テクノロジーの進化で組織とリーダーはどう変わるか――落合陽一氏、安宅和人氏、小泉文明氏が語るテクノベート論

前回に続き、「あすか会議2017」から全体セッション「テクノベートが変える社会」をお届けします。(最終話)

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テクノロジーをどこまで理解すべきか?

堀: では、会場から質問を募りたいと思います。

会場: 経営者はテクノロジーをどこまで理解するべきだとお考えでしょうか。

落合: 「Ph.D.ぐらい取ればいいんじゃないですか?」っていつも言ってます。

会場: 妄想力を鍛えるためには何をすれば良いでしょうか。

会場: 採用はどのような基準ですか? 

落合: じゃあ、僕、3つ答えますね。まず、テクノロジーをどこまで理解するべきか。理解というか、もうテクノロジストであるべきです、本当は。テクノロジーベンチャーならテクノロジーのことを完全に理解したうえでやるほうがいいわけで。じゃあ「テクノロジーを完全に理解する」ってどういうことかっていえば、最先端を走ってるテクノロジーの文脈が理解できてるってこと。だから、ちょっと研究的な側面は持っていたほうが、むしろいいんじゃないかなと、僕は思ってます。

で、妄想力について。数式の話は大栗博司(カリフォルニア工科大学 理論物理学研究所所長、フレッド・カブリ冠教授)さんっていう理論物理の人と話をしていたとき、「そういえば大栗さんのラボってどうやって会話してるんですか?」って聞いたら「うちは数式」って言われて。それで「ああ、そうなんだ」と思ったのが理由です。「大栗博司さんのラボが数式で会話してるのに、俺たちが数式で会話しない筈がないじゃん」みたいな。

安宅: 大栗先生はたぶんIQ300ぐらいあります。

落合: 地球上の日本人で一番頭がいい。あと、ディープラーニングに関しては根性のほうが重要です。机を雑巾がけできる人とかのほうがディープランニングを世話するのは得意。いや、マジで、本当に。何も考えることがないから。目的があって、そのために「えいやえいや」って試行錯誤するところとか、すごく泥臭いから、本当に雑巾がけが得意な人がいいと思う。

安宅: まず、「経営者がどこまでテクノロジーを理解すべきか」っていうのは、完全に落合君に同意です。理数についてある程度分からない人とか、なんというか、今のAIと言われるものが一体何かを理解せずして会話してる人に経営者は無理だと思います。なので、もう退いていただくしかない。でないと、その会社は確実に潰れると思います。

で、妄想力については…、皆さん、妄想してません? この国はその辺について3歳ぐらいから英才教育してる。「ドラえもん」や「攻殻機動隊」で。結構、変態的な国なんですよ(会場笑)、世界的にも類を見ないレベルで。とにかく妄想力を鍛えたければ保育園か幼稚園に行って子どもたちとしゃべるとか、やれることはいっぱいある。まあ、なるべく周囲のスーツ着てる人と会話をするのは止めたほうがいいと思いますけどね(会場笑)。

僕はいろいろな審議会や委員会に出てますけど、僕以外の人は全員スーツですよ。「こんなことでいいのか」と。そういう服装で新産業構造ビジョンを考えるのは無理ですと、心の底から思っているその念を込めて世耕(弘成氏:経済産業大臣)大臣の前とかでお話をしたりするんですけど(会場笑)。でも、皆さん相変わらずスーツ。ということで、皆さんも脱スーツからやっていただきたいという感じです。あと、デープラーニングについてはさっきの話で十分。雑巾がけです。

落合: 遅刻しない人とかがいいです。

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「エモさ」を追求する

会場: 抽象度を高く保ったまま社員に理解してもらうため、小泉さんは日々どういった取り組みをなさっているのでしょうか。

小泉: 抽象度については、抽象度の高い話を抽象度が高いまま話し続ける、ということ以外にないと思ってます。だから、たぶん落合君の言う数式も同じだと思いますけど、やっぱり写真や映像のように言語だけじゃないものについては、感覚を感覚で理解してもらえるようなコミュニケーションをずっと続けています。「感覚で議論するよ?」ってことも言ったうえで、感覚で議論するというのはすごく大事だと思うので、とにかく抽象度の高い話をずっとするようにしています。

