キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

Home Techの最新事情と課題

投稿日:2016/08/24更新日:2019/04/09

Home Tech最新事例~スマートホーム時代に向けて~[1]

東明宏氏(以下、敬称略): まずは今日のお話のエグゼクティブサマリーからご案内したい。今回のテーマ「Home Tech」は2つに分けると理解しやすくなると思う。1つは「Real Estate Tech(Re Tech)」と呼ばれるもので、こちらは「不動産テック」と呼ぶ人もいる。いわゆる不動産メディアに代表されるような、不動産領域における情報の非対称性解消、そして不動産取引の効率化を目指す領域だ。一方、「Smart Home Tech」のほうは家自体をプロダクトと見立て、そのプラットフォーム化やデータベース化を目指す。この2つの領域の総称としてHome Techと呼ばせていただきたい。

Real Estate Techのほうはバリューチェーンが相当幅広い。会場の皆さんも物件を借りたり買ったりしていると思うけれども、そのプロセスを見てみると、物件の比較・検討、契約、あるいはローンといった各プロセスにチェーンがある。そのバリューチェーンごとに整理して考える必要があると思う。ただ、Real Estate Techはアメリカでも比較的盛りあがっているものの、状況は各国で異なるし、アメリカで成功したものが日本でも必ず成功するとは限らない。従って今日は日米の構造の違いもご説明したいと思う。Real Estate TechもSmart Home Techも、住環境の変化やIoTの流れを受けて大きな変化の兆しを見せている。

さて、改めてHome Techとは何かというと、読んで字のごとく、「不動産や住まいにテクノロジーを掛け合わせましょう」というものになる。そこで、不動産や住まいに関する各バリューチェーンと、各チェーンに関係してくるユーザー、そして各チェーンにどんなテクノロジーが掛け合わせられてくるのかを整理してみたい。まずは物件選びと比較を経て、契約・ローンや引っ越しがあり、そのあと実際に住んで、メンテナンスを行い、場合によってはリノベーションやリフォームを行ったりして、最後は売却する方もいらっしゃるわけだ。その各バリューチェーンに関係するのは、一般ユーザーとさまざまな不動産事業者。後者は仲介会社や管理会社等々、すごく細かい。中小の事業者が多いこともこの領域の特徴だ。そして、そこにビッグデータやAI、モバイル、IoT等が掛け合わさり、全体でHome Techになる。

Home Techの目的は、大きく分けると2~3つに集約すると考えている。Real Estate Techの方は不動産情報の非対称性を解消すること。また、不動産取引の効率化がある。まず前者に関して言うと、とにかく不動産領域の情報は日本でもアメリカでもすごく不透明だと言われていて、そうした情報の非対称性を解消が1つの目的になる。現状ではいろいろなところにいろいろな不動産情報が載ってはいるものの、何が正しくて何が間違いで、何がフレッシュで何が古い情報かが分かりづらく、そこが不透明だと感じたことは皆さんもあると思う。そこをテクノロジーで解消しましょうというのが1つの目的になる。また、不動産の領域は世界的に大変アナログだ。皆さん、いまだ紙を使っていたり、ITテクノロジーをまったく使っていなかったりする。「それをITで効率化しましょう」と。この2点を目的としているのがReal Estate Techだと考えている。

一方、Smart Home Techの目的は家自体の価値向上。家をプロダクトに見立て、もっと便利にするという目的がある。そうして自動化やエンターテイメント化を図っていくのがSmart Home Tech領域だと考えている。

Real Estate Techの最新情報

まず、Real Estate Techが今どんな文脈でホットな話題になっているかを少しご紹介したい。今年に入って、不動産業界が持っている不動産のデータベース情報を、Yahoo!不動産には提供しないことを決めたというニュースが話題になった。

少し詳しくご説明したい。皆さんがいつもご覧になっている物件データベースの根元の情報は、業界に加盟している人しか参照できず、情報はすごくクローズドな状態で流通している。その大元情報を、業界に加盟している会社を通じてユーザーは見ている。従って、それを止められるとYahoo!不動産としても大変困ってしまう。では、なぜそんな話になってしまったかというと、Yahoo!不動産とソニー不動産が合弁会社を作り、不動産売買の領域で家を売りたい人と買いたい人を直接マッチングするサービスを始めたことに起因する。

