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ダボス会議参加報告(その3)

投稿日:2004/02/03更新日:2019/08/26

ダボス会議の3日目である。いつものように帽子、スノーブーツを身に付けて、コングレスセンターに向かって歩き始めた。今日も天気は晴れ、とても気持ちがいい。

これまではビジネス系のセッションに多く参加したので、この日は政治・経済系を中心に国際情勢の理解を深めることにすることにした。投資家のジョージ・ソロス氏や発展途上国の大統領が民主化に関して議論するセッションと、アナン国連事務総長やカナダのマーティン・ポール首相が参加する国際関係に関するセッションとが重なってしまっていた。迷った末に、結局双方に参加して雰囲気を感じ取ることにした。

先ずは、ジョージ・ソロス氏が参加するセッションだ。ソロス氏は、東欧に生まれてその国の抑圧政治に不満を持っていたので、「オープンソサイエティの実現」を人生の一つの目標としている。ちょうど前日、グルジアに200万ドルの寄付を国連とともにすると宣言したばかりである。ただ、残念ながらソロス氏の単独のセッションではなくて、セネガルのアブドゥライ・ワッド大統領、アムネスティ・インターナショナルの事務総長、カタールのハマド外相、ラトビアのヴァイラ・ヴィチェ=フレイベルガ大統領などと一緒のパネルなので、あまり多くのことを聞き出すことはできない。しかもかなり遠慮している。僕は、ソロス氏の見解が聞きたくてセッションに参加しているのに、歯がゆい気持ちだ。

ジョージ・ソロス氏が喋った後に、僕はその会場を抜け出してアナン事務総長が参加するセッションに顔を出した。事務総長は、冒頭より原稿を読んでいるので、あまり強い関心を抱くには到らなかった。僕は、原稿を読んでいる人のスピーチにはどうも気乗りしないのだ。結局、双方のセッションとも僕にとっては不完全燃焼のまま終えた。

英国のIndependence誌から取材依頼が入り、10時30分から同誌の取材を受けた。40分ほどお話をした後、次のセッションに参加した。僕が選んだのは、米国経済に関するセッションである。参加者は、以下である。
・ドナルド・エバンス氏(米国商務長官) 
・マーチン・フェドルスタイン氏(経済学者) 
・スティーブン・ニューハウス氏(モルガンスタンレー社長 兼 最高業務責任者 ) 
・ジョン・スウィーニー氏(AFL代表)

そしてモデレーターが、ウィリアム・ローズ氏(シティグループ副会長)である。
顔ぶれも贅沢だったが、ディスカッションも面白かった。特に興味深かったのが、米国経済に対する、政府や経済界の見解と労働者の見解の違いである。エバンス長官、フェドルスタイン氏、ニューハウス氏は皆、米国経済に対してポジティブである。双子の赤字やジョブレスリカバりー、そして為替に関して触れながらも、管理可能な範囲であって、手は打っているので問題は無いと主張していた。

一方、スウィーニー氏は、同じ内容を取り上げながらも、経済政策を辛らつに批判し、会場も静まり返る場面があった。スウィーニー氏は、最も一般的な中流層の米国市民の意見を代弁しているので、視点が違うのだ。議論の醍醐味は、このいい意味での対立にあるのだと思う。どんどん違う意見を聞きたいと思う。

スウィーニー氏は、以下主張した。
「双子の赤字は、過去に例が無い状況になっている。経済が良くなったと言うけど、米国の労働条件は、どんどん悪化している。職は全くないし、ここ数年間賃金は全く上昇していない。職があると言っても殆どパートタイム程度の仕事だ。健康保険や年金にも入れない労働者が増えている。ウォルマートなどでは、最低条件以下で仕事をさせている。さらに、心配なのは、知的労働者であるソフトウェアエンジニアの仕事がどんどん海外(特に中国とインド)に奪われている。皆、働くことに意味を感じていない。これでポジティブになれるのか。」