落合: ああ、うちも「エモさの追求」っていうのは言ってますね。

小泉: あ、「エモさ」っていうのはそうかもしれない。

会場: グーグル、アマゾン、フェイスブック、あるいはアップルのようなプラットフォーマーとはどのように戦っていけば良いとお考えでしょうか。

安宅: プラットフォーマーの話はさんざんしてきたんですが、AI的な話には情報の入口側、つまり意味を理解・処理する側と、情報の出口側、つまり車を運転したりモノを書いたりピッキング作業をしたりする出口側という風に、根底から2つに分かれてます。まあ、真ん中にファンクション的なものも実はあるんですけども。

で、入口側の画像認識や音声認識については、本当にデータ量の勝負。ここについては恐らくグーグルとフェイスブック、そして商品データについてはアマゾンを超える性能を出すのがほぼ無理というか、すでにゲームセットの可能性が高いです。メルカリさんが持ってるような、もう少し幅があるようなものについては、そのユニークデータが効くとは思う。ただ、いずれにしても入口側のゲームは、なんというか…、「AI as a Service」的なSaaS化しちゃってどんどん広がっていて、今はもう大量のサービスが出てきてます。なので、それを使い倒すという方向に向かっていることは間違いないです。

ただ、産業っていうのは90%以上が出口側に存在してるんですよね。農業でもなんでも。石油を掘るのですら出口側にある。情報認識側にはない。で、そっち側の…、僕は「バーティカル」と言ってますが、産業側のバーティカルに関しては、ほとんどの産業分野で日本はかつて1位を獲ったか、1~3位のどこかにいたりする。出口側をそれだけ持ってるわけです。で、今起きているのは、そこで情報を取ったうえできちんと学習して、情報の識別なり予測なり実行なりに使うということ。実はそこで出遅れたからトヨタがテスラに抜かれかかってる。だから、そういうことを真剣に、すべての分野でやるというのが我々の戦うべき道である、というのが日本全体に関しては考えてることです。

会場: 規制が強い教育分野でイノベーションを目指すとしたら、どんなことをしたいですか? 

落合: 教育については1つ思ってることがある。一時停止って重要ですよね。YouTubeには一時停止ボタンがあるから止められる。でも、テレビは止めらんないんですよ。で、大学の先生も止めらんない(会場笑)。小中学校の先生も。40回止めたら、クラスの人数分だけ一時停止したら、授業が進まなくなって永久に終わらないから。だから、これは構造的な欠陥だっていうのは、もうみなさんお気づきですよね。

明治時代にはテレビがなかったから教員はビデオの代わりに体を動かす人だったけど、今は1人1台スマホがあるなら、それで学べばいいじゃんっていうパラダイムチェンジが必要なんです。ただ、先生は必要。そこで強制力を働かせて様子を見守るっていうのが、たぶん正しい教育の仕方になる。うちのラボで「ディープランニングが分かんない」って言われたら、「じゃあスタンフォードのオープンコース受講してよ」って。それを翌週までの課題にして受講させながら、後ろで俺が見てるんです。「おい、さぼってんじゃねーぞ」とか言って(笑)。それは結構重要。

で、そういう強制力を働かせるっていうことが人間のコミュニケーション価値なら、コンテンツはその人が教える必要ないんですよ。その辺の問題をどう切り分けていくかっていう部分を僕はすごく重要視してます。劇場型の教育はコストが低いけど、別にソフトウェアがあればコストも一緒ですから。そこにいる全員分が解釈できるように書き下してくれるソフトウェアを書くっていうことを、1回やってしまえば、1年分の講義を考えるのとあんまり変わらない。そういうことをマジでやってかないとダメだなと思うんですよね。