不動産業界では、たとえばマンションを売りたい売主とマンションを買いたい買主の両方から、仲介会社として売買金額の3%+6万円をもらうということがある。Yahoo!不動産とソニー不動産は「その仲介会社を抜きますよ」と宣言してしまったわけだ。業界としては、ヤフーが不動産仲介会社の立ち位置を始め、ヤフー不動産のメディアとしての中立性に疑問があるとのことで情報提供を止めたということだが、Yahoo!不動産とソニー不動産の取り組みが不動産業界に対し、インパクトをもたらしたのは間違いない。

日本の不動産業界構造を見てみると、売買・賃貸を仲介する領域に利益関係者がすごくたくさん人が入り込んでいる。売主と買主の両サイドにそれぞれ1社、都合2社の仲介業者がいる場合もあれば、同じ会社が売主と買主の両サイドに付いているケースもある。賃貸も同様だ。オーナーと借主の両サイドにエージェントがいて、それぞれお金が動いている。ユーザー側からすると中間に人が多く、情報もお金もそこで抜かれているというような、非効率な構造に見える。これをなんとか解消したいというのが冒頭でお話ししたReal Estate Techが目指している世界、最近出てきているベンチャーの動きでもある。

そんなReal Estate Techは、現在米国でも日本でも投資額・投資件数ともに伸びていて、米国では全体でおよそ17億ドルが投資されているといわれている。日本でもいくつかの会社が数億規模の調達をして業界を変革しようといった動きが出ている。ただ、日米で環境を比較してみると、中古住宅の流通は圧倒的にアメリカである。築年数が古い物件も流通しているのがアメリカである。

その背景には消費者のマインドがあると思う。やはり日本では新築主義がすごく強い。アメリカではそこが比較的合理的で、家を投資対象として見ている方も多い。それが不動産流通量にも影響しているように思う。ちなみに、会場で家を買われた方はどれほどいらっしゃるだろう(会場多数挙手)。…結構いらっしゃる。では、新築を買ったという方はどうだろう(同じく会場多数挙手)。…やっぱりほとんど新築だ。つまり新築主義で、かつ家に対して家族の集う特別な場所(だから投資対象だなんて)といった「思い」も、日本の場合はすごく強いのではと思う。

情報の透明性に関しては日米ともに高くない。基本的に、日本ではREINS(不動産流通標準情報システム)というデータベースを不動産事業者の方々が使っていて、それをユーザーは見ることはできない。あと、税制もかなり違う。日本ではいろいろ税金がかかってしまうけれども、米国は比較的住宅を取得しやすい環境になっている。従って、全体的には日本のほうが難しい状況にあるのかなというのを、日米の環境や構造を比較していて感じる。

ただ、昨今は日本でも変化が起きている。まず、政府の不動産に対する態度が変わってきている。たとえば空き家問題。今、日本では7軒に1軒、およそ820万戸が空き家だと言われている。これをどうにかしなければいけないという政府の意識がすごく強い。それで、空き家問題がメディアで報じられない日は少ないというほど、最近はすごく議論されているという実感がある。

また、日本では中古住宅の流通も欧米に比べて著しく少ない。現在の中古流通は全体の約15%だけれども、これは欧米の1/6。空き家は多いし中古は流通しないしで、「どうにかしなくちゃ」という政府の動きも最近目立ってきた。それが不動産業界を大きく変化させる要因になっている。現在、政府はそのほかにも不動産ネット取引解禁の議論を進めていたりするし、政府や自治体が持つ不動産関連データをオープンにしようという動きもある。そんな風に政治がすごく動いているというのは、今の国内不動産業界を考えるうえで1つの大きなトピックだと思う。

同時に、今は顧客も技術も事業者も変わってきた。まず顧客に関しては皆さんご承知の通り、昨今はネットでの情報収集やネット起点の購買行動がさらに進んでいる。また、会場の皆さんは新築が多かったけれども、最近は新築以外の選択肢を考える方も増えてきた。そうした意識の変化が見られる。それに対応して「事業者側も変化しなくては」ということで、今は中古指向への対応や、新築売り切り型ビジネスからの転換の議論も活発になってきたと認識している。当然、IT化による業務効率化の動きもある。スマホやタブレットやIoTなどの技術の進展もあり、国内不動産業界も大きく動いてきたというのが最近の状況だと思う。

代表的なサービスは?

