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【日経コラム】プロスポーツ経営の難しさ

投稿日:2017/04/05更新日:2019/04/09

出身地である茨城県のプロバスケットボールチーム「サイバーダイン茨城ロボッツ」のオーナーになってから1年近く経過した。2016年秋に始まったBリーグはシーズン終盤にさしかかっている。僕は今、スポーツチーム経営の難しさをひしひしと感じている。

Bリーグ発足に尽力した川淵三郎氏が2月、水戸市で開かれた地域団体の記念セミナーでスピーチされた。僕は手をあげて質問した。

「ロボッツは目下ホームで9連敗中です。フロントとして何ができるでしょうか」

約1年前に僕が出資したとき、ロボッツは実業団主体のリーグであるNBLで成績と観客動員数がともに最下位だった。僕は、オーナー就任にあたって4つの宣言をした。(1)スポンサーを倍増し、(2)観客動員を倍増させ、(3)B1ライセンスを取得し、(4)B2を制覇しB1に昇格する――だ。

スポンサーと観客倍増、B1ライセンスの3つの宣言は実行できた。だが4つ目の「B2制覇B1昇格」という今期の目標は厳しい状況だ。特にホームでの連敗はきつく、何とかしたいと焦りが募っていた。

川淵さんからの答えは「フロントは戦術や選手起用に口を出すべきではない。よい監督を選び、良い選手をリクルートしたら、あとは監督と選手を信じるしかない」とのことだった。

その後、僕はアドバイス通り、監督と選手を信じ続けた。だが、ロボッツはさらに負け続けてホーム13連敗を喫した。試合後には観客からやじが飛び、「なんでこんなに負けるんだろう」と本当に落ち込んだ。

僕は大学院で経営学を教え、ベンチャーキャピタルを通して数多くのベンチャー企業の経営に携わってきた。だが、会社の経営でこれほどの負けを経験したことがなかった。スポーツ経営と普通の会社経営とは根本的に違うのだ。

スポーツ経営の特徴は、経営フロントとチームがまったく違う組織で動いていることだ。経営フロントにできるのは収益をあげることだ。広く告知して多くの観客を動員する。企業訪問をしてスポンサーから資金を集める。さらにはスクールを開いて、グッズを販売する。アリーナを整備してライセンスを取得する。これらは一般的な企業経営と同じで、僕にも自信がある。

だが、スポーツチームが勝てるかどうかは、全く別次元の話だ。川淵氏によると「経営フロントは口出しすべきでない」と言うのだ。僕らにできることは、収益をあげ、よい監督と選手を獲得し、あとは信じるだけなのだ。

そうはいっても、少しでもチームの勝利に貢献したい。そこで僕は他のファンと同じようにロボッツの真っ青のユニホームに身を包み、ホームでもアウェーでもコートサイドで大きな声を出して応援している。

僕がロボッツを応援する写真をソーシャルメディアにアップしたとき「マーク・キューバンみたいですね」というコメントが来た。起業家であるマーク・キューバンは米プロバスケチームのオーナーでもある。彼は高いオーナー席から見下ろして観戦するのではなく、コートサイドでユニホームを着てファンとともに応援する。まさに僕がやっていることだ。彼がオーナーになって以降、弱小チームは、NBAファイナルに初めて進出するまでに強くなった。

そしてロボッツが再起動した。経営フロントの進言に従い、「スーパーバイジングコーチ」を置き、さらに新たな選手の獲得にも乗り出した。その結果、長かった泥沼を脱し、過去8試合では7勝1敗、ホームでは13連敗後に現在4連勝をしている。まさにV字回復だ。

「B2制覇B1昇格」の目標をまだあきらめてはいない。今季できなくても必ず来季には実現したい。プロスポーツチーム経営の難しさをかみしめながらも、一歩一歩前進している。

※この記事は日経産業新聞で2017年3月31日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

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