会場: 落合さんがジェラシーを感じるような尖った人を1人教えてください。

落合: デミス・ハサビス(Google DeepMind CEO/人口知能研究者)。あと、この前アレックス・キップマンに会ったんだけど、やっぱりめっちゃ頭いい。ホロレンズをつくった人。

会場: 私は市役所に務めていて、どちらかというと暗い未来ばかりを想像しがちなんですが、今日お話を聞いてすごく明るい未来が見えてきました。同様に、世の中の方々へ明るい未来を発信するための何か一言をいただけたらと思いました。

会場: 日本のアカデミックには、落合さんのように尖ったことをやっている方が少ないように感じます。なぜ日本のアカデミックには虚数軸的な研究でなく企業の実践に寄った研究が多いのかについて、何かご見解等あればお聞きしたいと思いました。

落合: アカデミックな世界がなんで「丸い」かっていうと、Ph.D.取ってないと職に就けなくて、で、Excel埋める仕事とかがやたらと多いんですよ。それって市役所なんですよね。日本でアカデミックって言われてるところのほとんどは市役所なんです。

そこで、僕がやったことで一番良かったのは、博士課程1年生のとき、「博士になったから秘書を雇おう」と思って24歳のときに秘書を雇ったこと。「こなつ」っていう女の子なんですけど。彼女を雇ったことが俺の人生がブレイクするきっかけ。僕は苦手な作業は何もしない。僕、LINEとかメールとかマジで返せないんですよ。それが来た次の瞬間、なんか忘れちゃったりする。だから大学で働きはじめた頃は「首からノートぶら下げますか?」とか言われてたんですけど、「嫌です。メール返しません」みたいな(笑)。「だけど秘書さんを雇えば返せますよ?」って。それで雇ったんです。

それがすごく重要。僕はExcelも埋められないし、メールも返せないし、言われた仕事をすぐ忘れちゃうから、誰かサポートがいないと無理なんです。でも、サポートしてくれる人がいれば他の教員の500%ぐらいのパフォーマンスを出せる。これはすごいことで、200%の給料、要は2人を雇うことで500%の仕事ができるならそっちのほうがいいわけじゃないですか。

ただ、そういう考え方は一般的な“市役所”で簡単には受け入れられない。だから“市役所”を口説くのに1年ぐらいかかったけど、1回変えちゃうと、市役所は隣のルールはそのまま受け継ぐことができるから、今度はだーっとカスケード的に変わってく。今はそういうことを目指してます。だから、たぶん10年するともっとアカデミックも楽しくなってると思いますよ? 

安宅: 「明るい未来を」というのは明るくなるための視点が欲しいってこと? 

落合: 「おばあちゃん死なないで。85歳になったらトラクターがスマホで操作できるようになるから」っていうポスターを貼りましょうっていう話じゃないですか?(会場笑)。

安宅: ああ、そういうこと。まあ、我々は老化しなくなりますよ、これからは。老化する時代はもうすぐ終わって、死ぬ2日ぐらい前まで元気に生きてると思います。そういう時代へ急速に向かってる。PEZY Computingの齊藤(元章氏:同社創業者兼代表取締役)さんは「もう我々が不死になるまで数十年しかない」という驚くべき予言をしてました。僕はそこまでは思わないけど、死ぬまでは限りなく元気にいられるようになるとは思います。そうして年齢や性別から解き放たれた人生を送る日がまもなくやってくるんで、そういう意味では楽しく、がんがんやっていけるんじゃないですか? 

