世界を動かす「インナーサークル」がある。僕が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)へ参加するたびに感じていることだ。国際機関トップ、各国首脳、中央銀行総裁、大企業トップ、著名ジャーナリストなどがプライベートな会合を数多く開いている。そこで世界の諸問題を議論し、解決に向けたアクションが決められる。
そのインナーサークルの一員となり意見を述べ、世界の諸問題にポジティブな影響を与える――。これが僕が目指している「グローバルリーダー」の姿である。
グローバルリーダーの仲間入りをするには、数多くの見えない階段をのぼっていく必要がある。それぞれのステージにふさわしい実績を積み重ね、見識を高め、人間性を磨き、人的ネットワークをつくり、有力者に推薦され招待される必要がある。
そのためには自らの存在が認められなければならない。誰がどう認めてくれたのかが、わからないことも実は多い。僕が最初にダボス会議に呼ばれたのは、40歳頃だった。誰にどう評価されたかは、いまだにわかっていない。だが、参加さえできれば、そのコミュニティーの一員だ。そこから見えない階段をのぼっていくプロセスを歩むことになる。
40代前半に参加した2回目のダボス会議は、正直言って、圧倒されて慣れるのに精いっぱいだった。40代後半に正式に招待されるようになってからは、存在感を発揮するように努力した。誘われたイベントには可能な限り、はせ参じて参加者と積極的に話をする。セッションでは、できるだけ発言して、良い印象を持ってもらえる努力をする。「あいつはなかなかいい」と思われれば、プライベートな会合にも誘ってくれる。そういう地道な努力を経て、見えない階段を一歩一歩のぼっていくのだ。そのためには戦略も必要となる。
まずは、セッションに登壇することを意識した。小さな分科会セッションが中心ではあるが、ダボス会議で8回連続で登壇できている。公式プログラムに名前があり、聞いてもらえる機会があれば、存在を認めてもらえる。パネリストとも親しくなれる。英国の元首相のゴードン・ブラウン氏とご一緒したこともあった。
次に意識しているのが様々なコミュニティーへの所属と貢献だ。僕は500社近くで構成される「世界の成長企業」のボードメンバーに選ばれ、過去3年間は共同議長を務めさせてもらった。このコミュニティーを通して、世界の成長企業のリーダーと友達になれた。
数年前からは世界の諸問題を解決する評議会の一員として、新しいリーダーシップ体系について議論してきた。著書「ワーク・シフト」で有名なリンダ・グラットン氏、「EQ」で著名なダニエル・ゴールマン氏も評議会の一員だ。世界の有識者と親しくなる絶好の機会を得た。
新たな試みを数年前から始めた。ダボス会議会期中の夜に「グロービスナイト」を開催しているのだ。日本酒「浦霞(うらかすみ)」を振る舞い、三味線の音楽をかけ、剣玉やお面など日本的な催し物を披露し、プレゼントする。毎回100~200人ほど来てくれている。
今年のダボス会議では、インドネシアのリッポー・グループのジェームズ・リアディ最高経営責任者(CEO)と共同で「アジアの友達ディナー」を開催した。韓国の新聞社のオーナー社長、中国最大のソフトウエア会社の社長、シンガポールの元外務大臣などと親しくなることができた。
確実に見えない階段をあがっている気がする。「何のために頑張るのか?」と自らに問うてみると、「世界の諸問題を解決できるグローバルリーダーになりたいからだ」と答えが返ってくる。その思いが僕の原動力になっている。
※この記事は日経産業新聞で2017年2月17日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。