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ヨルダン訪問記(その2)

投稿日:2004/05/21更新日:2019/08/27

ヨルダン国王のスピーチが始まった。

中東の平和を祈る気持ちがひしひしと伝わってくる。「アラブの改革は、アラブの内側からなされるべきであって外から押し付けられるものではない。しかし、外部からのサポートは期待したい。希望を持ちつづけよう。過去よりも将来を見つめよう」、といった内容のものだった。今までも、国王のスピーチを聞く機会は何回かあったが、今回は違う響きがある。なぜならば、その場所が、ダボスでもシンガポールでもなく、 国王の統治する国ヨルダンである。しかも席の周りには、ヨルダン人の友達がいる。今までとは、僕の気持ちも違ってきている。

アラブ世界に来るのは、2回目である。1回目は、1997年にYEO(Young Entrepreneurs' Oraganization)のアジア代表として来たときにドバイに立ち寄った。その当時YEOのアジアは始まったばかりであった。僕の任務は、YEOの支部をインドのニュー・デリーやムンバイ(ボンベイ)につくり、そこで多くの人間を鼓舞すること。そして、スリランカのコロンボ、UAEのドバイ、パキスタンのカラチやラホールなどを歴訪して、これらの地域にYEOをつくることであった。その際にドバイに立ち寄ったのである。滞在期間はたった1日。会った人もインド・パキスタン系の起業家が中心でアラブ人とはほとんど話す事ができなかった。それに、砂漠すらも見られなかったので、あまり大きな印象は残っていない。

だが、今回は違う。アラブの世界にある程度は、触れる事ができていた。朝4時にコーランの響きで目が覚める。片言のアラビア語で挨拶をして、ガイドさんや運転手などと英語で意見交換をする。日本の自衛隊イラク派遣をどう思うか?アメリカの政策はどうか?アラブ世界はどのようになりたっているのか?など質問しながら理解を深める。また、前回のマレーシアのサミットでアラブ人とも親しくなっている。

※参照コラム:「ニューアジアンリーダー(NAL)のリトリート参加報告」

ペトラ、ワディ・ラム、アカバなどを自らの目で見て、体感した。その中で、当然今までの歴史に触れる機会を持つ。モーゼの時代にさかのぼるし、その後ローマ時代、ウマイヤ朝、アッパース朝、十字軍の時代、オスマントルコの時代、アラビアのロレンスからイギリス占領時代、そして独立だ。その後、イスラエルの建国、パレスチナ難民、4次にわたる中東戦争を経て、湾岸・イラク戦争などが続いている。ヨルダンに来たことにより、歴史を肌で感じるとともに、アラブ人の価値観を感じ取れる。彼らの悲しみや怒りにもある程度共感できるようになってくる。欧米的見方ではなく、アラブ的ものの見方でも世の中を見られるようになってくる。

緑の無い砂漠を通り、砂嵐に巻き込まれ、やっとのことで死海にたどり着いた。そこで聞くヨルダンの国王のスピーチは心に響くものがある。スピーチが終わると皆、スタンディングオベーションであった。

国王のスピーチの後、世界銀行総裁のスピーチがあり、その次が、いよいよ米国国務長官のコリン・パウエル氏の番だ。皆が注目した。冒頭、監獄の兵士の捕虜虐待の弁明から始まった。パウエル氏自身、35年間米軍にいたこともあり、あの虐待の一件は、彼にとっても相当なショックであったようである。軍人としても信じられないことであり、申し訳ないことをしたと、心の底からのその気持ちが伝わってきた。ただ、その後はディプロマティックなスピーチで終わってしまった。何か落ち着きが無くそわそわしている印象があった。G8の外相会議が終わり、その足で直行したので、疲れているのであろうか。パウエル国務長官がわざわざ来られるほど、米国は中東政策と今回の会議を重要視していることが良く理解できる。ただ、聴衆の目は冷ややかであった。

スピーチの後、部屋に一旦戻ると、プレゼントが届いていた。プレゼントの紐には、『Abudullah&Rania』と書かれたカードがついていた。国王と女王からのプレゼントである。ワクワクしながら中を見るとヨルダンの硬貨が8枚ほど入っていた。中の説明書には、王家の歴史とコインに関して書かれていた。後ほど、何人かの参加者にさりげなく、「プレゼントが届いていなかったか?」と聞いたが、誰ももらっていないようであった。とても嬉しい心遣いだ。大切にしなければと思った。

夜の7時半にバスが迎えにきて、国王と女王がホストするヨルダンナイトの会場に向かった。中央の席には、国王と女王が座り、その横にパウエル国務長官などのVIPが座っていた。僕は、ステージ近くの席にニューアジアンリーダー(NAL)の友人とともに座った。

ヨルダンを宣伝する映画が放映されたあと、イラク、パレスチナ、そしてヨルダンの子供達による歌が贈られた。最初の歌は、ジョン・レノンの『イマジン』であった。理想主義者で平和を愛する国王らしい選曲である。もう1つの催し物は、アラブ風のダンスとサーカスのミックスである。キダムなどを運営するパフォーマンス集団『シルク・ド・ソレイユ』のアラブ・バージョンのようなものである。コーランのような抑揚のある歌をバックに、芸術性が高いバレエのダンスと神秘的なアクロバティックな芸が行われる。肉体美もあり官能的な趣がある。かなりレベルが高い。国王のゲストへの催しものには、その国の最高のものがだされるのであろう、かなり堪能させてもらった。

食事が終わり、デザートが出されたタイミングで、子供達とサーカスの参加者が、壇上に戻ってきた。何かと思い見たら、国王と女王が1人ひとりに握手をしている。子供達は皆嬉しそうだった。その握手が終わり、国王と女王が壇上から降りそのまま退席されて、宴は終わりとなった。続いてパウエル国務長官も退席された。退席時、パウエル長官が丁寧に参加者と挨拶をしているのが印象的であった。

2004年05月16日
ヨルダンの死海のホテルにて

  • 堀 義人

    グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

    京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事を経て、1992年株式会社グロービス、1996年グロービス・キャピタル設立。2006年グロービス経営大学院を開学。2008年に「G1サミット」を創設。2011年には復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げる。2016年に茨城ロボッツ、2019年に茨城放送オーナー就任。2022年にLuckyFesを立ち上げ、現在総合プロデューサーを務める。2024年よりBARKSオーナー、世界最大のPR会社の米国エデルマン社 社外取締役。

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