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夜と霧

投稿日:2008/04/25更新日:2019/04/09

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ナチスの強制収容所に入れられた精神医学者、V・E・フランクルの体験記で、20世紀を代表する哲学、思想、自己啓発の書としても名高い一冊を紹介する。極限状態の中で「人間の本質」や「生きる意味」について考え抜いたフランクルの思想は、多忙な日々を過ごすベテラン管理職から、いままさにビジネスの世界に入ってきた新入社員に至るまで、多くのビジネスパーソンの心に深く響くはずだ。グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。

本書は、ユダヤ人であり精神医学者、哲学者である著者が、自身のナチス強制収容所における体験をつづったものだ。人間の尊厳はことごとく無視され、いつ病や衰弱で死ぬかもわからない。こうした極限状態において著者は、人間の本質とは何か、人間は何のために生きるのかを徹底的に考え抜く。なぜナチスの人々はここまで残虐になれるのか。死んでいった人間と生き残った人間の差はどこにあったのか――。

フランクルが着目するのは、人間の持っている「良心」や、可能性を信じ自ら決定・選択する「自由意志」である。人間はいつもいつも、フロイトが指摘するような低次元の欲求・衝動に突き動かされて行動するわけではない(それでは動物と同じだ!)。良心、そして高次の自由意志こそが、人間だけが持つ強さであり、人間にプログラミングされているものだ、と考える。そして、これらは、死しか未来がないように思える強制収容所という極限状態でも発露されるものであることをフランクルは発見する。彼はこう言う。「人間とはガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りの言葉を口にする存在でもあるのだ」。

良心や自由意志を発露できる強い人間は、さまざまなことに(積極的な)意味を見出し、自分の人生を強く肯定する。無為に人生を浪費する人々、あるいは生きる意味を見失って自棄に走る人々と、自分が生きる意味を考え、さまざまなイベントに意味を見出す人間の差は極めて大きい。言葉にしてしまうと平板に響いてしまうかもしれないが、フランクルの冷徹で、しかしながら楽観的(!)な筆致は、こうした当たり前だが重要なことを読者に考えさせて余りある。たとえばフランクル自身は、いつか自分が大学で強制収容所の体験について講義をすることをイメージしながら日々を生きる。そうした意味づけが、彼を生へと駆り立てる。彼は書く。「人間が生きることには、常にどんな状況でも意味がある、この存在することの無限の意味は苦しむことと死ぬことをも含む」。

極限状態においても人生の意味を考え続けたフランクルに比べると、現代の多くの人間は、自分の人生に肯定的な意味づけができていないように思える(自分自身、自戒も込めて)。強い人間だからこそ自分に向き合い、意味をしっかり考えられるという考え方もあるだろう。しかし、個人的には、自分の生きる意味を考えるからこそ強くなれるという気がしている。

本書は強制収容所という過酷なシーンを描いている。そのため、時々気が滅入りそうになる箇所もあるが、最後には人間の持つ可能性、強さ――運命に翻弄されない、内面的な強靭さや誇り――を感じられ、温かい気持ちになれるはずだ。ぜひ、多くのビジネスパーソンが、自分の生きる意味をしっかり考え、内面的な強靭さを増すきっかけとしていただければと思う。同時に、自由を与えられていることの幸運と、自由であるが故の悩みや責務についても想いをはせてみてほしい。

また、フランクルの講演集『それでも人生にイエスと言う』(春秋社)を合わせて読むことをお勧めする。フランクルの思想をより深く感得することができる。

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