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「起業家の風景」を書く意味

投稿日:2004/04/28更新日:2019/08/26

コラムを書きながら、たまに自分が嫌になることがある。

水泳に、家庭に、仕事に、そして世界を飛び回っている姿を自ら描きながら、「自分はそんなにたいそうな人間なのか?本当の自分は、もっといい加減な人間なのでは?」と自問することがよくある。つまり、コラムに書いている自分の姿と本当の自分の姿との間にギャップが生じて居心地の悪さを感じる時があるのだ。

そんな折、古くからの友人からメールが届いた。

「いつも面白いコラムを楽しく読ませていただいています。それにしても文字通り世界を股にかけた活躍ですね。ただただ、素晴らしいの一言!それに仕事だけでなく、家族との時間も大切にしたり、マスターズ水泳大会への夢とか、正にスーパーマンですね。よく天は二物を与えずとか言いますが、天は堀君には4つも5つも才能を与えているような気がして羨ましい限りです。勿論、堀君の弛まぬ努力の結果による賜物でしょうが・・。

そこで、質問ですが、もし完璧な人間がこの世にいないとすれば、すべてが揃っているように見える堀君にとって、あえて足りないもの、欠点があるとすれば、それは何でしょうか?」、と。

これを読んで困惑した。「僕は、スーパーマンじゃないし、そんなえらい人間でもない。コラムに書いている僕自身は、背伸びした良い面の自分を見せているだけなのだ。本当は、ぐうたらで、遊びが大好きで、無責任で、欠点だらけの人間なんだ」、と心の中で叫んでいる自分をそこに発見するのである。

家族に対しても、常にしっかりとしているわけではない。先日だって、思いっきり酔払って朝帰りして、長男の卒園式に間に合わず、慌てて二日酔いのまま参列したばかりじゃないか。おかげでビデオも撮れなかった。。。たまに水戸に連れて行ったからといって、いいパパづらするのは、都合良過ぎるのではないか。水泳だって、先日は休んだじゃないか。多少の体調の悪さで、仕事を休む時だってある。そんな、いいかげんな人間ではないのか。。。

僕自身、自分の人生を振返ってみても、優等生であったことは一度もない。いつの時も遊びが大好きで、縛られるのが大嫌いな人間であった。高校時代も授業をサボってばかりだったし、大学時代はほとんど大学に行かなかった。大学1年の時の取得単位は2単位のみである。休学をはさみ、よく4年で卒業できたものである。

つまりよく言えば‘自由奔放‘だが言い方を変えれば‘いい加減‘なのだ。

では、「なぜそんないい加減な僕が、今コラムを一生懸命に書いているのか?」
その答えは、僕にも良くわからないけど、僕なりに考えている事をまとめてみようと思う。

30才で住友商事を辞めて、グロービスを創業し社長になってからは、当然のことながら、‘いい加減‘ではすまされなくなってくる。自らを律し、率先して範を示し、仲間を引っ張っていく必要があった。喋る事や書く事が下手だ、などと言い訳をしているわけにはいかない。自分がトップとして会社を経営している以上、キチンと喋り、キチンと考えていることを書いて、伝えなければならない。当然、自分の能力を高める必要があり、努力をし続けることになる。

創業後に一番苦労したのは、考えている事を周りの人に理解してもらえなかったことである。そもそも、『ビジネススクールとベンチャーキャピタルを組み合わせ、ヒト、カネ、チエのビジネスインフラをつくり、社会の創造と変革を行う』。更には、『アジアNo.1の大学院を作る』ということを、30才の若造が言っても、誰もがクレイジーだと思い、信じてくれない。「そんなことできるわけないでしょ」で終わりだ。

そもそもベンチャーを興し、存続させること自体、ユニークな発想でないと出来ないものである。なぜならば、常人が考えている事を実際に行動に移しても、同じことを考えている人間が他にもたくさんいるので、そうなると過当競争に陥り、成功し得ないのだ。従い、ベンチャーで成功する起業家は、クレイジーでユニークな発想を持っていなければならない。

つまり、起業家はユニークでクレイジーな発想を持っているので、そもそも‘理解されにくい存在‘なのである。

そのユニークな発想を持った‘理解されにくい存在‘である起業家が多くの方に理解してもらいたいと思うならば、コミュニケーションを増やすことが肝要になってくる。多くの人にその発想の根源となる哲学、考えてきた事、見てきた情景、それがうまくいくという確信の根拠などを伝える必要がある。だからこそ、僕は、この『起業家の風景』というコラムを一生懸命に書いているのではなかろうかと思う。

つまり‘理解してもらいたい‘という願望からこのコラムを書いているのではなかろうか。僕が、どこで、どのような風景を見て、何を考えているのかを、グロービスのスタッフを含め、受講生や講師の方々、クライアントの方々にオープンにコミュニケーションをすることにより、少しでも理解してもらいたいと思っているのだと思う。オブラートに包んだ方法では、伝わらない。常に、まっすぐにわかりやすく伝える必要がある。

30才の時、お金も信用も実績も何も無い若者が、ある夢を持ちベンチャーを興し、挑戦しつづけている。その中で、悩み、苦しみ、喜び、悲しみ、感動してきたことをこのコラムを通して、表したいと思っているのかもしれない。荒削りで、クレイジーな発想を持った起業家の精神の躍動感のようなものを、ストレートに表現して、それを多くの方にさらけだす。その結果、読者に何らかの示唆や刺激を与えられ、共感を得られたなら、このコラムの試みは一定の成果を納めることになるのであろう。

その古くからの友人のメールには、以下のとおり、引き続き書かれていた。

「このコラムは大変面白いし、刺激にもなるし、個人的にはぜひ続けていただきたく思います。サクセス・ストーリーを歩む若手経営者が日々何を考え、悩み行動しているのか?家族への思いや、将来への夢、私生活すべてを包み隠さず、オープンに、率直な意見が書かれているので、いつも大変感動して読ませていただいております。若い人に対して、特にこれから起業家をめざすような人に対しては、これほど参考になるバイブルは無いでしょう。同年代や先輩の一部には、ちょっとやっかみから羨望の眼差しで見られ、イヤミを言われることもあるかもしれませんが、それは、成功者に与えられる勲章と思って気にしなくても良いと思います」。

サクセスストーリーを書いている意識は無いし、やっかみや羨望の眼差しもあまり気にならない。僕は、ただ単に、自分の見てきた風景、考えていることを率直に伝え続けようと思っている。それが、この『起業家の風景』を書く意義だと思っているからだ。

2004年4月15日
上海のホテルに

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