8月1日にグロービスは創業25周年を迎えた。1992年創業時の資本金はたったの80万円で、東京・三軒茶屋の僕のアパートを事務所にした。
創業4年目の96年に、ベンチャーキャピタル(VC)設立に果敢に挑戦することにした。ビジネススクールで起業家を育成し、VCによる投資で日本にベンチャーの生態系(エコシステム)をつくって社会の創造と変革を進めるのが目的だった。
初期の投資で最も成功したのがワークスアプリケーションズなどのソフトウエア会社だ。その後インターネット産業が革新的に伸び、「渋谷ビットバレー構想」を提唱した西川潔さんが創業したネットエイジに投資した。ネットエイジからミクシィが生まれ、大成功を収めた。
ネット利用ツールの主役がパソコンから携帯電話に移っていく段階で成功したのがグリーだ。携帯ゲームのプラットフォームとして影響力を誇った。その後スマートフォン(スマホ)が登場し、米アップルや米グーグルがプラットフォームを握るようになる。
現在日本で唯一の「ユニコーン(企業評価額が10億ドル以上の非上場のベンチャー企業)」として存在するのがスマホのフリーマーケットアプリのメルカリだ。さらにスマホ主体のニュースアプリを提供するスマートニュースやユーザベースがメディアのあり方を変えている。ほかにもクラウドソーシングのランサーズなどが働き方を変革している。最近ではドローンや人工知能(AI)、農業イノベーションを担う会社などに投資している。
近年のベンチャー企業の特徴として、経営チームの優秀さが目を引く。皆テクノロジーへの造詣が深い。「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」と言われる、2回目、3回目の起業に挑戦する人も多い。
東北で農業ベンチャーを始めた岩佐大輝さんや仮想現実(VR)アプリ作成ツールのインスタVRの芳賀洋行さんなど、グロービスの卒業生も各方面で活躍している。
近年はベンチャーからベンチャーが生まれることが連鎖して、ベンチャーの生態系が生まれている。グロービスの投資先でも、楽天をやめた田中良和さんがグリーをつくり、そのグリー出身者が動画メディアのエブリーを創業した。
成功した起業家でエンジェル投資家に転身する人も増えてきた。投資先だった、中古品売買サイト運営のビズシーク創業者、小沢隆生さんは同社を楽天に売却後、エンジェル投資家として名をはせ、今はヤフーで活躍している。
起業家のグローバル化もすごく進んでいる。ウェブ会議サービスのブイキューブの間下直晃社長はシンガポールに住み、メルカリ創業者の山田進太郎さんはサンフランシスコに拠点を移した。ユーザベース共同創業者の梅田優祐さんも米国展開に注力している。グローバルに戦っていこうという意欲が強い。
今後有望なのはテクノロジーを活用して既存ビジネスにイノベーションをもたらすベンチャーだ。金融と組み合わせたフィンテック、医療系のヘルスケアテック、教育分野のエデュテック、住宅分野のホームテック、自動車にかかわるオートテック、宇宙などの先端分野のフロンティアテックを加えて「6テックス」と呼ばれる。すべての業界がネットやAI、ロボティックスなどで劇的に変化するだろう。
「日本にベンチャーの生態系をつくる」という目標で始めたVC事業は、確実に実績をあげてきた。ファンドの規模も膨らみ第1号ファンドは5億4000万円だったが、16年に立ち上げた5号ファンドまでの累計では660億円になった。1件当たりの投資金額も約10倍に増えた。
今後さらに加速度的に日本のベンチャー生態系は進化するであろう。微力ながらも日本社会の創造と変革に貢献し続けていきたい。
※この記事は日経産業新聞で2017年8月18日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。