ダボス会議の二日目は、日産自動車のカルロス・ゴーン社長との朝食会で始まった。CEO`s Breakfast Seriesの中で、僕はゴーン社長がホストするHow to make people work smarterを選び、参加した。
会場は、Belvedere Hotelの中で、メイン会場から離れている。僕の泊まっているホテルから約1km以上離れている。早速昨日購入したゴアテックス製の黒いスノーブーツと耳まで覆う帽子をそれぞれ身につけて、手袋にマフラーをつけて完全防寒スタイルでホテルを出て、会場まで歩き始めた。2日目は、前日と違い晴天である。ダボスを取り囲む山々がくっきりと見える。街中では、若いスキー客とすれ違う。空気も美味しい。歩きながら、とても気持ちがよくなってくる。
ここで簡単にダボスに関して説明する。ダボスは、スキーリゾートとして有名な場所である。米国のアスペン、日本の真田市、フランスのシャモニーと姉妹都市提携をしている。そのリゾート地に1970年ごろ新しくコングレスセンターという大きな会議場がつくられた。それを見たジュネーブ大学のクラウス・シュワブ教授がここに世界各国からビジネスマン、政治家、学者などを集めて会議を開くことを思いついた。この地であれば、都会から離れているので、喧騒から離れ、親しく語り合えるのではないかと考えた。それがダボス会議の始まりである。そしてそのビジョンに従い、今まで発展してきた。
通常のちょっとしたコンファレンスと違い、ホテルで開催されるわけではないので、参加者はダボスにあるそれぞれのホテルに宿泊して、メイン会場であるコングレスセンターや、食事の際にはダボス市内にある各ホテルまで移動することになる。雪の中での移動である。本日移動したときは、目の前を世界的投資家のジョージ・ソロス氏が歩いていたし、女性の方が元気に歩いているな〜と思ってみたら、ローラ・タイソン氏(ロンドン・ビジネススクール学長)であった。皆、原則お供なしで、荷物を自ら運びせっせと雪道を歩いているのである。ここにも親しく交流できる要素があるのである。
話を戻そう。7時30分きっかりにゴーン社長主催の朝食会の会場についた。中には、8人ほど座れるテーブルが4つあり、合計で32名のみが入れた。僕は、サラリーの会長の横に座った。8時30分までと1時間しか時間がないので、食事をしながらも7時40分からすぐにセッションが始まった。ゴーン社長ともう一人の起業家のスピーカーが5分づつスピーチをした。その後各テーブルに分かれディスカッションを行い、8時20分に各テーブルごとにディスカッションをした内容をシェアするという構成になっていた。
印象に残った言葉だけ書き記します。
<カルロス・ゴーン氏>
4つが重要である。
・ Desitination。ビジョンのみばかりでなく、具体的なマイルストーン(目標所要年数)や具体的な目標数値が重要である。
・ Cross Functional Work。車のような複雑なプロセスを要する会社では、ファンクションごとの生産性をあげるとともに水平方向の関係性を高めることが重要である。
・ 報酬・評価・キャリア設計
・ そして単純な指標を導入して簡素化すること。
<他の参加者から>
・ 12000人ほどの社員が働く会社をつくって来たが、成功の秘訣の一つは「小さいときと同じように会社を経営してきたこと」である。
・ 特に重要なのは、リスクテーキングに評価することである。
皆、会社の規模や業態が違うが似たような悩みを抱えているのだなと、実感できて興味深かった。
そして、9時からは、6月にソウルで開催される東アジア経済サミットの準備会議に参加した。当然、今度はコングレスセンターまで10分ほど歩くことになる。この会議には、日本からは、北城さんと帝人の長島 徹社長が参加されていた。本日の目標の一つは、「積極的に発言する」、である。この会議でも積極的に意見を述べさせてもらった。
本日参加したセッションの概要を列挙することとする。詳細を書きたいが、長くなってしまうので、参加した会議のパネラーを列挙して簡単に収穫を書くことにした。しかし凄い顔ぶれである。
● 10:45-12:00 Reinveiting Growth
マイケル・デル氏(デルコンピュータの創業者であり、会長 兼 最高経営責任者)ステリオス・ハジローヌー氏(英国の低価格航空会社であるイージージェットの創業者)他
<収穫>
・ 成長に向けて必要な要素をマイケル・デル氏という起業家から聞き出せたこと。先ずは、Break Through の新しい発想、コスト・リスク削減のためのプロセスの簡素化、限りない限りの向上への貪欲さ(この点はトヨタに通じるところがある)そして人材育成(特にリーダー育成)に対する意欲。自らが600人の幹部を育成するためにリーダーシップ講座を実施している、と。本当かどうかはわからないが、この姿勢を見習わなければならないと思った。
・ 戦略に関して考えさせられたこと。戦略概念は、もともと戦争から来ているので、戦うことを基本にしている。ところがビジネスは、戦争とは違い、有限な土地を奪い合うことではなくて、無限に広がるビジネス領域の中での戦いである。従い、全くあらたな新天地を開拓すれば、最初は戦う必要はない。もしも追随者が参入しても、そこに対しては、スピードとスケールとスコープで優位に立てばいいのだ、と。
・ 面白かったのは、ブランドに関する発言である。現存する高級ブランドは、全てバリューブランドの傘下にある、と。例えば、ロールスロイスなどの欧州の高級ブランドは、全てBMWなどのバリューブランドの傘下にある。スイスの高級時計は殆どスウォッチの傘下にある。つまり、最も重要なのは,高級感でなくて、顧客に対して与えるバリューである。
● 12:30-14:15 Are Universities to blame for the Brain Drain?