同じ経済に関して語っても、様々な見方があるものだと関心した。

12:30-14:15までのセッションには、何を選ぶかものすごく迷ったが、結局BBCWorldとWEFが共同で行う「World Debate」という特別番組の公開収録を兼ねたセッションに参加した。会場には、テレビカメラが何台か設置されており、今までのセッションとは違った雰囲気があった。テーマは、"Global Stability and Building Democracy: New Realities? New Possibilities?"というテーマだ。全てのセッションにはこういうメインテーマの下に、グロービスで言うシラバス的な質問がいくつか投げかけられていて、これをパネラーが答えていく設定になっている。

今回のパネラーは、以下メンバーだ。
・欧州議会議長 パット・コックス氏 
・NATO事務総長 ヤープ・デ・ホープ・スヘッフェル氏 
・国際協力機構理事長 緒方貞子氏 
・豪州外相 アレクサンダー・ダウナー氏 
・エジプト、イスラエル、米国の外交関係者など

カメラが回り、色々な意見が交わされた。パネラーの議論に加えて、会場にいるNGOの団体の代表も加わり議論が展開された。議論を聞きながら、ふと考え始めた。どうも、僕には物足りなさだけが感じられてくる。いくら議論されても、何の解決策をも見出せないし、仮にあったとしても、それが実行されるという保証は全く無い。また僕自身ができることにも限度があるのだ。

一方ビジネスのパネルであれば、新たな学びがあり、明日から何をしようかと考えさせてくれるので、個人的にはこっちの方がためになる。従い、次のセッションは、ビジネス関係のセッションに出ることにした。

14:45-16:00 Corporate Giving's New Bottom Line
パネラーは、以下である。

・オランダ最大の物流会社TPG社のCEO ピーター・バッカー氏 
・シスコシステムズCEOのジョン・チェンバース氏(今回は引っ張りだこである) 
・フィリピンのアヤラ財団のヴィクトリア・ガルチトレーナ理事長
・ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授
・ハーバード・ネディスクールのジョン・ラギー教授
モデレーターがビジネスウィーク誌の編集長であるスティーブン・シェパード氏だ。

「裏番組」でジャパンパネルが開催されている。気にはなったが、どうしてもこのテーマに関心を持っていたので、どっぷり参加することとした。結果的には、正解だった。僕にとっては、このパネルがダボス会議の中で一番面白かった。
モデレーターが喋り始めて、論点が整理され始めた。「ビジネスウィーク誌では、個人と企業双方の慈善活動に関するレポートを出し始めた。その中で、以下2点に関しては、何らかの論点の整理が必要である」。

・企業社会責任(CSR)という言葉がある。一方では、「企業のお金は株主のものである。企業が寄付行為するのは、株主に対する背任行為であるので、そのお金は全て株主に配当として還元すべきだ」という考え方がある。どちらが正しいのか? 

・個人がする寄付行為と比べて企業は、どのような慈善活動をすべきなのか?

「では、この点についてパネラーの意見を聞いてみよう」と議論が始まった。
TPG社での実例が紹介され始める。とても興味深い内容である。バッカー氏はこう語った。

「現在世界では、5秒おきに1人の人間が飢え死にしている。こうしている間に1人が死んでいるのである。TPG社は、物流会社としてその現状に多少なりとも貢献するために、国連傘下の国際機関とともに、ひたすら食料を運ぶプロジェクトを始めた。これを企業の一部門として行った。ゴルフやF1の協賛をするよりもよっぽど価値があると思う。このプロジェクトのおかげで、従業員満足度は上がり、結果的にPR効果もあった」と。

アヤラ財団のガルチトレーナ氏も続けた。「アヤラは、フィリピンのビジネスのリーダーであるならば、CSRとしてもリーダーとなるべきである。現在、フィリピンの貧しい人に教育を施し、博物館をつくったりしている」。シスコシステムズのジョン・チェンバース氏が、ヨルダンにおけるネットワークアカデミー設置に関して説明した。

そして、マイケル・ポーター教授がフレームワークを提示する。
「企業と個人の寄付行為の違いは、何か?」
・ 個人はお金だけしか提示できないが、企業はお金以外に専門的なノウハウやプラットフォームを提供できる。TPGの事例では、まさに物流会社が持っているプラットフォームを提示した事例であり、シスコ社の場合にはノウハウを提供している事例だ」

