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経営の未来

投稿日:2008/07/28更新日:2019/04/09

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戦略の革新を生み出す組織管理、個人の可能性を最大限に引き出す経営管理こそが、これからの競争優位の源泉となる――。今回は、経営論、イノベーション論の大家としても知られるゲイリー・ハメルの著作を取り上げる。グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。

本書は、今年2月に邦訳版が発売された。今年上半期のベストビジネス書の一冊に数えられるだろう。小職はハメル、ゲイリーの新著は必ず読むのだが、毎回感じるのは、その軸が一貫しており、ぶれない点である。具体的には、『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞社)以来、一貫して、精緻な分析に基づいたポジショニングよりも、新しい価値を創出するイノベーションと、そのための組織のあり方について提唱している。

経営学の体系の中では、マイケル・ポーター的な戦略論(ポジショニング、コンテント重視)とは一線を画しており、「組織学習」で有名なクリス・アージリスやピーター・センゲ、「創発的戦略」で知られるヘンリー・ミンツバーグの系列に属する(余談ながら、古いタイプの画一的MBA教育に批判的なところも、ミンツバーグに似ている)。

前著『リーディング・ザ・レボリューション』(日本経済新聞社)では、イノベーターたちが、企業内部でいかに(戦略的な)イノベーションを起こすかを、事例に基づいて、プロセスに沿った解説を繰り広げ、そうしたイノベーションこそが、劇的に企業価値向上に結びつくと説いた(ベンチマークとなる先端事例としてエンロンを積極的に取り上げていたのは、今となってはご愛嬌だが)。そして、劇的なイノベーションの際には、時にはポリティカルに見える立ち振る舞いも必要だという主張は斬新であった。

今回は、イノベーションを階層化し、「経営管理のイノベーション」が「戦略のイノベーション」や「製品のイノベーション」、「業務のイノベーション」よりも重要かつ上位に来ると明確に位置づけ、その上で、新しい経営管理のあり方についてヒントを提示している。

「戦略の革新こそが、(新しい)価値創造、成功の鍵である」というこれまでの主張を前提とした上で、その戦略の革新を生み出す組織管理、個人の可能性を最大限に引き出す経営管理こそが、これからの競争優位の源泉となる、という発想である。そのためには、既存のパラダイムを抜け出し、メンタルモデルを変えることが必要だと説く。

ハメルは比喩の達人でもある。本書では、新しい経営の原理として、以下の5つのキーワードを、比喩を交えながら説明している。勘の良い方は、このキーワードを見るだけでもハメルの主張や思想が想像できるのではないかと思う。ここでは詳細は説明しないので、未読の方は予想しながら読み進められると面白いだろう。

生命-多様性

市場-柔軟性

民主主義-積極的な参加

信仰-意味

都市-幸運な出会い

ところで、ハメルは、これまでの伝統的な経営管理の原理――「標準化」「専門化」「目標の一致」「階層組織」「計画・管理」「外的報酬」――についても触れている。もちろん、これらを全否定しているわけではないが、これに囚われてしまいすぎるとイノベーションや新たな価値創造の先陣を切ることはできないというのが彼の考え方である。

彼の主張はいちいちもっともで印象的なのだが、すぐに湧く疑問は、一から組織を作れる立場にあるベンチャーならば、直ちに新しい実験に取り組めるかもしれないが(本書で挙げられているグーグルはその典型だ)、大企業はどうすれば新しい原理へと移行できるのかということだ。これに対する絶対的な解は彼自身まだ用意できていないようだが、ヒントはあるので、ご興味のある方は一読されるとよいだろう。

もう一つの疑問は、彼のいう新しい経営管理の原則を身につけないと、本当に勝ち残れないのかという点だ。これについてもさまざまな議論があるだろう。GEなどとならび「尊敬される企業ランキング」上位に顔を出すエマソンなどは、むしろハメルの言う伝統的な経営管理の原則の優等生とも言える。こうした多様性こそが経営の醍醐味とも言えよう。

新しい経営論に盲目的に飛びつくのではなく、その前提、主張の全体像をしっかり理解することが重要なのだ。ハメル自身も述べているが、本書は1つの可能性を提示するものであり、「同じように行え」という模範を詰め込んだ書籍などではないからである。

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