ローレンス・サマーズ氏(ハーバード大学学長)
ローラ・タイソン氏(ロンドン・ビジネススクール学長)
リチャード・レビン氏(エール大学学長)
ロバート・ジョス氏(スタンフォードビジネススクール学長)
シンガポール教育大臣他
<収穫>
・ ローラ・タイソン氏の横に座り、アポの約束を取り付けたこと。ロンドンで会うために早速メールをしてみたい。(^^)
・ 参加者にグロービスの存在を知ってもらい、グロービスの価値を認めてもらい、この会議の場でも紹介されたこと。
(今後とも欧米の大学にグロービスの良さを知ってもらうように努力したい)
● 14:45-16:00 Leveraging Technology for the Bottom Line
カーリー・フィオリーナ氏(米ヒューレット・パッカード(HP)会長)
ジョン・チェンバース氏(シスコシステムズ 社長兼CEO)
ゲイリー・ブルーム氏(べリタスソフトウエア会長兼CEO)他
<収穫>
・ カーリー・フィオリーナ氏がなぜ米国で人気があるかがわかったこと。真っ赤なスーツを着こなし、姿勢がよく、綺麗である。芯の強さを感じる一方で、人間味が表現されていてチャーミングである。しかも、喋るのがうまい。雑誌媒体で接してきたイメージよりはるかに良かった。これからのCEOは、容姿、ファッション、身振り手振り、喋りのテンポ、コンテンツなど全ての面でのコミュニケーション能力が問われることになるのであろう。
・ フィオリーナ氏とともにインパクトがあったのは、ジョン・チェンバース氏である。頭がいいし、喋らせたらスムーズだし、ポイントをついて簡潔である。僕も多くのCEOに接してきたが、両氏とも、伝える力の強さに関しては天下一品である。本当に、感服する。米国のCEOは、伝える力の強さで選ばれているのでないかと、思えてきた。
次のセッションには、僕がどうしても参加したかったけど、NAL関係で、ヨルダン国王に会いに行ったのとWEF関係者と会議を持ったのでどうしても参加できなかったので、パネラーのみ紹介する。
● The World's 2014 Rethinking the Corporation
サミュエル・J・パルミサーノ(IBM会長)
出井 伸之氏(ソニー会長)
モデレーター:マイケル・ポーター氏(ハーバード・ビジネススクール教授)
しかし、豪勢なスピーカーである。しかもこれらのセッションと同時並行的で8-10ほどのセッションが行われているのである。そこでは、パキスタンのムシャラフ大統領が来ていたり、英国のストロー外相が来ていたりするのである。これだけのパネリストが揃いながらも、キーノートではないのである。贅沢だ。
ダボスにどうしてこれだけ多くの人たちが吸い寄せられるのかがわかるような気がしてきた。
会議の後、20:30から、石原都知事が主催するTokyo Nightに参加してきた。人間国宝の鼓の響きと日本酒で歓迎してくれた。
長い一日も終わり充実感のもとホテルに戻ったのは、22時を過ぎていた。二日目も無事終わった。
2004年1月23日
ダボスにて