昨日、『アートとビジネスを考える会』が主催するイベントがあり、僕は、岡野博先生と共にパネラーとして参加した。
その時の感動が冷めないうちに、コラムに書きとめようと思い、寝室から抜け出してパソコンに向かうこととした。
この会は、日本の将来を担うビジネスリーダーに、アートを理解してもらおう。ということで、グロービスの受講生2名が中心となり今年発足したボランティアの会合だ。
第1回目は、サラリーマンコレクターである、あいおい損保の山本氏をお招きして講演会を実施した。
昨日はその2回目で、画家の岡野博先生をお招きした。
(岡野博先生に関しては、コラム「画家:岡野博」をご参照ください。)
以下がその「アートとビジネスを考える会」のプログラムだ。
第1部:19:00-19:30 ビデオ放映 NHK美の世界 「岡野博」
第2部:19:30-20:30 対談 岡野先生vs堀義人
第3部:グロービスに展示されている岡野先生の絵の内覧会の実施
この流れで会は進んだ。会場には多数の参加者が集い、関心の高さが窺えた。
僕は、絵に関して何かを語れるほどの素養が無いことを自分自身、百も承知していた。中学・高校と美術の成績は、2か3しか取った事がないのだ。
落ちこぼれだったからそんなものだとは思っていたけど、その僕が、画家と対談するというのは、かなり抵抗がある。でも流れでそうなってしまったので受けるしかない。
事前に、絵に造詣が深い方に質問リストを作ってもらい、当日は、それを持参してプログラムに臨んだ。
第1部のビデオでは、岡野先生がなぜ絵に興味を持ち、誰の絵に感動し、なぜフランスに留学し、そして個展を開くまでのエピソードなどがうまい具合に編集されていた。 更に、アトリエで実際に岡野先生が絵を描いているシーンも放映され、どのような心境で絵を描いているのかなどが説明されて、とても興味深い。ただ、ビデオの中で、 岡野先生に関する事がほぼ網羅されており、僕が用意していた質問リストは全て使えなくなってしまった。
どうしよう。。(^^;;
ビデオ放映終了後、すぐに司会者に紹介され、対談に入った。咄嗟の判断で、急遽、銀座柳画廊の野呂好彦社長にパネラーとして登壇してもらい、僕がコーディネーションする形で対談を進めることにした。
会場のコレクターの方や聴衆の方にも質問やコメ ントを頂いた。とても和やかな雰囲気で、セッションが進み、僕自身、多くのことを学ぶことができた。(本来、パネラーが学ぶ事自体が良いものなのかわからないが、僕にとっては本当に学びが多いセッションであった)
第1、2部を通し、岡野先生の言葉で印象に残ったものを記しておく。
「絵で一番重要なのは、生命力だ」
「体全体でリズムを使って書く。感動を逃さないように一挙に描く。」
「色の選択に関しては、自分の感性を信じて選ぶ。」
「自然と溶け込む農作業の絵が好きだ。」
「良い絵を理解するには忍耐が必要だ。最初は、なかなか理解できないものである」
その中で、一番興味深かったのは、「‘感じたものを、そのまま描く’のが画家の仕事である。」という言葉だ。
岡野先生は、自分の心がとらえた色の印象を大切にして、絵の具で色をつくり、その印象をそのままキャンバスに一気呵成に描いていくとのことだ。
「実は、テクニックや技法というものは、あまり関係ない。それらはある程度レッスンを受ければ上達する。従い、技法よりも、感動する事と、その感動をストレートに自分らしく表現することが大切だ」、と強調されていた。
僕は、対談の中で、 ビジネスに関して話をした(アートはあまり語れないが、ビジネスのことは、一応語れると思っているのだ)。
「実は、ビジネスの中でも、アートは必要なのである。グロービスでは、経営学を教えているが、経営学を習得できても、それだけでは、経営はできない。それ以上に重要なのは、ビジョン、経営理念、リーダーシップ、組織文化などを自らが描くことである。これらの要素を構成する、もっとも大きな部分というのが、ワクワク感や感動である。その感動が、ビジョンを描かせ、理念をつくり、人を引っ張る力の源泉になり、組織文化を醸成させるものである」。
そして、続けた。
「経営で将来のビジョンを描くときの表現として、‘絵を描く’といった言葉を使うことがある。これは、まさに真っ白なキャンパスに、自分自身がアーティストとして、 自由自在に絵を描いていくプロセスであると思う。その「絵」=「ビジョン」 が、感動的であればあるほど、多くの人間の心をつかみ、その絵を共同で作成したいと思う人々が集い、その結果、その「絵」=「ビジョン」が完成していくのだと思う」。
僕は、本当にそう思っている。
1994年に刊行した『ケースで学ぶ起業戦略』のあとがきとして載せたフレーズをここで再掲させてもらう。
「起業(アントレプレナーショップ)とは、夢(ロマン)であり、サイエンス(科学)であり、アート(芸術)である。そして、一方では泥臭い人間的(ヒューマン) なプロセスである」
ビジネスとは、ロマンで始まる。そのロマンを、サイエンスを使い構築し、アートにまで昇華させる。つまり、「絵」を描くのだ。そして、その絵が多くの人々に伝播され、人間同士のぶつかり合いの中で、ビジネスが創り上げられていくのだと思う。
岡野先生が定義したアートとは、まさにその「感動をそのまま表現する」ということだ。となるとビジネスもアートも同様、以下のような要素が重要になるのではないだろうか。
『純粋に感動すること』そしてそれを
『率直に表現すること』
従いビジネスパーソンには、感動する力、そして、それを何らかの形で率直に表現するアーティスト的な要素が要求されるのであろう。僕はそう考えながら二次会の会場に向かった。
二次会では、岡野先生ご夫妻、コレクター、画廊経営者が一緒になり、アート談義に花を咲かせた。『美』とは何か?から始まり、岡野先生の絵の進化の過程に関する分析・意見交換、そしてクラシック音楽の話など、かなり多岐にわたっていた。 岡野先生は、終始ニコニコしながら、優しそうに話を聞いていた。
東京の自宅に帰宅後、岡野先生の絵を改めてじっくりと見つめてみた。そして翌日の夜、軽井沢の山小屋に到着後、岡野先生の絵をひとつひとつ改めて見つめなおしてみた。「生命力」、「感動を率直に表現する」、「色に対する自分の感性を信じる」など、岡野先生の言葉が蘇ってきた。
そして、静けさの中、自分の内面から感動が少しづつ醸し出されつつある状態を、暫くの間楽しむこととした。
軽井沢にて
堀義人