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10回目の結婚記念日

投稿日:2003/08/28更新日:2019/09/04

本日は、10回目の結婚記念日である。いわゆる結婚10周年であって、『錫婚式(すずこんしき)』として、錫の細工を贈りお祝いをする日である。

ただ、最近巷では『スイート10ダイヤモンド』という呼称が使われ始めていて、夫から妻にダイヤモンドを贈ることが期待される風潮にある。僕は、この商業主義が感じるコピーに踊らされるのが好きではない。『結婚指輪は、給料の3か月分が目安』や『スイート10ダイヤモンド』などのコピーにしても、どうもダイヤモンド市場を独占的に牛耳っている某D社の陰謀のような意図を強く感じているのは、僕だけだろうか。

しかも、ダイヤモンドを贈る「ダイヤモンド婚式」は、通常結婚75周年である。ダイヤモンドを贈るのは、10年早いどころか、65年も早いのである。僕は、結婚記念日が近づく中、この某D社陰謀説をよりどころにして、ダイヤモンドをプレゼントすべしというプレッシャーをはねのけてきたのである。

ところが、結婚記念日の2週間前に、ベンチャーキャピタル部門のパートナーであるアラン・パトリコフ氏が来日し、家族と食事をともにしたときに、風向きが変わってきたのである(コラム:「伝説のキャピタリスト-アランパトリコフ氏」)。

アランは、家族ぐるみのお付き合いをとても重要視しているので、来日のたびに、僕はアランを自宅に招待し、家族と共にディナーすることにしている。先の来日の際にも、アランを我が家に招待して、ディナーを楽しんでいた。アランは、常に子供達と妻にプレゼントを用意してくれる。子供達の成長を見るのが楽しみなようだ。アランも、実は子供が3人いて男ばかりだ。だからこそ男の子をいっぱい持つ母親の気持ちが理解できるのか、妻にはとてもやさしくしている。

アランの来日時期が、はからずも結婚10周年の2週間前だったので、話の流れで10周年記念の事が話題に上がった。アランは、結婚10周年と聞くや、「スイート10ダイヤモンドだ。当然、ダイヤモンドをプレゼントとしてあげるのでしょう。ハリー・ウィンストン、カルチェ、ブルガリのどれかがいいのでは。僕はブルガリがいいと思うよ。」と、いつものアランの捲くし立てるような口調で、プレゼントをあげることを前提に話が進んでいった。

話が盛り上がる前に、僕が横やりを入れようと、持論である「某D社陰謀説」を展開しようとした。その時、ふと一瞬躊躇した『アランは、確かユダヤ系のアメリカ人だ。もしかしたら某D社と関係があるかもしれない。どうやって、この陰謀説を展開しようか』と思案してる間に、アランと妻との間で、「カルチェがいいわ」などと話が弾み、その場には、当然ダイヤモンドをプレゼントすべきだという空気が出来上がっていた。

そして、アランは、僕の方を向いて、断定調に宣告した、「You should buy her a present.」。僕がちょっと、納得できずに閉口していると、「I hope I am not causing any problem here」と言って、話を変えた。
アランと妻が違う話で盛り上がっているとき、1999年にApax社との提携発表時の雑誌インタビューのことを思い出していた。記者がアランに、「なぜグロービスの堀社長と組むことにしたのですか?」と、質問した時のことである。それまでの記者発表などでは、「大企業と組むよりも、若き起業家と組む方が重要である。Yoshiに会って、彼の能力に確信を持ったからグロービスとアライアンスを決めた」と説明してきたのに、この時だけは魔が差したのか、本音を語りたかったのかわからないが、今までとは全く違った視点でアランが一言答えたのだ。
「Yoshiの妻が良かったからだ」、と。
僕は、唖然としながらも、横で黙って聞いていた。後日、その記事がそのまま雑誌に掲載されてしまったことは、言うまでもないことだ。

あとで聞いたのだが、アランは家庭を重んじる傾向にあり、重要な意思決定を行う際には、配偶者までもを面接の対象にしているようなのだ。言われてみれば、確かに思い当たる節がある。1998年4月に初めてニューヨークのアランの事務所を訪問し、面談を経た後のことである。帰り際に「次に来るときには奥さんも一緒にどうぞ」と言われた。どうせ社交辞令だろうと捉えてあまり本気にしていなかったけど、その後のメールのやりとりでも、何度か招待を受けたので、お言葉に甘えて、その年の9月に妻と同伴で、NYに行く予定を立てることにした。

しかし、出発の2日ほど前に、妻のパスポートの期限が切れてしまっていたことに気付き、直前に妻のNY行きがキャンセルになってしまったのである。なんと言う失態!ニューヨークでは、アランが夫婦でミュージカルを観る用意までしてくれていたのだが、急遽先方のIR担当の女性スタッフと僕と、アラン御夫婦とで行くことになった。アランは、妻が来れなかった事をしきりに残念がっていた。その出張での提携交渉は、ある程度は前に進んだが、最後の意思決定まではいかなかった。

その翌月、アランが来日する番となった。その際、初めてアランと妻とが食事をする機会をつくれた。その妻とアランとの食事を機に話がトントン拍子で進み、最終的にパートナーとなることが確定した。今思うと、その際に妻のことを面談していたのだなあ、と理解できたのである。

しかし、『妻が良かったから提携を決めた』などと言う話は、聞いたことが無いし、まさかそのことを雑誌のインタビューで言うなどとは、予想しなかったことだ。

話を戻そう。自宅での食事が終わり、アランをタクシーで見送ることにした。アランは、車に乗りながら、「You should buy her a present.」と繰り返し念を押された。ベンチャー投資で意見が食い違っても、これだけ執拗に言われることは無かった。この調子だと、次回会った時に、「プレゼントしたのか?」と確認されそうである。僕はとうとう観念して、結局ダイヤモンドを買うことにした。香港の出張中に小さな小さなダイヤモンドが入ったペンダントを買い、手渡すことにした。

そして、当日を迎えた。どうせ渡すならば、面白い演出をしよう、と考えた。レストランの個室を予約して、それから教会の神父さんにお願いして、夜教会を空けてもらうことにした。ベビーシッターを手配できなかったので、家族6人全員での食事会だ。ポケットに小さなペンダントが入ったケースを忍び込ませておいた。家族と一緒のゆっくりした食事が終わった後に散歩に出かけた。晩夏の夜の空気は気持ちが良い。

教会の前には噴水がライトアップされていた。噴水の音とカラフルなライティングが綺麗であった。「あれ、教会が開いているや」と、とぼけて中に入り、神父さんに祝福を受けた。教会の中で神父さんの前でプレゼントを手渡すのはさすがに勇気がいったので、教会を出てライトアップされた噴水の方に向かった。噴水の前に立ち、そこで、おもむろにプレゼントを出して、「結婚10周年おめでとう」と手渡した。噴水の音で声がかき消されたかもしれないが、妻はプレゼントをしっかりと受けとめていた。妻は、全く期待していなかったので、とっても喜んでいた。

二人きりで、このシーンが演出されればドラマチックな感じだが、周りには、こぶが4つ付いて回っていた。「ママ、どうしたの〜?何で泣いているの〜?」、「何もらったの〜?」「どれどれ見せて〜?」、と来る。

こうして「スイート10ダイヤモンド」という商業的コピーが日本に浸透していくのかと複雑な気持ちを抱きながらも、夫婦円満で10周年を迎えられたことをありがたく思っている。そして10年経って家族が3倍に増えている。

山小屋に戻り、コラムを書き始めた。ふと時計を見ると、たった今10回目の結婚記念日が終わろうとしていた。

 

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