グロービス経営大学院教員による2023年の注目トピックシリーズ、ベンチャー・社会投資編です。
岸田政権により「スタートアップ創出元年」とされた2022年。ベンチャー/スタートアップへの期待はますます高まっています。そんな昨年を経て、2023年のベンチャー/スタートアップには社会に創造と変革を実現するためにどのようなことが求められるのでしょうか。
「ベンチャー・マネジメント」「ベンチャー戦略プランニング」「ソーシャル・ベンチャーマネジメント」などの科目で教壇に立つ、グロービス経営大学院の教員に聞きました。
共創元年の不確実な年、本物であり続けることの重要性
過去の資本主義や産業界が残した課題を解決する可能性のあるスタートアップへの期待は否応なく高まっている。日本政府は、2022年をスタートアップ創出元年と掲げ、「スタートアップの育成は、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決する鍵」※として政策立案をおこなった。
これを踏まえ2023年は、政府施策が実施されスタートアップと政府による本格的な共創の初年度になるだろう。ただ過去を振り返ってみても、大規模な社会的取組みは、目標や手続きに不明瞭な点が残り、混乱が生じるのが一般的だ。
一方で、資本市場に目を移すと、2022年は2019年と同様レベルに後戻りした。景気の減速や紛争により、工業化時代・情報化時代に産み落とされた社会課題、例えば少子高齢化、貧富や情報の格差、分断による対立、環境問題もいよいよ深まる中、先行きは不透明で冬の時代の到来のようにも見えるが、まだ、十分な投資活動は行われている。
この不確実性を乗り越え、本旨である社会課題を解決しうるスタートアップであるために「本物であること」が重要だ。具体的には、以下の3つを意識することをお勧めしたい
1.社会構造を理解し、レバレッジポイントを見極める
今ある課題は、政府・地方公共団体もGAFAMらを含む産業界も積み残した社会課題や、取り残した顧客ニーズである。
それらの課題を深く認識しながら、解決された後の時代を提示する力が重要だ。グロービスでは、社会構造変容の思考手法を教えている。工業化時代、あるいは情報化時代という今の課題が発生する背景を整理し、変革する上で必要なポイントを見極めている。
2.株式市場と橋渡しができるベンチャーキャピタルを選ぶ
従来型資本主義が揺らぐといえど、次世代に来るのは、新たな資本主義だ。
20世紀初頭に活躍した経済学者シュンペーターは、創造的破壊のために、アントレプレナーと同様に目利きし高リスクな資金を提供する銀行家の必要性を説いている。
長年にわたって株式市場とスタートアップを橋渡ししてきたベンチャーキャピタルには深い知恵が経験的に備わっており、創造的破壊のためには必要不可欠な存在だ。2022年、資本市場が調整局面に入り、新興や中小のベンチャーキャピタルファンドは苦戦しながらも、老舗や大規模なベンチャーキャピタルファンドには引き続き資金が集まり、投資余力はある。
資本市場の声を、経験あるベンチャーキャピタリストを通じて自らの事業に活かすことで、長期的な社会変革につなげられるはずだ。
3.支援施策に対する選球眼
2023年は、様々なスタートアップへの支援施策が浮上するはずだ。不思議な施策に資金がつくこともあるはずだが、余り気にせず、自社のやるべきことをやり続けることが大切だ。
怖いケースは、誤った支援資金を得てしまうことだ。資金がついたことで過剰な期待を背負い、出来ない挑戦を続けたり、自社の長期的戦略とは違う方向に進んだり、会社の本質的な成長が阻害されてしまったりしかねない。短期的なキャッシュのためだけに助成金に手を出すと、その助成金が切れたときに次の助成金に飛びつくことになる。
自社の中長期の方向性を見極め、虚栄に陥らない本物の道を歩み続ける勇気と、そこに向けた支援の良しあしを見極める選球眼が重要となるだろう。