、書物を読み漁った。ジャンルも多岐にわたっている。経営学、心理学、哲学、歴史、社会学、経済学、人間学、伝記などである。しかし、学びにおいては、実体験や書物以上に重要なのが、人から教えていただくことだ。だが、独立すると、もう教えていただける上司はいない。自らが成長しないと会社の成長は止まる。となると、僕は学びの場を求め、ひたすら師匠を捜し求めることになる。

その結果、「出会った人が全て師匠」という姿勢で多くの方に教えを請うことになる。そうしないと成長する機会を得られないので、謙虚にならざるを得ない。様々な会合に参加した。YEO(若手起業家の会)、ニュービジネス協議会(NBC)、経済同友会、HBSの卒業生の会など、参加した会合は数え切れない。さまざまな方のスピーチも聞きにいった。これぞと思う方のスピーチは、万難を排して拝聴した。スピーチでは、書物では味わえない気概を感じられるし、質問もぶつけることができる。あわよくば名刺交換もさせて頂き、お近づきになれる良い機会である。国内でも限度があるので、海外の方にも教えていただいた。その一環として先のコラムのとおり、アラン・パトリコフ氏とのパートナーシップを築かせてもらった。

色んな人に教えを請うたが、一番ありがたく感じるのは本気で叱っていただける方である。今まで、何人かに叱っていただいた。そういう方の方が誉めていただく方よりもありがたく感じることもある。以前、コラムで紹介した社外取締役の澤田宏之氏もその一人である。澤田氏には、本当に多くを教わったし、今も引き続きご指導いただいている。また、田坂広志氏とは、出会った初対面のときに40分間叱られた。最初は、彼の事務所で叱られて、場所を変えて昼食を一緒にしている間も、食事の前半は叱られどうしである。僕の気の緩みを察知してのことだと思うが、初対面で叱られた事に当初、本当に閉口した。しかし、その後も田坂氏からは良きメンターとして教えて頂いている。先のコラムに書いたアラン・パトリコフ氏とは、叱られる事もあるが、思ったことを激しく言い合える関係である。本当に学ばせてもらっている。

最初のころは、叱られると本当に嫌な気になるが、今にして思うとありがたいと思うものである。なぜならば、叱ることにはエネルギーを必要としており、向上を願わない相手には、わざわざエネルギーや時間を使って叱らないものである。もしも、気にも掛けてもらえなかったら、叱りもせずに、ただ単にそのまま何も言わないであろう。現実問題として、なかなか真剣に叱ってくれる方はいないのだ。しかも、多少成功し始めているように見えてくると、なかなか叱ってくれなくなる。

今、独立後11年経った。今では、VCからビジネススクールまで多岐にわたるグループの代表である。当然、叱られる機会は減ってしまうが、逆に叱る機会が増えてきた。自らの未熟さを自覚しながらも、社員や投資先起業家には、向上を願い叱りつける事がある(グロービスでは、先の「社員旅行が楽しい!?」のとおり、楽しさを追求する。ただ、叱りつけることは、楽しさと共存し得るものであると思っている。なぜならば、両方とも愛情が背景にあるからだ。楽しさと厳しさの両方のバランスが必要だとも思っている)。

僕が、厳しいフィードバックを与えると、中にはふてくされる人もいるが、大抵以下の2つに1つの反応を得る。
1) ハッと気が付いて、言われたことを真剣に考えて、自らの行動や考え方を変える。 
2) なにくそと思い頑張り、違う結果を出して成功する。

両方とも、良い方向に向かっているのだと思う。僕は、2〜3年前、ある起業家に、「そんな事業今すぐやめた方がよい」と言ったことがあった。ところが、彼はその後なにくそと頑張り、今では、株式公開するまでに会社を成長させた。僕があのようなフィードバックを与えたことを、彼は今どう思っているのだろうか。僕は、聞いたことが無いのでわからないが、彼は、僕のことを「嫌なやつ」と思っているかもしれないし、「メチャクチャ外した意見だったじゃないか」と思ってバカにしているかもしれない。僕は、どう思われようが気にしない事にしている。僕の言葉を発奮材料として成功してくれたなら、それでいいわけだ。

グロービスでは、社会認知型MBAと称して、GDBAプログラムが今年から始まっている(GDBAとは、Graduate Diploma in Business Administrationの略で、グロービス版MBAである)。23名の優秀な方々が集まってくれた。その方々に対して、毎月1回「経営道場」と称して、年10回セッションを設けている。「創造と変革の志士」にふさわしい方々を生み出すために、様々な本を読んでの講学をしたり、受講生が発表する題材に関して、意見交換をするのである。真剣な意見交換をするために「道場」と名をつけた。

「経営道場」では、甘い考え方や、気概が感じられない人には厳しい言葉が飛んでくる。特に奢った気持ちを持っているなと感じたら、僕は容赦ない。受講生には、とても厳しく感じられるかもしれない。だが、僕はGDBAの受講生には、社員や投資先起業家同様、真剣勝負で叱るようにしている。なぜならば、現実社会はもっと厳しいのだ。剣士には、現実の戦いでボロボロになって死んでしまうよりも、「道場」で木刀でボコボコ叩かれて、鍛えぬかれた方が良いのは当たり前であろう。将来のリーダー予備軍に、そういう「学びの場」を与えることが、僕のことを育ててくれた社会に対する恩返しだとも思う。
自らの未熟を常に意識しながらそのような場を与えていることは、言うまでも無いことである。

2003年8月
軽井沢における経営道場を終えて

 

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