では、領域別に代表サービスを見てみよう。相当、数が多い。不動産領域はそれだけ領域が広いことを分かっていただければと思うけれども、ここではユーザーサイドと事業者サイドを分けて、それぞれどんなサービスやソリューションがあるかをまとめてみた。まず、ユーザーサイドは、興味を持って比較・検討して、問い合わせを行うというフェーズにはじまる。そのあと来店・来場して、契約を締結する一方、保証サービスに加入したりローンを組んだりするフェーズがある。そのあと引っ越しやリフォームがあって、最終的には売却および不動産投資につなぐ。そういう一連の流れのなかで、たとえば不動産情報サイトやオンライン契約締結サービス等、メディアやソリューションが各領域に埋め込まれているわけだ。

一方、事業者サイドはというと、物件管理や物件仕入および建築といったフェーズからはじまる。そして集客やご案内を経て契約締結および保険加入やローンを組むというフェーズがあり、そのあと引っ越しやリフォームを経て売却・不動産投資がある。それらの各領域に対応して事業者の経営支援や物件管理を行うクラウドのサービスがあったり、集客ツールがあったりする。バリューチェーンごとに細かくサービスが提供されているわけだ。

ただ、これだけだと具体的なイメージが湧きづらいと思うので日米の事例をいくつかご紹介したい。まずアメリカのZillow。アメリカにおけるReal Estate Techのサービスでは一番有名な事例だと思う。2007年創業で2011年に上場した。売上は600億超で、時価総額は$2.8BN超という会社だ。同社サービスはシンプルだ。独自のロジックで不動産価格を算定してユーザーに提供している。ただ、そのロジックがユニークで、実際に払った固定資産税の額等、地方公共団体が提供するオープンデータを活用している。また、物件の場所や面積・区画、さらにはベットルームやバスルームの数まで含めた細かいスペックを取得して価格を提示する。今は全米で1億1000万件以上の不動産データを保有している。

今は日本でも同じような動きがあり、たとえばネクストさんが「HOME’S プライスマップ」というサービスを公開している。アメリカからは7~8年遅れてのスタートだけれども、いずれにせよ、今は不動産価格情報等をユーザーに直接情報を提供することで情報の非対称性を解消しようというテクノロジーが出てきている。

続いてアメリカのREDFINという会社。こちらは2004年の創業だ。未上場なので売上状況は分からないけれども、少し古いデータだが、およそ5億ドルの時価評価を受けていて、200億ドル以上に相当する住宅を流通させていると言われている。同社もZillowと同じく物件の価格情報を提示しているサイトだけれども、1つユニークなのがエージェントを会社に抱えている点。メディアとして情報を伝えるだけではなく、実際に動かすところまでやっている。

また、REDFINは仲介にあたって、従来よりコミッションを引き下げている。それで差額はオーナーのポケットに入ったりユーザーに還元されたりしているので、ユーザーにも優しいということだ。先ほど申しあげた通り、不動産領域はいろいろな人が関与していてすごく複雑だ。また、できれば信頼のおける「人」に頼みたいというニーズも底堅い。従って、テクノロジーに加えて「人」を配した同社のような事業モデルに対するニーズは高いのでは、ということで紹介させていただいた。順調に行っていればそろそろ上場してもおかしくないので、このモデルが通用するのか、業績が気になるところではあるが。

続いては国内事例。まずは先ほどのYahoo!不動産×ソニー不動産。こちらはソニーが設立したソニー不動産に、ヤフーが投資したという流れになる。不動産のCtoC取引実現を目指し、仲介をなくして個人と個人が売買するモデルを狙っている。ただ不動産業界との関係性が難しくなってしまっている中で今後どう事業展開していくのか注目だ。。また、同様のモデルにベンチャーも参入してきている。「マンションマーケット」「ハウスマート」等、不動産会社出身の方やインターネット企業出身の方によるベンチャーも数社立ちあがってきた。それで、Yahoo!不動産もそうしたベンチャーも、時間はすごくかかるかもしれないが、本来はこうあるべきなのではということで頑張っている。

イタンジという会社も紹介したい。今ご紹介したベンチャーとはまた少し違った角度で不動産業界を変革しようとしている。提供しているのは、管理会社向けの「ぶっかくん(物確君)」という業務支援ツール。これはすごくアナログな形だけれども、物件を管理する管理会社と仲介会社をつなげるシステムだ。今、日本の賃貸業界で日々どんな風に業務が行われているか。皆さんは仲介会社に行けば、そこで物件の資料をいろいろと提示される。そうして、「じゃあ、ここを見てみたいです」と言うと、仲介会社から管理会社に電話をして「この部屋はまだ空いていますか?」と問い合わせる。フレッシュじゃない情報が流通している可能性があるから、その都度確認をしなければいけないわけだ。そんな非効率なことが行われている。