「株主に説明ができる企業の慈善活動の範囲はどの程度か?」
・これは、難しいが、基本的には事業に関係がある分野に絞るべきであろう。技術者がごみ拾いをしても、社会には何らインパクトが無い。お金をただ単に寄付するのは、これは個人が行うべきことだ。企業としては、自らの業務に関係がある分野あるいは自らのノウハウやプラットフォームが提供できる分野に絞り、会社の利益に結果として長期的に繋がることが重要である。 

・一方では、企業としては簡単にできることがある。バリューチェーンの中で慈善活動を行うことである。例えば、調達だ。大企業ばかりから購入するのではなくて、多少高くても中小企業からも購入すべきである。そして、採用である。なるべく普段機会が無い人にその機会を与えるべきである。 

・ただ、理解しなくてはならないのは、「企業には全てをできない」、ということだ。「当然、全てをする必要も無い。ただできる範囲でやる意識をもつことが大切である」、と。

グロービスの今後の活動に示唆となるディスカッションであった。

16:30-16:40 ヨルダンアブドッラー国王のスピーチでは、イスラエルとの関係、中東の和平、ヨルダン経済の復興とともに、New Asian Leader(NAL)のリトリートのこともお話になられた。実は、前日に、ヨルダンの国王に20分程度お時間を頂き、2月にマレーシアで開催されるNALのリトリートに関してご説明差し上げた。このリトリートには、何とアブドッラー国王がご家族を連れてのご参加予定になっている。僕も家族を連れて行くので、子供同士が仲良くなるかもしれない。楽しみだ。

17:20-18:30 国王のスピーチのあとに、Bloombergテレビの収録を行った。これが最後の取材である。だんだん慣れてきた。とはいえ、英語での対応は、簡単ではない。もっと英語力を高めなければならないといつも痛感している。

19:30-20:15 Japan Night のレセプションに参加した。ホストは、ソニーの出井会長、日産自動車のカルロス・ゴーン社長、そして野村ホールディングスの氏家純一会長だ。僕は、最初のみ参加して、次の食事会に向かった。

20:20- Private Equity Night  
グロービスのベンチャーキャピタル部門が提携するパートナーであるApax社のロナルド・コーエン会長がホストする食事会に参加した。他のホストの顔ぶれも凄い。カーライルのデビッド・ルビンシュタイン会長、英国3iのブライアン・ラーコム代表、そしてブラックストーン・グループのシュテファン・シュワルツマン社長などである。遅れて参加したので、席は端のほうである。残念だが仕方が無い。近くにカナダで一番大きい投資家のCDP社の社長が来られた。この会のモデレーターをしている方だ。食事会の最期にApax社のドイツのリーダーをしているマイケル・フィリップ氏が奥様とともに遅れて登場された。彼とは、3年ぶりの再会である。このあと、一緒にバーに行って、語り明かした。

24:00- Jazz Night(ADL) 
マイケル・フィリップ氏とバーで飲んだあと、帰り際にホテルヨーロッパで開催されているADL(アーサー・D・リトル)社が主催しているJazz Nightに立ち寄った。ちょこっとのつもりが、そのまま飲みつづけ、踊りつづけることになってしまった。なぜならば、ADL社が全てのドリンクを無料で提供してくれているのだ。つまり何を飲んでもタダなのだ。ありがたいことだが、ついついいつものようにシャンパンを何杯か飲み、気持ちよくなってきた。

盛り上がって踊っていると、見覚えのある人が目の前で女性と踊っているのに気が付いた。前日、マイケル・デル氏と一緒にパネラーとして参加していたイージージェット社の創業会長のステリオス・ハジローヌー氏であった。思わず声をかけ、自己紹介をして名刺交換をした。今度また日本か英国で再会する約束をした。でも、どうも女性を口説いているような感じだったので、あまり邪魔しないことにした。僕は僕で勝手に盛り上がることにした。どこに行っても起業家は元気である。

本日で、ダボス会議での大切な仕事をはほぼ完了した。その充実感に浸りながら、思いっきり飲み明かし、踊り明かした。帰りの雪道をどうやってホテルまで辿り付いたのか良く覚えていない。でも、楽しい1日だった。こうして、ダボス会議の3日目を終えることになった。

2004年1月24日
ダボスにて

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