堀: じゃあ、最後のメッセージを。みなさんも一言ずつ。

小泉: すごい締めの振り方というか(会場笑)。今回は抽象的で右脳的な話が多かったから、今日はその半分ぐらいしか理解できなかったとしても、それでいいと思うんですよね。結局、そういう風にして脳みそのなかでイメージをつかみ合いながら、次の社会をつくっていかなきゃいけないと思うので。皆さんはこれから会社に戻って未来を変える当事者になるだけだと思います。なので、今日の話についてもあまり深く考えず話半分に聞いて、あとは「なんか変えましょう」というだけでいいかな、と(会場笑)。

落合: 僕が市役所で働いてる図って想像できないじゃないですか。でも働いてるんです。つまりそういうことなんです。そのいびつな社会もやがてきれいになっていくってことで、今はその精算期なんですよ。それは近代の超克であって。

1つだけ持って返って欲しいことがある。我々が思考言語に使ってる日本語はほぼ近代語です。どういう意味か。フランス人権宣言以降の近代社会は「人間の人間による人間のための社会」であり、それをつくるためにつくられた言葉を、たとえば福沢諭吉とかがすごく頑張って日本の言葉にしていった。だから我々は日本語で考えてる時点でコンピュータの世界に行けないわけで、頭のなかでは他の言語体系で考えたほうがいい。

僕の頭のなかにインストールされてるのはラテン語と中国語と英語です。ラテン語と中国語はしゃべれないけど読める。で、英語はしゃべれるけど、頭のなかでそれらを日本語と組み合わせながらモノを考えてます。日本語で考えるのをマジで止めたほうがいいんですね。脱日本語。それか、仏教の言葉を勉強するといい。明治に新しくつくられた言葉のほとんどは仏教語からの輸入だから。とにかく、そうしないと日本語ってアップデートできない。僕としては、中日辞典をポケットに入れて、「この2字熟語は中国語でどういう意味なんだろう」って考えたりしながら生きるっていうのがおススメです。

安宅: もう何を言ったらいいのか分からないんですけど(笑)、まあ、皆さんそんなに心配しなくていいですよ(会場笑)。技術というのは僕らのために存在してるわけで、使い倒せばいいだけですし、使えないものは広まらない。ですから皆さんが使えるものしか出てこないわけで、つまり使えるようになるわけです。で、落合君が言っていた通り、ディープランニングを実装するだけならたいしたことはないので。その研究者はきついですよ。でもその研究者の人なんてほとんどいないから、心配しなくていい。

その領域のトップレベル研究者は世界でも100に足らないぐらい。だからそういう人の話をしてるわけじゃないっていうことです。皆さんは車に毎日乗っていても車のエンジンは設計できないでしょ? この日本で、過去50年ぐらいの間にまともなエンジンを設計した人なんて100人いるかどうかですよ。これだけの車大国でも。そういうものなんです。だから、そういう話をしてるんじゃなくて、車の乗り方や技術の使い方について議論をしてるわけで、その辺を混濁しないでください。「大丈夫です。やっていけます。我々は生きていけます」というのが僕の最後のお話です(会場拍手)。

堀: 今回、控室で「今日は何を持って帰ってもらいましょうか」と聞いたら、「ぽかーんとしてもらったらいいんじゃないですか?」と言われて(会場笑)。その意味では、未来がどうなるか、社会がどう変わっていくかについては、まあ、今日は漠然とした感覚で話を聞いていただきつつ、今後は皆さん自身が考えていく必要があると思いました。

ただ、テクノロジーが社会を変えていくことは明らかだと思うので、グロービスでも「テクノベートMBA」ということで必要な部分はどんどんカリキュラムに落とし込んでいきます。教授会でも「すべての科目にテクノベート要素を入れよう」ということを決めました。なので、ぜひ皆さんもテクノロジーに触れて、ディープランニングやAI、あるいはビッグデータといったものに慣れていってください。多くの人に関心を持って、多く人の話を聞いたり本を読んだりして、皆さん自身でも学んでいっていただけたらと思います。ということで、今日は壇上の御三方にお越しいただいたこと、感謝して終わりたいと思います。どうもありがとうございました(会場拍手)。

 

 

≫「なくなりにくい仕事の共通点とは――藤原和博氏が語るAI時代にも価値を創出する働き方」[1]
≫「ジグソーパズル型からレゴ型学力重視へ――藤原和博氏が語るAI時代にも価値を創出する働き方」[2]

 

 

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