そこで、朝、管理会社が「この物件はまだ空いています」ということを「ぶっかくん」に登録すると、自動的に音声がガイダンスをしてくれる。仲介会社の営業マンがAマンションの空き室を確認しようと思って電話をすると、自動的に応答してくれるサービスだ。アナログでベタなシステムだけれども、すごくウケている。そんな風にして、フレッシュな情報がなかなか流通しない不透明な日本の不動産業界で、フレッシュな情報提供を進めているのがイタンジだ。

同社はこのほか、オンライン完結型の不動産賃貸サービス「Nomad」というものも提供している。これはオンラインだけで不動産賃貸取引が完結するサービスだけれども、同社はこれでBotを利用した仲介にもチャレンジしている。たとえば「A物件に興味があります」と話しかけると、「その物件はまだ開いているので大丈夫です」と答えてくれたりする。あるいは、「市ヶ谷で1LDK。バストイレ別で10万円ぐらいの空き部屋はないですか?」と問い合わせると、それに応じた部屋をBotが案内してくれるといったサービスになる。そんな風にして、不動産領域に新テクノロジーを持ち込んでいる。

不動産業界変革のためのハードルとは?

最後に不動産テックによる、業界の変革実現のための3つのハードルとして私が考えているものを改めてお話したい。前段と重複するところもあるが、。1つ目のハードルは、情報がアナログで、かつ偏在していて不透明という点だ。2つ目のハードルが規制および利害関係者との調整。そして3点目のハードルは、消費者の住まいの対する意識だ。

まず1点目に関して。重ね重ね申しあげている通り、不動産領域は情報の非対称性が高い。従って改革しがいはあるものの、すごくアナログということもあり、デジタルへの移行、あるいは偏在している情報をまとめていく作業も不可欠になる。たとえば、まだ住宅の売主には年齢が高めの方が多い。なので、ITにも馴染みがなく、町の不動産事業者のほうが信用できるといった感覚がある方も多いと思う。そのような人の感覚がありながら、どのようにデジタルへ移行するのかという課題が、まずはハードルとして挙げられる。

2点目が規制および関係者との調整。先ほどYahoo!不動産の事例をご紹介したけれども、既存の事業者との調整をどのように行っていくかも重要だ。構造が複雑だから、中抜きすればよいのだ、というほど構造はシンプルではない。複雑に見える構造にも意味がある。既存のプレイヤー、新しいプレイヤーでどのような構造を作っていくのかもポイントだ。あと、規制面でも未だハードルがある。オンラインですべてを完結させるのは法律上まだ難しかったりする面もあるので、そのあたりを調整する必要があると思う。3つ目が日本人のマインド。新築主義だったり、「終の棲家」といった意識。これも変わり始めてはいるものの、まだまだ乗り越えていかなくてはいけないハードルだと思う。

Smart Home Techの最新事情

Smart Home Techについて考えるうえで転換点になったトピックが、GoogleによるNest Labs社の買収だと思っている。買収額はおよそ3200億円。で、さらにそのNest Labsが5億5000万ドルでDropcamという会社を買収した。要するにGoogleがすごく積極的に「取りりにいった」ということで、業界としてはすごく盛りあがった…はずなんだけれども、最近はそのNest LabsのCEOが退任したというニュースもある。なので、一旦盛りあがったものの、「なかなか難しいんじゃないか?」というのが、今業界でSmart Home Tech
について語られるときの論調になってきていると感じる。

スマートホームの市場規模自体はすごく大きいと言われていて、2018年までに10兆規模まで拡大するのではないかというデータもある。一方で、「スマートホーム的な機能を備えた家庭は、2021年までで15%前後の普及率に留まるのでは?」といった予測もある。

そもそもSmart Home Techとはどういったものなのかというと、領域としては「エネルギーコントロール」「ホームセキュリティ」「ホームヘルス」「エンターテインメント」の4分類ぐらいに分けられる。(KDDI総研R&A 2015年4月号より引用)

もう少し詳しく、いくつかの事例をご紹介したい。まずはNest Labs。Smart Home Techの代表的事例だと思う。もともとiPad開発を成功に導いたトニー・ファデル氏がつくった会社で、それをGoogleが32億ドルで買収した。どんなプロダクトかというと、家屋の温度調整や火災報知機の機能を備えたデバイス「Nest」をスマートフォンで操作できるというものだ。デバイスは1台2万円強だけれども、「それで電気代やガス代を節約できるから1年で回収できる」といったことを宣伝していた。そのうえでサードパーティとの連携もできるため、Googleとしては「Nest」にいろいろな機械を接続してもらうということを狙っていた。こちらは今でも売られている。

続いて「Amazon Echo」。今はこちらが台風の目になるのでは、と言われている。2万円弱の円筒スピーカー型デジタルアシスタントが、音声を認識していろいろなことをしてくれるというものだ。「音楽を再生してくれ」と呼びかけるとAmazonのプレイリストから再生してくれたり、「Kindleを読みあげてくれ」というと読みあげてくれたり、Amazonで注文履歴があれば、「あれ、もう1回買っといて」と言うことで再注文してくれたりする。そんな風にして音声を通じたアシスタント機能を果たしてくれる。ジェフ・ベゾス氏は今これに大変力を入れていて、1000人以上のスタッフを突っ込んでいるという。目下、こうした音声認識サービスが今後広がるのではないかと言われていて、「Amazon Echo」はそのなかでも最注目のサービスと言われている。2016年にはGoogleも同様のサービスを発表した。

日本企業も1社、スマートロックをつくっているQrioという会社をご紹介したい。こちらはソニーとベンチャーファンドのWiLが合弁で設立した会社になる。プロダクトはスマホで鍵の操作ができて、かつFacebookやLINEで鍵のシェアも行えるというものになる。なので、友人や訪問介護の方が来たときだけ鍵を開けるといったことも可能になる。今は同じようなスマートロックの事業モデルに他のベンチャーも2~3社参入していて、特に不動産会社とのアライアンスを通じて普及を図るというケースが見受けられる。たとえば賃貸物件の内覧を行う際、今は仲介会社の人が鍵を取りに行ったりしていると思う。そこで、「スマートロックなら鍵を取りに行かなくても内覧できます」といったことを、アライアンスを通じて普及させていたりする。

最後にもう1つ。これはご覧になった方も多いと思うけれども、乾燥した衣服を折りたたむというフェーズまで自動で行ってくれる洗濯機だ。これはセブンドリーマーズという会社が出している。衣服の画像を解析する技術と、認識した衣類を折りたたむロボティクス技術を掛け合わせたプロダクト。今はパナソニックや大和ハウス工業などがパートナー企業となって製品化に向けて動きはじめている。

さて、先ほど申しあげた通り、Smart Home Techの領域は、期待されてはいるもののなかなか普及していない。そこで、こちらも普及に向けたハードルということで課題を3点挙げたい。まずはマネタイズ。今は多くのケースが、「まあ、あったらいいかな」と皆が思うものの、「別になくてもいいや」という感じの状況なのだと思う。洗濯物を折りたたんでくれる機器があればいいなと思いつつ、果たして高いお金を出しても買いたいものなのか、と。自動で温度設定をしてくれたらいいなとは思いつつ、「まあ、できなくてもいいんじゃない?」と思われてしまう状況であり、そこでお金を払って1歩踏み出すような事例をつくることができていない。そこでプロダクトを無料にして広告モデルのようなビジネスモデルに転換するというのは、可能性としてはあるし、そこはまさにGoogle等が狙っているところだと思う。ただ、今はそこまで辿り着いていない。そのあたりが1つ目の課題だ思う。

で、2つ目がプロダクト・ライフサイクルの長さ。そもそも、家のなかをいじる機会がそれほど多くないない。特に日本の場合は一生に一回というケースが多いこともあって、なかなか普及しないというのも1つのハードルだと思う。そこでスマートホーム化の機会を創出していく必要がある。リノべーションやリフォームといった機会は面白い機会だと思う。

そして最後の課題が規格の統一化。今は温度調節やセキュリティ等々で、いろいろな会社がいろいろなものを出している。それで規格が統一されていないため、まとめて何かをやるということがなかなか難しい。理想はスマートフォンですべてやれるような規格だと思うけれども、そこが進んでおらず、課題の1つだと思う。そこでAmazonやAppleやGoogleが統一規格やプラットフォームの構築を狙っているけれども、そうした覇権争いの勝負もまだまだついていない状況だ。

一方で日本のメーカーを見てみると、残念ながら、個社でいろいろやってしまっている状況だと思う。最後に洗濯機の事例をご紹介したのはその意味もある。プロダクト自体はすごく良いと思う。ただ、それが全体構想の上に成り立っていない。そうしたケースが、特に日本企業の場合は多く見られると思う。従って、規格の統一化でどこが勝つかはまだ分からないけれども、そうした点で日本企業はもう一歩進めて頑張ってもらえたらよいのかなと思っている。
 

新着記事

新着動画コース

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース

オンライン学習サービス部門 20代〜30代ビジネスパーソン334名を対象とした調査の結果 4部門で高評価達成!

7日間の無料体験を試してみよう

無料会員登録

期間内に自動更新を停止いただければ、料金は一切かかりません。